すくう~金魚の唄~【詩】

およぐ

およぐ

いきをする

ここがわたしの生きる場所


およぐ

およぐ

狭くても

ここがわたしの住む場所


およぐ

およぐ

息苦しい

ここがわたしの生きる場所


およぐ

およぐ

みんなとおよぐ

いろんな色の装いで


およぐ

およぐ

およぐだけ


生きづらい

ひとりになりたい

とびだしたい


***


むしあつい夏の夜

思いつめた顔で

のぞきこむ人


わたしをみつけ

手を差しのべる


すくう

すくう

すくわれる


世界がかわる

ひかりがかわる


かわる

かわる

あなたとともに


わらう

わらう

あなたとわらう


すくう

すくう

すくわれる


およぐ

およぐ

くるくると


あなたがいれば

なにもいらない


***


なのに

あなたは

つれてきた


ふくよかで

赤いリボンの

かわいいこ


すくう

すくう

わたしはまだら


みにくい

みにくい

わたしはまだら


赤いひらひら

目につくたびに

みにくいきもち

うかんでくる


みにくい

みにくい

みたくない


あの子の赤い

美しいドレス


きえて

きえて

わたしの世界から


きえて

きえて

なくなればいい


すると

あの子は

弱っていった


しずむ

しずむ

しずんでいく


わたしはそれを見ているだけ


***


あの人

慌ててあの子をすくいだす


わたしに背を向け

すくいだす


しずむ

しずむ

わたしもしずむ


あのまま小さな世界にいればよかった


そうだ

わたしも

そとにでよう


勇気を出して

いってみよう


きっと

きっと

大丈夫


力をこめて

跳ねあがる

空に向かって

跳ねあがる


(ぴちゃん)


———とべた


とべた

とべた

とびだせた


(ぱちん)


少し、痛い

少し、苦しい

からだのなかから

あつくなる


だけど

あたらしい世界に飛びたつときは

きっとこんな感じだよね


だいじょうぶ


だいじょうぶ


ゆっくり

ゆっくり

静まっていく


ほら、もうすぐ落ち着くはず



***


きこえる

きこえる

あなたの声


「キミが僕を救ってくれたんだ」


……すくってくれたのはあなただよ


すくう

すくう

すくってくれた


わたしも

あなたを

すくえていた?


次はもっと信じよう

どんな自分も愛せるように


あなたの手のひらにつつまれて

わたしはあたらしい旅に出る


あなたがわたしを愛してくれたから

どんな世界に行っても大丈夫


すくう

すくう

すくわれる———



【終】