すくう~金魚の唄~【朗読】

ここが私の生きる世界だと思っていた。

だけど、何かが物足りなくて、ここから出たいとも感じていた。

息苦しい。生きづらい。

私は仲間から離れて過ごしていた。


ある夏の夜、私をすくってくれた人がいた。

その人は、何か思いつめたような顔をしていた。


その日から、私はあの人と暮らすことになった。

あの人は、毎日いろんな話をしてくれた。

私をかわいがってくれた。

しばらくすると、あの人にも笑顔がふえてきた。


私の心も満たされていき、あの人の心の拠り所になれた気がした。

仲間がいなくても、ひとりのときでも、幸せだった。


なのに、あの人は「ひとりじゃ寂しいだろう」と新しい子を連れてきた。

私とはまるで違う、ふくよかで、愛らしく、

ロングテールの赤いドレスを纏った子。


自分が恥ずかしくなる。

私は斑で、小さくて、細い。


あの人との大事な時間が、奪われていく。


自分の中に、別の感情が湧いてくるのを感じる。

赤いひらひらが目につくたびに、

その醜い感情は、病のように私を蝕んでいく。


あの子のロングテールの赤いドレス……

なくなればいい。

私は、あの赤いものが目に入らないようにした。


すると、あの子は弱っていった。

あの人は、慌てて私とあの子を引き離し、つきっきりで看病した。


こんなはずじゃなかった。

私は……、私は、心も姿も醜い。


あの小さな世界で満足していればよかった。

夢のままにしておけばよかった。

そうすれば、こんな感情を知らずに生きていけたのに。


もう一度やり直したい。


今度は、勇気を出して、自分から出ていってみよう。

きっと大丈夫。息を整えて、力をこめて、跳ね上がる。


———飛べた。


少し苦しい。

けど、新しい世界に飛び立つ時は、きっとこんな感じだよね……?


息が少しずつ静まっていく。

ほら、もうすぐ落ち着く。

光に包まれていく。


あの人の声が聞こえる。

「どうして?!お前は僕を救ってくれたんだ! 死なないでくれ!」


……すくってくれたのはあなただよ。


でも、私も、あなたをすくうことができていたんだね。


次はもっと信じよう。もっと私からも愛そう。

どんな自分も愛せるようになろう。


あなたの手のひらにつつまれ、私は新しい旅に出る。

あなたが私を愛してくれたから、

どんな世界に行っても、きっと大丈夫だって、今なら言える。


【終】