【登場人物】[2:1] ※約40分
■COCO:(♀)ジャズ・クラブ「FIVE NOTE」の歌姫。28歳。
赤ん坊の時に孤児院前に捨てられ、孤児院育ち。歌うのが唯一の癒しで、教会や路上で歌いチップをもらっていた。噂を聞きつけたジャズ・クラブ「FIVE NOTE」のオーナー「エド・グレイ」がスカウト。COCOを引き取り、ジャズクラブの歌姫に育てる。
■エド:(♂)エド・グレイ。45歳。「FIVE NOTE」のオーナー。昔、タップ・ダンサーだったが、現在は引退。黒いスーツ。がっしりした体型。ライトカラーサングラスをかけている。
※スタッフのブラックと、バンドマン・ビリー兼ね役。
※ブラックは、FIVE NOTE内で何かを探して怪しい行動をしている。
■ブルー:(♂) ブルー・クライン。25歳。ある目的で、客として「FIVE NOTE」にやってくる。
※「TAKE FIVE」について
1.「5分間の休憩を取る」を意味する慣用句
2.ジャズの曲名『Take Five』
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【本編】
―FIVE NOTE(ジャズ・クラブ)前に立つブルー
ブルー(M):「FIVE NOTE(ファイブ・ノート)」
前回はじっくり観察できなかったからな。
今日はしっかり見ていくぞ。
ライブハウスの形は……「ペンタゴン(正五角形)」か?
それぞれの角に5つ、監視カメラがついてる。
―入店
ブルー(M):金属探知機……
-JAZZが流れ、女性シンガーが歌っている。
スタッフ:いらっしゃいませ。メンバーズカードをお持ちでいらっしゃいますか?
ブルー:あ、ああ、はい。……と、これ。
―渡す
スタッフ:失礼いたします。
―パソコンで照会
スタッフ:ブルー・クライン様ですね。
ブルー:はい。
スタッフ:カードご提示、ありがとうございました。
ご予約の席にご案内致します。
ブルー:どうも。
スタッフ:お席はこちらでございます。
ブルー:ありがとう。
スタッフ:こちらドリンクメニューです。
ブルー:そうだな……。「JAPANESE SAKE」はある?
スタッフ:はい。こちらです。
ブルー:ん~、じゃあコレを。
スタッフ:かしこまりました。
―スタッフ去る
ブルー(M):中にも5つ、監視カメラがついてる。
―JAZZシンガーを見る
ブルー(M):COCO(ココ)……
【間】
ブルー(M):艶やかなブロンドのヘア、吸い込まれそうなブルーアイズ。
息遣い交じりの官能的で、素晴らしい声。
しなやかな5オクターヴの声の持ち主。
バンドは……、
ピアノ、トランペット、ドラム、ベースのカルテット(quartet)
ん?COCOがサックス吹き始めた。
前回は吹いてなかったら気がつかなかった……。
へぇ……、これでクインテット(Quintet)か。
客も、COCOに釘付けだ。
スタッフ:お待たせ致しました。
ブルー:どうも。
いまのこの曲は―?
―スタッフに曲名を聞きかけたところで、曲が終わり、COCOが話し出す
COCO:「thank you, everyone」
楽しんでいただけてるかしら?
―客、盛り上がる
COCO:ありがとう。
いまの曲は、みなさんご存じ『My Funny Valentine』よ。
この中に、今晩、アタシの「little valentine(可愛いヴァレンタイン)」になってくれる人はいるかしら?
あら、こんなにたくさん?
うれしいけど、これじゃあ選べないわ。残念。
でも、後でテーブルをまわるから、その時は冷たくしないでね?
その前に、メンバーを紹介させて。
「(on)トランペット、ジム・ゴールド」
―拍手
「(on) ドラムス、アーロン・クーパー」
―拍手
「(on) ベース、ロジャー・ブラウン」
―拍手
「今月のスペシャルゲスト。
(on)ピアノ、ビリー・ホワイト」
―拍手
そして、サックス&ボーカルは、アタシ、COCO―
―客、一段と盛り上がる
COCO:ありがとう。
次の曲で、いったん休憩よ。『Take Five』
―拍手
―「Take Five」演奏
ブルー:ペンタゴン、クインテット、5オクターブの歌姫、Take Five-
―演奏終了
―歓声と拍手
COCO: 「Thank you.」 「Gracias.」 「Merci.」「Grazie.」 「ありがとう」
ゆっくりしていって。
(バンドマンに)OK. high five
―バンドマンとハイタッチ
COCO:(バンドマンに)「ビリー、いいグルーブ(groove)だったわ。まるでオスカー・ピーターソンみたい。ウチの正式メンバーになってよ」
ビリー(バンドマン):ギャラ次第だな。
COCO: エドに言っとくわ。ok,Let's take five.
―休憩
ブルー(M):(拍手しながら)最高に魅力的だ。
歌姫は、ナンバー「5(ファイブ)」がお好きなようだな。
……客席をまわってる。
おいおい、あのハゲ親父の額にキスしたぞ?
なるほど、それでチップをもらってるのか。
―そこにエドがやってくる
エド:失礼いたします。お客様。
ブルー:はい?
エド:私、このジャズ・クラブのオーナー、「エド・グレイ」と申します。
ブルー:どうも。
素晴らしいクラブですね。この酒もうまい。
エド:ありがとうございます。
お客様は、こちら初めてのご来店でいらっしゃいますね?
ブルー:いや、メンバーズカードを持っていますが……。
エド:当クラブは紹介制となっておりまして―。
どなたかのご紹介ですか?
ブルー:ああ、はい。
エド:失礼ですが―?
ブルー:ああ、レオン・マイク。
彼が常連で、いい店だと聞いていたので、前回一緒に―
エド:いらしては、いない。ですよね?
ブルー:……調べ済み、ですか(ため息)
レオンと来るつもりだったのですが、急な仕事が入って、僕は来られなかった。
その時、レオンが僕のカードを作ってくれたんです。
よくないですよね。すみません。
エド:なるほど、わかりました。
スタッフの落ち度でもありますので、今回は特別に。
ブルー:ありがとう。
COCO:こんばんは。
ブルー:あ……
COCO:エド、どうしたの?この方に何かあって?
エド:少々、確認を……。
ブルー:俺が悪いんです。
今日来たのがはじめてなのに、先に、メンバーズカードを作ってもらって―
COCO:あなた、前に来てなかった?
ブルー:え……?
COCO:ステージから見たもの。左端の角に座ってた。
今日は、真ん中の角。
次来るときは、右側の角に座るつもり?
ブルー:……。
COCO:もしかして双子か、そっくりな兄弟とか?
ブルー:いや、なんというか……。
はぁ……、白状します。
ここには昔、父と伯父がよく来ていたそうで、その伯父の息子が、レオン。
従兄弟です。
レオンも、伯父とここに来たことがあって―
僕とレオンは、よく似ているんです。
こういう暗い場所だと見分けがつきにくいらしい。
前回は、彼のメンバーズカードを使わせてもらいました。
どうしても、噂の歌姫をひと目見たくて……。
COCO:じゃあ、そのレオンと一緒に来たらよかったのに?
ブルー:ハハ……。あ~、あいつはいま、すぐには出られない場所にいまして……。
COCO:……? 何か”おいた”でもしたのかしら?
ブルー:まぁ、なんというか……
エド:……
COCO:ちょっと、エド?
貴方ただでさえ、体格がよくて、強面なんだから、
そんなんじゃお客様が来なくなるわよ?
いいじゃない。
ちょっとズルしちゃったけど、これも紹介になるんじゃない?
ブルー:……(気まずい)
エド:……(疑っている)
COCO:あら、これ「JAPANESE SAKE」?
あなた、飲めるの?
ブルー:あ、ああ。好き、です。
COCO:んん?(ブルーの顔を覗き込む)
あなた、日系?
ブルー:そ、そうです。祖父が日本人で……
COCO:へぇ。その瞳の色、素敵ね。
ブルー:あの……
COCO:ん?
ブルー:か、顔が近いです……
COCO:……ぷ、かわいい。
エド:COCO、お客様をからかうのはよせ。
COCO:あら、エドなんか、睨んでたくせに。
ブルー:あの……、今日は、失礼します。
COCO:どうして?機嫌を損ねちゃったかしら?
まだ何も食べてないじゃない。
エド、何かサービスして差し上げなさいよ。
ブルー:いや、いいんです。
僕がズルしちゃったので……。
エド:では、出口までお送りいたします。
COCO:ちょっと、エド!
エド:お前は黙っていろ。オーナーは俺だ。
どうぞ。
ブルー:はい……
COCO:残念。
気にしないでまた来てね。待ってるから。
ブルー:はい。すいません。
COCO:そういうとこが、日系っぽいわね。ふふ。
bye-bye, cute puppy(可愛い子犬ちゃん)
―ブルー、ライブハウスから出る。
ブルー:ふぅ。焦った……。
かなり厳しいな。
特に、あのエドって男。
カラーサングラスの奥の目の光り方が尋常じゃない。
でも、俺はあきらめねぇ。
―数日後
COCO:あら、来てくれたの?puppy。
ブルー:その呼び方はやめてください……。
俺は、ブルーです。ブルー・クライン。
COCO:ブルー……。へぇ。
ブルー:この前は、俺が悪かったとはいえ、途中退散でしたから、
今日は全部堪能したくて。
COCO:うれしい、もう来てくれないのかと思ってたわ。
エドに睨まれると、来なくなるお客様もいるから。
あの人、怖いでしょう?ごめんなさいね。
ブルー:ハハ……、確かに威圧感、あ、いや、迫力はありますね。
でも、渋くてクールです。
COCO:ここだけの話、エド目当てで来るお客様もいるのよ?
ブルー:確かに、女性にモテそうだ。
COCO:男性にもね。
ブルー:え……
COCO:あなたは?
ブルー:俺は、ストレートです!
COCO:じゃあ、アタシの方が好き?
ブルー:えっ……
COCO:答えてくれないと、エドを呼ぶわよ?
ブルー:ちょっ……!まいったなぁ。からかわないでくださいよ。
COCO:どう?
ブルー:う……、そりゃ、貴女はとても魅力的です……
COCO:ふふ……。なぜかしら、アタシ、あなたにとても興味があるの。
ブルー:それって―
COCO:だって見て?(客層)
あなたみたいに若い男性が、こんな紹介制のライブハウスに来て、ひとりで悠々とお酒を飲んでるなんて、そうそういないわよ?
シルバーグレイも好きだけど、久しぶりに若い男性が来ると、ドキドキしちゃう。
ビリー(バンドマン):COCO、ステージがはじまるぞ。
COCO:もう?
(ため息)また邪魔がはいったわね。
ブルー、今日は最後まで聞いて行ってね。
ブルー:はい。楽しみにしてます。
COCO:(耳打ち)休憩になったら、アタシの楽屋にきて?
5曲歌う予定よ。
ブルー:え?
COCO:スタッフに「COCOに呼ばれた」って言えば、通してくれるわ。
ブルー:それって……
COCO:(耳打ち)待ってるから。Candy(キャンディー:恋人の比喩)
―COCOステージへ
ブルー(M):あのCOCOが、俺に……?
―客席から拍手
COCO:お待たせ。みんな楽しんでいってね。
(メンバーに)ねぇ1曲目、ちょっと変えていい?
♪『You’d Be So Nice To Come Home To』
(ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ)
ブルー(M):コール・ポーターか。スタンダードだな。
"愛する人が自分のもとに戻って来て欲しいと願う女心"の歌。
……本気で俺を誘ってるのか?
COCO:さぁ、次で休憩よ。
♪『Candy』
ブルー(M):そのつもりなら、利用させてもらうだけだ。
―スタッフへ
ブルー:COCOに呼ばれたんですが……
スタッフ:……わかりました。どうぞこちらです。
ブルー(M):カーテンの向こう……。
指紋認証で開くドアか。
スタッフ:こちらでお待ちください。
ブルー:え、入っていいんですか?
スタッフ:どうぞ。
―スタッフ去る。
ブルー(M):エドってやつより、やべぇ雰囲気のスタッフだな……。
丁度、ステージの裏って感じか。
控室というより、プライベートルームだな。
監視カメラなし、と。
ん……?香りがする。これは確か―
なんだったかな。懐かしい香りだ。
ベッドも置いてある。仮眠用か……?
まさかここで―。
……オヤジばかりの相手じゃ、若い男の身体も欲しくなるのか?
わからんが、もしその気なら、丁度いい。
仕掛けてやる。
【間】
ブルー:……遅いな。
―ノック音
ブルー:はい。
―ドア開く
スタッフ:失礼いたします。伝言です。
「アンコールが入ったので、あと15分ほど待ってほしい」とのことです。
ブルー:わかりました。
スタッフ:それでは―
ブルー:あの。
スタッフ:はい。
ブルー:余計なお世話かもしれないですけど顔色悪いですよ。大丈夫ですか?
スタッフ:……。問題ありません。お気遣いいただきありがとうございます。
ブルー:いや……。
あ、えーと、何かアルコールを。
スタッフ:何がよろしいでしょうか。
ブルー:そうだな……。
赤のハーフボトルワインを。
おススメで、まかせます。
スタッフ:かしこまりました。
―スタッフ去る
ブルー(M):あと15分か。
―部屋をぐるりと見まわして
ブルー(M):まさか、この部屋にはないよな。
ちょっと探してみるか。
―ブルー、COCOの部屋を探る。
ブルー:んー。さすがにないか……。
いったいどこにあるんだ。
エド:おい。
―エドが入口に立っている
ブルー:うわっ!!え、エド……さん。どうも。
エド:どうも、じゃねぇ。ガキが。何してやがる。
ブルー:いや、COCOに呼ばれて―
エド:んなことは、わかってんだよ。
そうじゃなくて、いま「ヤサガシ」してただろうが。
おまえ、やっぱり泥棒か。
ブルー:ち、違いますよ。
エド:ごまかしてんじゃねぇぞ!!
―エド、ブルーの胸倉をつかむ。
ブルー:ぐっ!!
エド:何探してたんだ、言え!!
ブルー:く、苦しいっ……!は、離して……くれ……!!
ブルー(M):この……馬鹿力……、くそ、抜け出せねぇ。
だったら……
―ブルー、エドのズボンのベルトを外す。
ブルー:くっ!!
エド:こいつ、ベルトを外しやがった!くそ!
―エドの力が少し抜ける
ブルー:ぷはっ!!………ゲホゲホッ!!
こんの、くそオヤジがぁ!
―殴りかかるブルー
―が、エドに腕を捕まれる
エド:おいおい。なんだ?このパンチは。
ゆっくり過ぎて、ハエでもとまりそうだなぁ。
ブルー:くっそ!
―瞬間、エドに両手をネクタイで縛り上げられ、二人ともベッドに倒れこむ。
エド:むぅ!
ブルー:うわっ!はぇぇ……っ!(速い)
はぁ、はぁ、はぁ……
足もビクとも動かねぇ……
COCO:ちょっと、アタシの部屋で、そういうプレイするのやめてくれない?
エド/ブルー:COCO……!
COCO:ストレートって言ってたくせに。
ああ、それとも、エドがブルーを気に入ったのかしら?
エド/ブルー:違う!!
COCO:もうやめなさいよ。アタシのベッドが乱れるじゃない。
パパ、足技かけないで。ブルーの足が折れちゃうわよ。
ズボン落ちそうだし。みっともない。
―エド、起き上がり、乱れた服装をなおす
エド:くそっ……
ブルー:え、パパ?!
COCO:あら、ブルー。いい姿勢ね。このままアタシとスル?
ブルー:な……っ!!こういうプレイは嫌いだ。
はやく手首のネクタイ、外してくれ。
COCO:はいは~い。
ブルー:おい!外すのは、オレのシャツのボタンじゃねぇから!
COCO:ジョークよ。
ああ、それとも、このまま警察にお世話になっちゃう?
従兄弟のレオンと感動の再会とか?
ブルー:勘弁してくれ……。
いててて……。
COCO:どう、パパ。アタシのトラップは。
エド:まぁまぁだな。
ブルー:えッ……
COCO:アンコールが入ったといえば、動くと思ったのよね。
5分、10分あれば盗めるでしょ、プロなら。
エド:お前が怪しいのはすぐわかったが、目的がわからなかったからな。
お前は「ブルー」じゃなくて「greenhorn(グリーンホーン)」=「未熟者」だ。
ブルー:くそ~、やられた。
COCO:日本では、グリーンをブルーって言うらしいわよ?
エド:ああ?
COCO:なんでも、瑞々しい緑色の野菜や新緑などを“青々としている”と表現してきた民族だから、とか。
そうそう、果実も未熟だと青いから、人にも「未熟」という意味で「まだまだ青いな」って言うらしいわよ。
エド:相変わらず日本が好きだな。ウンチクは結構だ。
COCO:一度行ってみたいわ。ねぇ、パパ。いいでしょ?
エド:そのうちな。
COCO:いっつもそれね。もう。
―啞然と二人のやり取りを見ていたブルー
ブルー:あの……、聞きたいことが山ほどあるんですけど……。
二人は親子なんですか?
それとも、「そういう関係」?
COCO:この人に拾われた。
エド:俺が拾った。以上だ。
ブルー:いや、できれば、もうちょっと詳しく……。
COCO:アタシは、赤ん坊の時に孤児院前に捨てられたの。
「COCO」と「ラッキーナンバー5」というメモと、「シャネル N°5(シャネル・ナンバー・ファイブ)」が一緒に置かれていたらしいわ。
ブルー:……あ、ガブリエル・ココ・シャネル!
COCO:それに、ちなんだのかわからないけど。
彼女みたいに逞しく生きろと言いたかったのか、彼女のラッキーナンバーが「5」だったとか?
どんな事情で捨てたか知らないけど、アタシはそれに縛られて育ったってわけ。
ブルー:この部屋の香りは、「シャネル N°5」か……。
COCO:懐かしいでしょ。アタシはつけないけど、これを「ママの香り」だと思ってるわ。
で、アタシは歌うのが唯一の癒しで、教会や路上で歌ってチップをもらっていたの。
そしたら、こわ~いおじさんがやってきて―
エド:あんときは、まだ「お兄さん」だ。
COCO:そうね。素敵なお兄さんだったわ。
(咳払い)
こちらにいらっしゃる、ジャズ・クラブ「FIVE NOTE」のオーナー「エド・グレイ」様が―
エド:ちゃかすな。
COCO:アタシを引き取り、ジャズクラブの歌姫に育ててくれたってわけ。
ブルー:はぁ~……。
COCO:エドは当時、タップダンサーだったのよ。素敵だった。
エド:おい、俺のことは言うな。
COCO:いいじゃない。ここまでたどり着いた彼に教えてあげましょうよ。
どうせ盗めやしないんだから。
ブルー:え……。
エド:ダメだ。
ブルー:……いまは、踊ってないんですか?
エド:(睨む)
オヤジは、潔く引退しただけだ。
COCO:あら、フレッド・アステアは、55歳頃まで踊ってたわ。
エド:オレが好きなのは「ビル・ボージャングル・ロビンソン」だ。
COCO:「"Mr. Bojangles(ミスター・ボージャングルス)」!!
さしずめ、パパは、「サミー・デイヴィスJr.」ってとこね。
左目を失明(して……)
エド:(被せて)おい!!
ブルー:え、もしかして片目、見えないんですか……?
エド:余計なことを言うなー
―と、同時に、ピストル発砲音が聞こえる
COCO:キャッ!!
ブルー:ホールから?!
エド:お前らはここにいろ!
―ドアを閉めて、ホールに向かうエド
COCO:パパ!!
―COCOを引き留めるブルー
ブルー:待て!
COCO:離して!!
ブルー:COCO、言う通りにするんだ。
COCO:でもっ……!!
ブルー:大丈夫だ。
COCO:なんでそんなことがわかるのよ!
ブルー:わからない。けど、エドを信じろ。
―怒鳴り声、銃声などが聞こえる。
COCO:怖い……。
ブルー:……(黙って抱きしめる)
【間】
―ベッドに腰かけ、COCOの肩を抱いているブルー
ブルー:……静かになったな……
COCO:静かすぎて怖いわ……
―エドが戻ってくる
COCO:パパ!
―エドに抱きつくCOCO
エド:……大丈夫だ。
COCO:怪我は?怪我はない?
エド:ああ。
―エド、COCOの額にキスする
ブルー:どう、なったんですか……
エド:ブラックだ。やりやがった。
ブルー:スタッフの?
エド:最近、おかしいことが続いてた。
入口の金属探知機が外れていたり、監視カメラが壊れていたり……
お前を勝手に会員にしたのもそうだ。
内部犯行だろうと警戒していた。
ブルー:あいつ、顔色がおかしかった……
COCO:ブラックが……
エド:あいつも何かを探していたようだが、見つからなくてイライラしてたんだろう。
ドラッグに手を出したようだ。
わめいて、発砲しやがった。
丁度、客が引いた時だったからよかったが―
COCO:メンバーは?
エド:ビリーがやってくれたよ。
頼んでおいてよかった。
ブルー:ビリー……。ピアノマンじゃなかったんですか。
エド:セキュリティサービスを雇っていた。
内部にバレないように、バンドメンバーとして潜りこんでもらっていた。
COCO:ブラックは……、死んだの……?
エド:オレとビリーで抑え込んだんだが、
「俺は何にも染まらねぇ!」
そう叫んだあと、自分で自分の頭をぶっぱなしやがった。
ブルー:……ブラック。
ーサイレン
COCO:警察……
エド:こうなっちまったら、呼ぶしかない。
それに、こちらは何も悪いことはしていない。
ああ、もうひとり、未遂犯がいるか。
ついでに引き渡しとくか?
なぁ、グリーン。
ブルー:ブルーだっ!
何も盗んでねぇし。
ここには監視カメラもない。
アンタが見たっていう証言だけだ。
COCO:アタシが見たのは、パパとブルーが絡み合ってるとこだしねぇ。
で?アナタは、何を探していたのかしら?
エド:白状しろ。
でねぇと、ほんとに引き渡すぞ。
ブルー:……「ブルーダイヤモンド」
COCO:あら。
エド:……
ブルー:あるんだろ?
数ある宝石のなかでも、価値が高いダイヤモンド。
そのなかでも、最も価値が高いのが「ブルーダイヤモンド」だ。
昔は、ブルーダイヤモンドが採掘されたとしても、
一般の市場には出回らず、
「人生で一度見られただけでも幸運」と言われたほど希少性が高かった。
特に「ファンシーブルー」と呼ばれる一定以上の濃い青のダイヤモンドは、
コレクターの間でかなりの高値で取引されている。
エド:なんで、それが欲しいんだ?
ブルー:なんでって……、そりゃ、そこにブルーダイヤモンドがあるから。
エド:は?
COCO:ぷはっ!(吹き出す)
ブルー:なんだよ!
エド:お前は、登山家か。
COCO:ふふふ……。
「なぜあなたはエベレストに登りたいのですか?」
「"Because it's there."(そこに(エベレストが)あるからさ)」
ブルー:ウチの家系は代々、泥棒家業をしてんだよ。
エド:どんな家系だよ……
COCO:それで、あなたの従妹も、いまは刑務所入り?
ブルー:……ああ。
エド:情けねぇなあ。
他にもっとやることあんだろ。
ブルー:何回か成功するとダメなんだ。
ドラッグのようになかなか足抜けできない……
COCO:困った子ねぇ。
エド:「呪いの石」と呼ばれる世界最大のブルーダイヤモンド「ホープダイヤモンド」を知ってるか。
ブルー:もちろん。
その美しさに魅入られた所有者が、次々と不運な死を迎えた……
エド:持ち主を破滅に追い込んでは、また次の持ち主の手に渡る「呪われた宝石」
最も有名な所有者は、ルイ16世とマリーアントワネット。
いまは、「スミソニアン自然史博物館」に展示されている。
どうせなら、そういうとこに忍び込め。クソガキ。
ブルー:おっさん!オレをクソガキ扱いすんのはやめろ。
あるんだろ。ここに。
せめて見せてくれよ!
エド:しらんな。
ブルー:ここにあるのはわかってんだよ。
ここに……
ここ?
そうか!
君の名前は、日本語なんだ。
日本語で「here」は「ここ」と言うんだ。
君は、赤ん坊の時に孤児院前に捨てられたって言ってたな。
「COCO」と「ラッキーナンバー5」というメモと、「シャネル N°5」が一緒に置かれていた。
ブルーダイヤモンドには「幸福を願う」や「永遠の幸せ」という意味がある!
なぜ、君を捨てたのかはわからないが、もし、それを「呪いの石」と勘違いした母親が、
不幸に見舞われるのをおそれて……。
一緒にブルーダイヤモンドもあったはずだ!
そうだろ!
COCO:……なるほど?なかなか面白い推理ね。
泥棒をやめて、探偵にでもなったら?
ブルー:当たりか?!
COCO:アタシは、あの孤児院に捨てられた「5番目の孤児」
「COCO」というメモがあったのは確かだけど、
孤児院の院長先生が、アタシがハイスクールにあがる時、
ココ・シャネルのようにたくましく、自分で道を切り開けるよう、
「ラッキーナンバー5」と「シャネル N°5」をアタシにくれたの。
ブルー:え?う、嘘だったのかよ。
でも、「ナンバー5」にこだわってるじゃねぇかよ。
COCO:そういう演出も、エンターテイナーには必要なのよ。
それが噂になって、客がくる。
でも、ラッキーナンバーをもらった後、エドと出会ったの。
それってラッキーじゃない?
ブルー:なんだよ……(溜息)
COCO:「ブルーダイヤモンド」まで、たどり着いたのは褒めてあげてもいいわ。
エド:COCO、これ以上余計なこと言うな。
こいつら泥棒一家が押し寄せてくるとめんどくせぇ。
さて、こいつをどうするか……
ブルー:な、何する気だよ。拷問か?監禁か?
エド:こちとら、犯罪集団じゃねぇんだよ。
純粋に、客に楽しんでもらってんだ。
そうだな……。
ビリーと、ブラックがいなくなった。人手不足だ。
お前は、ここで働け。
ただし、給料はなしだ。
ブルー:ただ働き?!冗談じゃねぇよ!
エド:いつかブルーダイヤモンドが見つかるかもしれねぇぞ。
そして、うまくいけば、娘をやってもいい。
COCO:ちょっと!勝手にそんなこと言わないでよ。
ブルー:COCOを?
エド:石と女、どっちが好きだ?
ブルー:……
COCO:失礼しちゃう。悩んでるじゃない。
ブルー:あるんだよな?
エド:あ?
ブルー:ここに「ブルーダイヤモンド」が。
エド:……他のヤツにとられたくないだろう?
ブルー:そりゃそうさ。
もちろん、COCOもな。
COCO:アタシをモノ扱いしないで!
ブルー:OK。「用心棒兼スタッフ」として、いてやるよ。
エド:いてやる?
口のへらねぇガキだな。
オレよりクソ弱かったくせに。
COCO:まぁこれで、5つのカラーがまた揃ったってことになるわね。
エド・グレイ、ジム・ゴールド、アーロン・クーパー、ロジャー・ブラウン。
そして、
ブルー・クライン。
これで、また「FIVE NOTE」ね。
ブルー:「NOTE」……音?
COCO:いろんな音色が集まって、一つになるの。
それをお客様にお届けするのがアタシたちの仕事。
お客様のハートを盗むのよ。
エド:お前にそれができるか見ものだな。
ブルー:見てろよ。おっさん。
エド:これからはオーナーと呼べ。
生意気な口きいたら、容赦しねぇぞ。
ブルー:ハッ!
おっさんのファンだけじゃなくて、オレのファンも増やしてやるからよ。
これからは若い女も来るぜ。
COCO:悪いわね。ここのクイーンはアタシよ。
エド:制服は用意しておく。
ロッカールームは、廊下を出て右だ。
ブラックが使っていたところを使え。
ブルー:ええ、あいつの……?
エド:嫌なら、警察行きだ。
どんな手を使ってでも、ムショに送ってやる。
ブルー:ちっ、わかったよ。
エド:敬語。
ブルー:ぐっ……。わかり……ました。
COCO:わかったんなら、早くアタシの部屋から出てってよね。
ブルー:わかっ!……りました。
―出ていくブルー
COCO:いいの?
エド:気がつかんだろ。
仮にわかったとしても、盗れないからな。
しかし……
ああ、久しぶりに暴れたから、サングラスが汚れたな。
ーサングラスを取る
COCO:パパ。その目、相変わらず素敵な輝きね。
エド:当たり前だ。
COCO:「人生で一度見られただけでも幸運」なのに、アタシは毎日見られてる。
こんなラッキーな女、この世にはいないわ。
エド:お前にしか見せないさ。
さて、2nd(セカンド)ステージの準備だ。
1曲目は何にするつもりだ?
COCO:そうね……
いろいろあったから……
『Take Five』で。
エド:いいチョイスだ。
♪BGM:『Take Five』
ー終ー
♪楽曲紹介
■Take Five
「テイク・ファイヴ」はポール・デスモンドが作曲し、デイヴ・ブルーベック・カルテットの1959年のアルバム『タイム・アウト(英語版)』に収録されたジャズ曲である。曲名の由来にもなった、珍しい5/4拍子の使用で有名である。
https://www.youtube.com/watch?v=ZpRmhNYjlKo
■My Funny Valentine
「マイファニーバレンタイン」は、1937年にリチャード・ロジャースとロレンツ・ハートにより作詞・作曲され、ミュージカル『Babes in Arms』(ベイブス・イン・アームス)で発表された。
https://www.youtube.com/watch?v=JVfeHN2lypE
■You'd Be So Nice to Come Home To
1943年の映画「Something to Shout About」のためにコール・ポーターが書いた人気曲
https://www.youtube.com/watch?v=YM0PhsP7ulk
■Candy
「キャンディ」は、アメリカ合衆国のジャズ・トランペット奏者、リー・モーガンが1958年に発表したスタジオ・アルバム。
https://www.youtube.com/watch?v=ap37EZe15TE