- 安藤 治(あんどう おさむ):隠れ家的なバー。Bar「La mia casa」(ラ・ミア・カーサ)のバーテンダー。落ち着いていて、相談しやすい人柄。
- 椎名 爽介(しいな そうすけ):イベント企画会社「Trova le stele(トラバ・レ・ステレ」勤務。冷静。頼れるチーフ。
- 篠原 サキ:椎名と同じチームで動いている。情熱的。少々感情的になりやすい。
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ーサキ、仕事終わり
サキ「あー、疲れた。またダメ出し。何回目よ!ほんと頭が固いんだから!飲んで帰りたい気分」
サキ「たまには違うところで・・・、この辺りで落ち着ける店がないかしら」
サキ「よし、検索!・・・あら、会社の近くに・・・。『La mia casa(ラ・ミア・カーサ)』?へぇ、ちょっと行ってみようかしら」
【間】
サキ「ここね。知らなかった。小さいけど、お洒落な感じ」
【SE:ドアベル】
【SE:店内BGM・JAZZ】
サキ「こんばんは。ひとりですけど、大丈夫ですか?予約制?」
安藤「いらっしゃいませ。大丈夫ですよ。どうぞお入りください」
サキ「よかった。カウンターでもいいかしら」
安藤「もちろんです」
サキ「会社の近くにこんなお店があったなんて知らなかったわ。最近はじめたの?」
安藤「そうですね、2年くらいでしょうか」
安藤「以前は小さな食堂で、ご夫婦で切り盛りされていたようですが、年齢的なこともあり辞められたそうです。そこをリノベーションしてバーにしました」
サキ「へぇ。とても落ち着いていていい雰囲気」
安藤「ありがとうございます。お客様にゆっくりしていただけるよう心がけています」
サキ「『La mia casa(ラ・ミア・カーサ)』って、イタリア語よね」
サキ「・・・ああ、『我が家』って意味ね」
安藤「はい」
サキ「何を頼もうかしら・・・。うーん、迷うわ」
安藤「こちらに来てくださったのは、どなたかの紹介ですか?」
サキ「ううん、検索よ」
サキ「わたし、近くの『トラバ・レ・ステレ』というイベント会社で働いているんだけど、次の企画がなかなか通らなくて。気分転換に新しいお店を開拓してみたの」
安藤「なるほど。『Trova le stele(トラバ・レ・ステレ)』ー星を見つけるーですね。存じ上げております」
サキ「ほんと?」
サキ「チーフは冷静でみんなの頼れる人なんだけど、その上がねー。頭がかたくって」
サキ「前例がないからダメだ、とか。採算はとれるのか、とか」
サキ「ったく、前例がないからやるんじゃないのよね」
サキ「で、私が話そうとすると、女は感情的だからって、話聞かないのよ!」
サキ「いつもならだいたい一発で通るのに、あんなにダメ出しされて・・・。ちょっと自信なくしちゃうわ」
サキ「はぁ・・・。何かおススメのカクテルないかしら?」
安藤「そうですね・・・。チャイナブルーはいかがですか」
サキ「チャイナブルー?どんなカクテル?」
安藤「ライチリキュールとグレープフルーツを合わせた、南国の海のような青が特徴のカクテルです」
サキ「へぇ。いいわね。じゃ、それお願い」
安藤「かしこまりました」
【SE:カクテルをつくる音(氷の入ったグラス、軽くステア)、テーブルにおく】
安藤「お待たせいたしました。チャイナブルーでございます」
サキ「うわぁ、きれいな色!」
サキ「(飲む)あ、ちょっと甘口かしら。独特の香りがするけど、クセがなくてさっぱりしてるわね!」
安藤「はい。果実系リキュールです。差し支えなければ、お客様の名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
サキ「あ、わたし、篠原 サキよ。えーと、あなたは安藤さん?」
安藤「はい。安藤 治と申します」
安藤「篠原様、カクテル言葉はご存知ですか」
サキ「カクテル言葉?・・・花言葉みたいな?」
安藤「そうですね。花言葉のように思いを伝えることができます」
サキ「じゃあ、チャイナブルーのカクテル言葉は?」
安藤「チャイナブルーには『自分自身を宝物だと言える自信家』という意味があります」
サキ「自分自身を宝物・・・」
安藤「篠原様は、ご自身の意見をしっかりと持っていらっしゃる、ポジティブで素敵な女性とお見受けしました。篠原様の魅力はそこにあるのではないかと」
サキ「・・・ありがとう。うれしいわ」
サキ「そう、そうよね。今回の企画も、自信があるの!絶対面白いイベントになるはずなのよ」
サキ「わかったわ。何度でもチャレンジしてみせるわ!」
安藤「その意気です」
サキ「このカクテルを飲んで、安藤さんと話したら元気でてきたわ!」
サキ「ねぇ、また来ていい?」
安藤「もちろんです。いつでもお待ちしていますよ」
サキ「ありがと!」
サキ「いろいろアイディアも浮かんできたから、家に帰って企画書見直してみるわ」
安藤「はい、私も応援しています」
【間】
【SE:ドアベル】
椎名「どうも」
安藤「椎名様、いらっしゃいませ」
椎名「ふう・・・」
安藤「おや?」
椎名「ん?何かおかしいかい?」
安藤「いえ。本日は何になさいますか」
椎名「そうだな・・・。ジン・トニックを」
安藤「かしこまりました」
【SE:氷の入ったタンブラー、ステア、グラスを置く音】
安藤「お待たせいたしました。ジン・トニックでございます」
椎名「ありがとう」
椎名「で、何が気になったんだい?」
安藤「今日の椎名様からは、何か強い意志を感じます」
椎名「安藤さんにはお見通しか。例の、カクテル言葉だろ?」
椎名「・・・そうだな、まぁそういうところだ」
椎名「企画が通らない、いや、横やりが入ったというのかな」
椎名「とにかく、ジャマが入ってね・・・。前例がないからダメなんだそうだ」
安藤「なるほど」
椎名「だが、わたしが諦めたらチームの士気も下がる」
椎名「気合いを入れ直そうと思っているところさ」
安藤「ジン・トニックには『いつも希望を捨てないあなたへ』というカクテル言葉もございます」
椎名「そう、だな」
椎名「確かに、希望を捨てちゃ終いだな。もう一度みんなとミーティングしてみるよ」
安藤「いつも前を向いていらっしゃる椎名様の姿勢。私も見倣いたいと思います」
椎名「そうかい?」
安藤「はい」
椎名「ありがとう」
【間】
【SE:ドアベル】
サキ「こんばんは!」
安藤「ああ、篠原様。いらっしゃいませ」
サキ「聞いて 聞いて!あの企画がついに通ったのよ!やったわ!」
安藤「それはおめでとうございます」
サキ「うちのチーフ、やっぱり最高」
サキ「私のミスもあったんだけど、さりげなくフォローしてくれるのよね」
サキ「ホント尊敬する!」
サキ「彼がいないとチームもまとまらないし、彼が掛け合うから頭の固いボスもOKを出すのよ」
安藤「なるほど。とても頼もしい方ですね」
サキ「そう、頼もしいの!(ちょっとトーンが落ちる)そうなのよ・・・(ため息)」
安藤「どうされましたか?」
サキ「・・・ん?ううん、なんでもない」
サキ「ねぇ、今日すごくきれいな満月よ。見た?」
安藤「はい、美しいスーパームーンですね」
安藤「昔は『不吉の前兆』とされていましたが、今では『見ると幸せになれる』と言われていますね」
サキ「そう、だから、すごく気持ちがいいの」
サキ「ねぇ、この前のカクテルすごくきれいなブルーだった」
サキ「またあんな色のカクテルがいいわ」
安藤「わかりました。それでは美しい満月の今宵に-」
【SE:シェイク、グラスを置く音】
安藤「お待たせいたしました。ブルームーンでございます」
サキ「うわぁ、きれい。素敵!」
安藤「甘いスミレの花の香りとレモンの酸味が特徴のカクテルです」
安藤「このカクテルに使用したバイオレットリキュールに『パルフェタムール』というフランスのリキュールがあります。フランス語でパルフェは『完全な』、タムールは『愛』で、『完全な愛』という意味があり、このリキュールを使用していることから、ブルームーンには『めったに遭遇しない出来事』、『幸福な瞬間』という意味があります」
サキ「まさにそう!今日の私の気分にぴったり!」
サキ「(飲む)すごくフルーティー!」
安藤「ありがとうございます」
サキ「・・・ねぇ、安藤さん」
安藤「はい」
サキ「うーん・・・」
安藤「篠原様、アドバイスはできないかもしれませんが、お話を伺うことはできます。私でよければ、ですが」
サキ「ありがと。私・・・、チーフのことが・・・」
安藤「はい」
サキ「今回のことでますます・・・」
サキ「でも、私と正反対の性格なのよね」
サキ「わたしは、ちょっと暑苦しいところがあるっていうか、押しが強いっていうか・・・」
サキ「同じチームだから気まずくなるのも嫌だし」
安藤「なるほど」
安藤「いまお出しした、ブルームーンですが―」
サキ「ちょっと待って・・・。私、最近カクテル言葉に興味がわいて、時々調べてるのよ」
サキ「たしかブルームーンって、他にも意味があるんじゃなかったかしら?」
安藤「はい。ブルームーンは、全く正反対の意味を持つカクテルです」
安藤「一つは『完全なる愛』、もう一つは『叶わぬ恋、できない相談』という意味があります」
サキ「えぇ〜・・・。ちょっと安藤さん・・・」
安藤「申し訳ありません。そのような意味でお出ししたわけではないのですが―」
安藤「代わりと言ってはなんですがサービスいたしますので、もう一杯いかがですか?」
サキ「え?いいの?」
安藤「はい」
サキ「いいカクテル言葉のを頼むわよ」
安藤「もちろんです」
【SE(氷の入ったタンブラー、ステア)、グラスを置く音 】
安藤「カシスソーダでございます」
サキ「これは飲んだことあるわ。・・・で、カクテル言葉はなにかしら?」
安藤「『あなたは魅力的』です」
サキ「やだー。うれしいこと言ってくれるじゃない!」
安藤「本当の気持ちですよ。篠原様、自信をもってください」
サキ「そうね・・・。ありがとう、安藤さん」
安藤「テキーラ・サンライズもおススメですよ。次回ぜひ飲んでみてください」
サキ「カクテル言葉は?」
安藤「『熱烈な恋』です。ここぞという告白のタイミングで使ってみたいカクテルですね」
【間】
【SE:ドアベル】
椎名「こんばんは」
安藤「椎名様、いらっしゃいませ」
椎名「この前の企画やっと通ったよ」
安藤「それはおめでとうございます」
椎名「私だけの力じゃない。チームみんなで頑張った成果だよ」
安藤「はい」
椎名「今回は、あいつの情熱にも助けられたな」
安藤「ほう。女性の方・・・ですか?」
椎名「ああ」
椎名「ちょっと感情的になることはあるが、チームのムードメーカーで欠かせない存在だ」
安藤「きっと素敵な女性なんでしょうね」
椎名「・・・そうだな」
椎名「コンテンツマーケティング、インフルエンサーマーケティングの活躍は目ざましいものがある」
安藤「バディ、というところでしょうか」
椎名「そうだな。バディ・・・か」
安藤「椎名様、今日は私からおススメのカクテルでもよろしいでしょうか」
椎名「ん?ああ、お願いするよ」
【SE:ステア、グラスを置く音 】
安藤「お待たせいたしました。ドライマティーニです」
椎名「これか。バーテンダーによって味わいが微妙に違ってくるカクテル-」
椎名「他の店でも飲んだが、安藤さんのが一番だよ」
安藤「ありがとうございます」
椎名「・・・で、何がいいたいの?」
安藤「カクテル言葉は『知的な愛』です」
椎名「・・・」
安藤「余計なことを申し上げるようですが、その女性を大切にされてください」
椎名「・・・ああ、そうだな」
【間】
【SE:ドアベル】
サキ「ここよ、ほら、入って!」
椎名「またムリヤリ・・・。お前、この店、知ってたのか」
安藤「いらっしゃいませ。おや、今日はお二人お揃いですか」
サキ「(安藤に小声で)この前はありがと!カクテル言葉、ぐっと来たわ」
サキ「ずっとモヤモヤしてたけど、そんなのわたしの性に合わない!今日、決戦よ!」
安藤「(小声で)それでは、テキーラ・サンライズでよろしいですか?」
サキ「もちろんよ!」
椎名「なに二人でコソコソ話してんだ?」
サキ「なんでもない、なんでもなーい。ね、安藤さん?」
安藤「(微笑んで)はい」
椎名「いつの間に、そんなに仲良くなったんだ?」
サキ「なになに?ヤキモチ?ほら、ここに座りましょ!」
椎名「今日はまたアクセル全開だな。」
安藤「失礼いたします。テキーラ・サンライズでございます」
サキ「ありがと!」
椎名「俺に注文権なし?」
サキ「だって、これキレイでしょ?」
椎名「ああ。綺麗なグラデーションだな」
サキ「でも、まだ色が変わるのよ。安藤さん、お願い!」
安藤「かしこまりました」
安藤「オレンジとグラナディン・シロップを混ぜるとさらに赤みが強い色になります。色の変化をお楽しみくださいませ。情熱的な色に変わるのが、テキーラ・サンライズの魅力です」
椎名「おお~」
サキ「ね、これ、明るくて情熱的な私にピッタリでしょ!テキーラ・サンライズのカクテル言葉は『熱烈な恋』なんですって!」
椎名「確かに」
サキ「どう?」
椎名「どうって、なにが」
サキ「わたしよ!わたし!どう?いい女でしょ?」
椎名「はぁ?・・・いや、まぁ否定はしないが、なんだいきなり」
サキ「じゃ、決まりね!」
椎名「だからなにが」
サキ「わたし、あなたが好きなの!いまから、あなたは私の彼氏に決定!」
椎名「そういう流れ・・・。ホントにお前は・・・」
椎名「そういうのは男から言わせろよ」
サキ「え?」
椎名「安藤さん。例のカクテルをお願いできますか」
安藤「かしこまりました」
【SE:シェイク】
安藤「お待たせいたしました。サイドカーでございます」
サキ「え、なに?用意してあったの?カクテル言葉は?」
安藤「はい、サイドカーのカクテル言葉は・・・」
椎名「『いつもふたりで』 ・・・だ」
Fin.