【登場人物】[2:1]あるいは[1:1:1] ※菊千代・王子役 不問
■白雪姫/(N) あざとかわいい。
■勘兵衛(侍)七人の侍のリーダー。白雪姫にメロメロになる。
■菊千代(侍)/プリス王子:菊千代は白雪姫にメロメロになるが、ツッコミ役でもある。プリス王子:ヤンデレ。白雪姫にひとめぼれ。なんとか手に入れたいと画策する。
※シンデレラシリーズのスピンオフです。
1.シンデレラと二人の王子
2.シンデレラと二人の魔女
3.白雪姫とサムライ←★コレ
4.シンデレラと二人のプリンセス
※『七人の侍』(しちにんのさむらい)は、1954年に公開された日本の時代劇映画。監督は黒澤明、世界で最も有名な日本映画のひとつ。
登場人物の名前:勘兵衛(かんべえ)、菊千代(きくちよ)、勝四郎(かつしろう)、五郎兵衛(ごろべえ)、七郎次(しちろうじ)、平八(へいはち)、久蔵(きゅうぞう)の七人。全員だすと混乱するので、二人にしました。
※約30~40分
※語尾変更、アドリブ可。
※映画の内容と、このシナリオの内容は、全く関係ありません。「世界のクロサワ」→「世界のクロカワ」にしてあります。
-----【本編】-----
(N):ある国に、雪のように白い肌、赤い頬や唇、美しい黒髪を持って産まれ、その特徴をもって「白雪姫」と呼ばれた王女がいました。しかし、彼女の継母(ままはは)である王妃は、自分こそが世界で一番美しいと信じていて、彼女が持っている魔法の鏡は、「世界で一番美しいのはだれか」との問いにいつも「それは王妃様です」と答え、王妃は満足な日々を送っていました。
白雪姫は美しく成長していきます。そんなある日、王妃が魔法の鏡に「世界で一番美しい女は」とたずねたところ、「それは白雪姫です」との答えが返ってきました。怒りに燃える王妃は狩人を呼び出し、白雪姫を殺すよう命じます。しかし狩人は白雪姫を不憫(ふびん)がり、殺さずに森の中に置き去りにします。
白雪姫:ここはどこ?
あ!狩人が!……行ってしまったわ。
私、もうお城には戻れないのね。……でもー
やったぁ、自由だわーーー!
あのおばさんと一緒にいると、息がつまるのよねぇ。「自分が一番美しい」だなんて鏡にもてはやされてご満悦だし。ばっかみたーい。
でもぉ、やっぱり、わたしのピッチピチの若さには負けるわよね。あーんなに怒っちゃって、ホント大人げない。白雪、ああいう大人にはなりたくなぁい。
さてと、ここからどうするか考えなくちゃ。とりあえず、泊まれるところがないか探しましょ♪
【間】
白雪姫:はぁ~……、なんだかんだで、七つの山を歩いてきちゃったわ。まだ行けそうな気はするけど、暗くなってきちゃったしぃ。う~ん。
―あたりを見回す
白雪姫:あ!灯りが見える!あそこに泊めてもらえないかしら。
―ドアノック
白雪姫:ごめんくださぁい。……どなたもいらっしゃらないのかしら?
―ドアノック
白雪姫:あら、ドアノブがないっ!どうやって開けるのかしら。ええと、押してダメなら引いてみる……。う~ん、違うみたい。
えぇい、「開けゴマ!」……だめかぁ。
―後ろから声をかけられる
勘兵衛:そこの娘、何をしておる。
白雪姫:え!
勘兵衛:拙宅(せったく)に何か御用でも?
白雪姫:あ、あの……、わたくし「白雪」と申します。
実は、継母に殺されそうになって、知らない森の中に置き去りにされてしまい、大変困っていますの。
図々しいお願いかもしれませんが、かくまっていただけませんか?(目がウルウル)
勘兵衛:ッ!そ、それは酷い目にあわれましたな。白雪……?あっ!あの「白雪姫」でございますか?
白雪姫:はい。あの「白雪姫」です。
勘兵衛:なんと!これは大変ご無礼を!何卒お許しください。それがしは「勘兵衛(かんべい)」と申します。むさくるしい所ではありますが、こちらでよければおはいりください。
―ガララララ
白雪姫:あ、すっごぉい!このドア、横に動くのですね。
菊千代:兄上おかえりか。
勘兵衛:菊千代、いたのか。先ほどから、客人が戸を叩いていたであろう。
菊千代:風でガタガタいっているのかと思っておりました。
白雪姫:あの……、ごきげんよう。
菊千代:幼子ですか?どうされたのですか?
勘兵衛:こちらにおわしますは、この国の王女「白雪姫」であられる。菊千代、頭が高いぞ。
菊千代:なんと!これは大変失礼いたしました!!
白雪姫:いいえ、いいのです。どうぞ頭をお上げになって。私は、継母に殺されそうになり、森の中に捨てられた身……。もう姫ではありません。
勘兵衛:そうはいきません。座布団しかござならぬが、どうぞ、上座(かみざ)にお座りくだされ。
白雪姫:ザブトン……?それに、ここは段差がありますのね。結構高い。
菊千代:靴を脱いでおあがりください。
白雪姫:靴を?
勘兵衛:このようにいたします。
白雪姫:お二人とも裸足ですのね。それに変わった履物。
勘兵衛:草履(ぞうり)という履物でございます。
白雪姫:ゾーリ?しかも変わった床。草の香りがいたしますわ。
勘兵衛:畳という床です。イグサで織って作ったものです。
白雪姫:不思議な感触。なんだか気持ちがいい。
菊千代:いま、お茶をお入れいたします。
白雪姫:お構いなく(お腹がなる)あ、やだ私ったら……、恥ずかしい。
菊千代:(キュン)い、い、いま、温まるものをお作りいたしますゆえ、しばしお待ちを。
【間】
菊千代:このようなものしかできませぬが、お召し上がりください。
白雪姫:これは……スープですか?茶色い。
菊千代:味噌汁といいます。
白雪姫:ミソシル?(飲む)はじめての味!お野菜も入って、野菜の甘みもあり、旨味も……。美味しいですわ。
菊千代:恐れ入ります。
白雪姫:このホカホカの白いものは?
菊千代:握り飯です。お米を炊き、食べやすい大きさに握り、海藻の海苔で巻いております。
白雪姫:(食べる)シンプルなお味!塩が効いていますのね。パリパリして美味し~い!えっと、キクチさん?ありがとうございますぅ!
菊千代:お、恐れ入ります!
白雪姫:ここには、お二人でお住まいなのですか?
勘兵衛:いえ、あと五人おります。
白雪姫:五人?ということは、七人でここにお住まいに?
勘兵衛:はい。しかし、各自が修行で山の中にこもっているゆえ、二人は家の番として残っております。
白雪姫:シュギョウ……?
勘兵衛:剣術(けんじゅつ)、水行(すいぎょう)、滝行(たきぎょう)、座禅(ざぜん)などを行い、心身を鍛えております。
白雪姫:はぁ。えっと、カンベさんと、キクチさん。その他の方のお名前は?
勘兵衛:勝四郎(かつしろう)、五郎兵衛(ごろべえ)、七郎次(しちろうじ)、平八(へいはち)、久蔵(きゅうぞう)と申します。
白雪姫:珍しいお名前。覚えられるかしら……。
勘兵衛:そ、それがしの名前だけ覚えてくだされば結構です。
白雪姫:カンベ……さん
勘兵衛:あーーーっ!(キューン♡)
菊千代:兄上しっかり!
白雪姫:キクチ……さん?
菊千代:あーーーっ!(ズキューン♡)
勘兵衛:お前こそしっかりしろ!きくっち!
白雪姫:お召し物も、この家も、何もかも見たことがないものばかり……、異国の方々なのですか?
勘兵衛:はい、東の国、ジャパンから修行のために来ております。
白雪姫:ジャパン?そのジャパンに山はありませんの?
勘兵衛:いえ、たくさんございます。しかし、祖国の山すべてを制覇したものですから、次は異国での修行をと思い……、ああ、ぺらぺらとつまらぬお話をお聞かせしてしまいました。
白雪姫:いいえ!とぉっても新鮮で楽しいですぅ!
お城は、何もかもが大きすぎ、広すぎて疲れてしまいますの。それでも、お優しいお母さまでしたらよかったのですが……
菊千代:お世継ぎ争いでございますか?
勘兵衛:きくっち!いや、き、菊千代!失礼なことを聞くのではない!
菊千代:はっ……、出過ぎた真似を!申し訳ございません!
白雪姫:いいえ。聞いてくださいませ。お母さまは、自分が一番美しくないのと嫌なのです。いつも魔法の鏡に向かって「一番美しいのはだれか」と聞いていまして……
いままでは、お母さまが一番美しいと答えていたのが、私の名前が出たらしく、そして私を殺そうと……。ぐすん。白雪、何もしていませんのにぃ……
菊千代:なんとおいたわしい……。こんなに愛らしい姫を……
勘兵衛:くぅ……!不肖(ふしょう)ながら、この勘兵衛、姫をお守りいたします!きくっち!じゃない菊千代!
菊千代:はっ!我ら七人、この命、姫にお捧げいたします。
白雪姫:ええ?!なんて心強い……。白雪ぃ、ここにいてもいいのですか?(キュピーン)
勘兵衛:(キュン)っ!も、もももちろんでございますっ!なぁ、きくっち。
菊千代:兄上、動揺しすぎです……
白雪姫:なぁんてお優しいの!白雪、うれしくて涙がでそうですっ!
勘兵衛:め、滅相もございません!侍たるもの!それが武士道!命を持って主君をお守りする!な?な?きくっち!!
菊千代:……はい。
白雪姫:ブシドー……?でも、うれしいですわ。
それでは、私、何かお手伝いをさせていただきます。
菊千代:いいえ、姫にそのようなこと!お気持ちだけで十分でございます。
白雪姫:でもぉ……
菊千代:姫に飯炊きをさせるなど、とんでもないことでございます。
白雪姫:確かに白雪、お料理をしたことがありませんの。きくっちさんのように、美味しい「ミソシル」?でしたかしら。とても真似できませんわ(キラキラ)
菊千代:ぬぅぅぅぅぅー!!
勘兵衛:どうしたぁ!きくっち!胸が痛いのか!
菊千代:心の臓が、きゅうっと締め付けられるようです……。なんなのだ、これはぁ!
白雪姫:それでは、お掃除をいたします。
勘兵衛:畳の掃き方にはコツがあります。それに埃が立ちますので……
白雪姫:ん~~、では、お水をくむことくらいなら。
勘兵衛:ううむ、力仕事になってしまいますが……
白雪姫:ああ、やはり、私は何の役にも立ちませんのね……(しょんぼり)
勘兵衛:のぁぁあああ!いえ、そのような意味では!
菊千代:あ、兄上ぇぇ、ここは一つ、おまかせしては?(ぜぇぜぇ)
勘兵衛:お主、大丈夫か。息が荒いぞ……。いや、鼻息か?
菊千代:あ、あ、兄上は、顔が紅葉のように赤いですぞ!
勘兵衛:そ!それは!あれだ!さ、酒!そう酒を飲んだから!
菊千代:修行中にでございますか?
勘兵衛:んんんなわけなかろうっ!言語道断!
白雪姫:あの、カンベさん、きくっちさん、大丈夫ですか?
勘兵衛:ひゃい!ゲホッ!失礼。うむ…、それでは……
菊千代:水汲みの時は、それがしが手伝います。
白雪姫:わぁ!白雪、がんばりますぅ!
勘兵衛:菊千代ぉ、貴様……(焼きもち)
―次の日
勘兵衛:お目覚めでございますか、姫。
白雪姫:おはようございます。カンベさん、きくっちさん。
勘兵衛:寝心地が悪うございましたでしょう。
白雪姫:タタミとオフトン。硬くてちょっと……
でも、昨日は疲れたのと安心したので、ぐっすりでした。
勘兵衛:さようでございますか。それはなにより。
菊千代:さて、朝飯の用意をいたしますのでー
白雪姫:お二人とも目が真っ赤ですわ。眠れなかったのですか?
勘兵衛:寝ずの番をしておりました。
白雪姫:ええ!わたしのために?
菊千代:姫の命を狙う輩。ネズミ一匹逃がしませぬ!
白雪姫:なんて頼もしいのでしょう、白雪、感激です(ウルウル)
勘兵衛:くぅ~……(キュン)お安い御用でございます。
白雪姫:他の五名の方々は、お帰りではないのですね。
勘兵衛:一度戻ってきましたが、腑抜けた様子でしたので、そのような状態で家の敷居をまたがすことはできん!とまた修行に向かわせました。
白雪姫:まぁ。お会いしたかったのに。
勘兵衛:よいのです。むさくるしい男が七人もいたら、誰が姫の隣りで寝るか……、あ、いえ。
白雪姫:あ、私、水をくんでまいりますわ!
菊千代:は!お供いたします!
勘兵衛:菊千代ぉ……(焼きもち)
―【間】
白雪姫:ここですの?
菊千代:井戸といいます。それがしが一度やってみせますゆえ。
綱(つな)が取り付けられた桶(おけ)が中に入っております。この綱を引っ張りますと、このように桶の水が。
白雪姫:わぁ、すごい!
菊千代:この水は、こちらの樽(たる)へうつします。
白雪姫:やってみますわ!
菊千代:では、そ、それがしが、姫と共に綱を引っ張りまぁす。
白雪姫:うふふ。この綱をひっぱってー。よいしょよいしょ。ああ!水が入ったオケ?があがってきましたわ!すっごーい!
菊千代:姫、お見事!すばらしいです!
白雪姫:でも、ほとんど白雪、力を入れてませんでしたわ。
菊千代:はじめての共同作業ぉぉお!
勘兵衛:(家の中から)菊千代ぉ……
菊千代:ぐっ!こちらの樽(たる)にいれてください。溜まったら、それがしが運びます。
白雪姫:は~い。
勘兵衛:む!そこにいるのは誰だ!
白雪姫:え!
勘兵衛:逃げおったか……
白雪姫:まさか、お母さまの使いで私を……。怖いですぅ。
勘兵衛:心配無用でございます。さ、姫、中へ。
白雪姫:はい……。
プリス:なんと愛らしい。美しい黒髪、バラ色の頬と唇、真っ白な肌。手に入れたい……。
勘兵衛:上等な服を着ていたようだ。狩人という風貌でもなかった。フィリップ殿か?
白雪姫:フィリップ……?
菊千代:はい。毎日のようにこの森を散策して、虫を探している王子がいるのですがー
白雪姫:虫?
勘兵衛:しかし、フィリップ殿なら我らと話をするが……。また別の者か。とにかく油断してはならん。修行にでている者たちを集めて、周りを固めるのだ。
菊千代:は!
勘兵衛:姫、念のため、声を発しなくても、我々の間だけで通じる合図をお教えしましょう。
白雪姫:合図?
菊千代:サインと言えばおわかりでしょうか?
白雪姫:ああ!私たちだけの秘密のサインですわね!
菊千代:きゅうぅぅぅん!
勘兵衛:きゅうぅぅぅん!
菊千代:あ、兄上、それがしは、この樽をもっていきますので……。胸が苦しい……。
勘兵衛:少し横になった方がよいのではないか?無理をするな。
菊千代:面目ない……。
白雪姫:大丈夫ですか?きくっちさん……。カンベさんも、顔が……。熱でもあるのでは?
ー白雪姫、手を伸ばして額を触ろうとする
勘兵衛:あぁーーーーとっ!!いっけませーん!!!姫の手が汚れます!!我ら、元気いっぱいでござるーーっ!
白雪姫:そうですか……?
勘兵衛:はい……(息を整えて)サ、サインですが、「野球」で使うサインの応用です。いくつかの動きの連続によって指示を伝達します。
白雪姫:ヤキュウ?
勘兵衛:簡潔に申し上げますと、二つのチームにわかれ点数を競うゲームです。
白雪姫:はぁ……
勘兵衛:まず鍵となる部位……、キーとなると言えばよろしいでしょうか?そこを決め、その次に触ったところがサインの内容になります。
例えば、キーが帽子だとして、足を触ったら「走って逃げる」、肩を触ったら「身を隠す」、腕を触ったら「待て」、刀を触ったら「戦う」……。このような感じです。
白雪姫:ええ、覚えられるかしら。
勘兵衛:それがしと練習いたしましょう。
白雪姫:わかりましたわ。よろしくお願いします。カンベさん。うふ。
勘兵衛:くぅっ!(かわいいっ)
白雪姫:本当に大丈夫ですか?お具合でも悪いのでは?
勘兵衛:モーマンタイでありんす!
白雪姫:はい?
勘兵衛:へ、返答に困ったときは、必ずそれがしを見てください。
白雪姫:わかりましたわ!見つめます(キラキラ)
勘兵衛:む、胸が締め付けられるぅ!
プリス:先程の可憐な女性と話したい。ずっと見守りたい。僕が見守っていたら心配ない。しかし、どう接したら良いかわからない。あのむさくるしい男たちと一緒にいたら穢(けが)れてしまう。どうにか助け出してあげないと……。何か策がないだろうか……。
そうだ!
【間】
(N):こうして、侍たちは姫のために忠義を尽くし、白雪姫と七人の侍たちは楽しい日々を過ごしていました。そんなある日のこと。
プリス:どなたかいらっしゃいませんか?
勘兵衛:山!
プリス:は?
勘兵衛:山!
プリス:山?
勘兵衛:合言葉!
プリス:アイコトバ?アイの言葉?……「Ich liebe dich.(イッヒ リーベ ディッヒ)」
勘兵衛:は?
プリス:「愛している」と言いました。
勘兵衛:……。あながち間違ってはいない。
白雪姫:ええ!カンベさん、それは私との合言葉でしょう?カンベさんが「山」と言ったら、私が「好き」と答えるとドアを開けてくださるんですよね?
勘兵衛:姫えぇぇ、そんなことを大きな声で言ってはなりません!
プリス:ああ、その愛らしい声は、白雪姫ですね。はじめまして、私は「ヤンデーレ国」の王子、プリスと申します。今日は、勘兵衛殿に話があり、やってまいりました。
勘兵衛:それがしに?……名乗っただろうか。
白雪姫:ヤンデーレ国?ああ、お隣の国の方ですね。
プリス:ここを開けてはいただけないでしょうか。
勘兵衛:わかり申した。
ーガラガラ
勘兵衛:それがしが、勘兵衛と申します。して、ご用向きは……
プリス:私の知人、「世界のクロカワ」から連絡がありまして、修行をしている侍を探していると。
勘兵衛:あ、あの「世界のクロカワ」から?
白雪姫:なんですの?「世界のクロカワ」って。
勘兵衛:映画監督です。ムービー。わかりますか?
白雪姫:ん~~~?
プリス:七人の侍がいたら紹介してほしいと頼まれ、あなた方の噂を聞き、一度ここまで来たのですが、「もし断られた上に、斬りつけられたらどうしよう……」と思い、帰ってしまいました。
勘兵衛:この前……?もしや、姫が井戸で水を汲んでいるときに、見かけたのはあなた様でしたか。
プリス:はい、私です。何も言わず帰ってしまい、失礼いたしました。恥ずかしながら人と話すのが少々苦手でして……
勘兵衛:しかし、祖国にも侍はいるはずですが……
プリス:オーディションをしたそうなのですが、どの侍も、クロカワのイメージする侍ではなかったそうです。その後、風のうわさで、ジャパンの山すべてを制覇し、いまでは外国の山で修行している侍がいると聞いたようで、こちらに連絡が来たのです。本当です。嘘ではありません。信じてください。
勘兵衛:なんと……っ!
プリス:「素晴らしい逸材がいました」と報告したところ、「ぜひ帰ってきてほしい」とのことです。本当です。嘘ではありません。信じてください。
白雪姫:ええ?ジャパンに?
勘兵衛:ううむ……、しかし、我らはいま、姫をお守りしなければならず……
プリス:その点はご安心ください。ムービーを撮っている間、白雪姫をわが国にてお守り致します。嘘ではありません。信じてください。
白雪姫:まぁ……
勘兵衛:んん~~……
プリス:すでに撮影日は決まっているそうです。あなた方が帰ってくるのを、あの「世界のクロカワ」が首を長くして待っているのです。本当です。
勘兵衛:しかし……
白雪姫:悩んでいらっしゃるの?わたしのために?
勘兵衛:姫を守るとお約束しましたので、片時も離れたくない……いや!約束を違える(たがえる)ことは武士の恥。
プリス:撮影が終わったら、また戻ってくればいいじゃないですか。それまでは、わが国で姫をお預かりいたします。決して、悪者が近寄らないようにいたします。
白雪姫:カンベさん。そのクロカワという方のムービーに出られるのは名誉なことなのですか?
勘兵衛:はい。この上ない名誉でございます。
白雪姫:そうですか。……離れてしまうのは寂しいですけど、そんなお方がカンベさんたちを待っているということなら、ぜひ行かれては?私は大丈夫です!
プリス:私も一国の王子、姫を必ずお守りします!
勘兵衛:……他の者たちとも相談して、お返事したいと……
プリス:もちろんです。また明日来ますので、よいお返事を期待しています。できれば、明日にでもすぐにジャパンへ。
白雪姫:まぁ、ずいぶんと急なお話ですのね。
プリス:どうか、私の顔に泥を塗るようなことはしないでください。ヤンデーレ国の威信にもかかわります。
勘兵衛:わかりました……。
プリス:それでは、また明日。ふふふ……(ちょっと笑顔がこわい)
ープリス退場
白雪姫:カンベさん、私のために大事なチャンスを逃さないでください。私はもう大丈夫。最近、シンデレラさんという方が継母を追い払ってくれましたの。あと、ちょっと変な人ですけど、とりあえず悪い人ではないフィリップ王子と、ドラゴンになれる優しいおばあさまとも知り合いになれました。きっと相談に乗ってくださることでしょう。
継母はまだ城にいるので戻れませんが、この山で過ごせます。
勘兵衛:姫……。強くなられましたな……
白雪姫:これも、すべてカンベさんやきくっちさんたちのおかげですわ。あら?そういえば、きくっちさんはいらっしゃるのに無言でしたわね。
菊千代:事情があり……、いえ、兄上に用があるとのことでしたので、それがしが口をだすことではありません。兄上がお決めになったことであれば、我らは従います。
勘兵衛:菊千代……
菊千代:姫のことが心配なのは、それがしも同様。できることならば、一緒に連れていきたい……
白雪姫:きくっちさん……。そこまで白雪のことを気にかけてくださっていたのですね、感激ですぅ。
菊千代:……っ!はっ!いやっ!
勘兵衛:菊千代ぉ……。姫!それがしもそう思っています。いまや、姫は我々にとって、むさくるしい輩の中に咲く、一輪の可憐な花。修行の後の一服の清涼剤。姫がいない暮らしなど、味噌を入れない味噌汁と同じ!茶葉をいれない、お茶と同じ!
白雪姫:まぁ、カンベさん、きくっちさん!白雪、ウルウルでウルトラレアのキラキラな宝石の涙が落ちてしまいますぅ!……でも(二人の手を握る)
勘兵衛:っ!
菊千代:っ!
白雪姫:そのお気持ちでじゅうぶんですわ。先ほどもいいましたが、私はもう大丈夫。そんなに素晴らしい方がみなさんのことを待っていらっしゃるんですもの。ぜひ行ってきてくださいな。
勘兵衛:姫……
白雪姫:ジャパンの珍しいお土産をワクワク楽しみにしています!
勘兵衛:土産……。
白雪姫:帰ってきてくださるんでしょう?
勘兵衛:もっ、ももももももちろんです!
白雪姫:きくっちさんも?
菊千代:死ぬほどたくさんの土産を買って、必ずここに帰ってきます!
白雪姫:わぁ、楽しみ。では、決まりですわね。明日、プリス王子……、プリスプリンス……、プリプリ?うふふふ。王子様がいらっしゃる前に、パーティーを開きましょう。お別れの……
勘兵衛:(かぶせて)別れではありません!行ってらっしゃいの接吻!
白雪姫:せっぷん?
菊千代:兄上ぇぇぇぇ!
勘兵衛:あーーっ!せ、せ、切腹!約束をたがえた時は、切腹いたしまする!な!きくっち!
白雪姫:せっぷく?
菊千代:はぁ……。姫、とにかく必ず帰ってまいります。
勝四郎(かつしろう)、五郎兵衛(ごろべえ)、七郎次(しちろうじ)、平八(へいはち)、久蔵(きゅうぞう)!よいな!
白雪姫:あら、みなさま、いらしたのですね。かっつん、ごろちゃん、シチロー、八ちゃん、久ちゃん。
勘兵衛:貴様ら、泣いてないで、返事をせんか!
菊千代:兄上、ムチャぶりはやめてください……。
白雪姫:では、決まりですわね。白雪ぃ、生クリームがいーっぱいのパンケーキが食べたいですぅ。あと、アップルパイ!ん~、それからそれからぁ……
勘兵衛:パンケーキ?アップルパイ?菊千代、作れるか?
菊千代:いえ、はじめて聞きました。
白雪姫:大丈夫、シンデレラさんに頼んできます!なんでも作れるんですのよ。あ、紅茶もわけていただこうかな。白雪、ちょー楽しみ!
勘兵衛:楽しみ……
ー次の日
白雪姫:わぁ、こぉんなにたくさん。おいしそう!さすがシンデレラさんですわ。
勘兵衛:はじめて見るものばかりですが、よい香りがいたしますな。
白雪姫:冷めたらおいしくありませんわ。さっそくいただきましょ。私は、ダージリン。
勘兵衛:では、それがしも。ダーリン?ですかな?
菊千代:兄上、ダージリンです。
白雪姫:ふふ。ダーリンだと「かわいい人」という意味ですわね。白雪のことですの?
勘兵衛:そうです!姫はかわいい!
菊千代:もうごまかすのはやめたのですね……
白雪姫:それではぁ、みなさんの門出を祝ってぇ。カンパーイ!
勘兵衛:乾杯!
菊千代:乾杯!
白雪姫:あ~、なぁんて美味しいの。さすがシンデレラさんですわ。さて、どれからいただこうかしら。
菊千代:おや、これは?
白雪姫:それは、リンゴを煮て柔らかくしたものを、パイ生地の上にのせて焼いたものですぅ。シンデレラさんが作ってくださいましたぁ。
勘兵衛:ほぉ。シンデレラ殿に感謝ですな。まったく関係ないのに、ここまでしてくださるとは。すべてシンデレラ殿が作られたのですか?
白雪姫:あ、えっとぉ、これ!これは私が作りました!
勘兵衛:おお、それはそれは。では、これからいただこうといたしましょう。これは……皮がついたままのリンゴですな。
白雪姫:「うさぎリンゴ」ですぅ!リンゴをむくときに、皮を上手にうさぎの耳のようにかたどったんですわ。かわいいでしょう♪
勘兵衛:おお、シャキシャキしていて、おいしゅうございます!
菊千代:(ボソッと)切っただけ……
勘兵衛:ふんっ!(菊千代のみぞおちを殴る)
菊千代:ぐはぁっ!!
白雪姫:あらあら、仲良しですわね。
白雪も、うさぎリンゴ食べまぁす。これなら絶対間違いないですもの。(ぱく)
菊千代:(ボソッと)そのままですからな……
勘兵衛:ふんっ!(再び、菊千代のみぞおちを殴る)
菊千代:ぐはぁっ!!
白雪姫:(もぐもぐしながら)ケンカするほど仲がいいと聞きますが、お二人を見てると、私にも兄弟姉妹がいたらなぁ……と。
……っ!んっ!(苦しみだす)
勘兵衛:姫!いかがされましたか!
菊千代:喉にリンゴがつまったのではありませんか?!
白雪姫:(苦しい)
勘兵衛:姫ぇぇぇ!咳を!咳をするのです!
菊千代:ああああっ!姫!姫!
白雪姫:……(ぱたり)
勘兵衛:ひ、姫?まさか……
菊千代:兄上!姫が、息を、息をしておりません!姫!しっかり!
勘兵衛:なんてことだ……なんてことだ……!うわぁぁぁぁぁぁぁっ!
(N):白雪姫が死んでしまったものと思い、悲しみに暮れる七人の侍たち。白雪姫の遺体をガラスの棺に入れ、離れることができませんでした。そこにプリス王子がやってきます。
プリス:やぁ、みなさん。昨日のお話の返事をいただきにまいりまし……。っ!こ、これは?!白雪姫はどうされたのですか!
勘兵衛:……我らのためにパーティーを開いてくださり、楽しそうに食べていらしたのですが……。リンゴを喉に詰まらせてしまわれ……。くっ……
プリス:まさか亡くなられたのですか?
勘兵衛:我らがそばにいながら……
プリス:しかし、顔色、唇の色、死人のそれではありません。
(小声で)美しい……
みなさん、昨日のお話の返事をお聞かせください。
勘兵衛:いまはそれどころではないっ!
プリス:私からすでに「世界のクロカワ」に契約をすると返事をしてあるのです。
勘兵衛:なんですと?
プリス:姫の遺体は、私がもらい受けたい。
勘兵衛:なっ!
プリス:我が国、ヤンデーレ国には選りすぐりの医者がいます。彼らなら、なんとかしてくれるかもしれない。おそらく仮死状態。すぐに処置すれば、まだ可能性はあります。
勘兵衛:まことか!
プリス:あるいは、いまここで私がやってもいい。
勘兵衛:できるのですか?
プリス:のどに詰まったリンゴを吸引すればいいんです。この変わらないパワフルな吸引力、ダイソンで。
勘兵衛:なんじゃあ、そのカラクリは!それを姫の口にいれるおつもりか!
プリス:そうですねぇ……。ちょっとサイズ的に問題が。
ならばこうしましょう。
ーガラスの棺の蓋を開ける
勘兵衛:何をするおつもりか!
プリス:私が姫にキスをしてー
勘兵衛:やめろぉぉぉぉっ!
プリス:では、やはり国に連れて帰り、医者に診てもらいましょう。
(家来たちへ)おまえたち、棺をかつぐのだ。
勘兵衛:家来がいたのか。ひとことも発しないから気づかなかった……。
プリス:私がいいと言うまで、言葉を発しないように命じてあります。癇(かん)に障るもので。
勘兵衛:少しやり方が横暴ではありませぬか。おい、菊千代、勝四郎(かつしろう)、五郎兵衛(ごろべえ)、七郎次(しちろうじ)、平八(へいはち)、久蔵(きゅうぞう)!棺を持って行かせてはならん!
プリス:おや、そちらも七人もいたのですか。気づきませんでした。
勘兵衛:お互いさまでしょう。武士は余計なことは喋らない!
プリス:あなた方は、一刻も早く「世界のクロカワ」のもとへ行きなさい。家来ども、姫をすぐに城へ!
ー家来たちが、白雪姫の棺をかつぐ
勘兵衛:姫!
プリス:蘇生するかもしれないと言っているのです。邪魔をしないでいただきたい!
勘兵衛:くっ……!
プリス:ふふ……(不敵な笑み)
プリス(M):これで白雪姫は私のものだ。死んでいてもかまわない。なんて美しい。ずっと私のもとに置いておきたい……。
勘兵衛:あっ!
プリス:ん?
ー白雪姫の棺をかついでいた家来のひとりが木につまずき、棺が揺れる。
勘兵衛:危なぁぁぁいっ!
プリス:何をしている!しっかり支えるのだ!
勘兵衛:あーーーーーっ!
プリス:落ちる!
ーガラスの棺が落ちる
プリス:なんてことを……、なんてことをするんだ!遺体に傷でもついたらどうするつもりだ!
白雪姫:……うう
勘兵衛:姫?
ー喉に詰まっていたリンゴのかけらを吐き出す。
白雪姫:けほっ!こほっ!はぁはぁ……
プリス:これは!息を吹き返されたぞ!
白雪姫:んん……?私、どうしたのでしょう……。
勘兵衛:姫ぇぇぇぇぇっ!よかった。よかったぁぁあああ!(号泣)
白雪姫:カンベさん?あら、プリプリ……、いえ、プリス王子様。みなさま、どうされたのですか?
勘兵衛:リンゴを喉に詰まらせて、仮死状態になっていたのです。あちらの家来が運ぼうとしたところ、あろうことか木につまずき、しかも!棺を落としたのです。その衝撃で、喉に詰まっていたリンゴのかけらを吐き出すことができ、息を吹き返されたのです!よかった、本当によかった!
白雪姫:そうなのですね……。棺を落とした……んですか?
プリス:い、いやぁ、大変喜ばしいことです!さぁ、白雪姫、お手をどうぞ。
白雪姫:あ……、ありがとうございます。
プリス:白雪姫、あなたを我が国に連れていき、医者に診せようと思ったのです。決してやましいことはありません。そして、あなたは美しい。どうか、私の妃になっていただけないでしょうか。
白雪姫:ええっ?
プリス:運命としかいいようがない。このプロポーズをどうか受け取ってください。
白雪姫:そんな急に……(勘兵衛を見る)
勘兵衛:(必死で、待てのサインをおくる)
白雪姫:王子様は……、何歳ですの?
プリス:は?
白雪姫:王子様はおいくつでいらっしゃいますか?
プリス:私ですか?18になります。
白雪姫:そうですか……。もう一度お聞きしますが、棺を落としたのですね?
プリス:それは私ではありません。家来が……
白雪姫:家来のしたことは、主人が責任を取る。そう思いません?
プリス:そ、それは……
勘兵衛:(拍手)激しく同意いたします!「禿同」(はげどう)です!姫!
白雪姫:王子様。ご親切、感謝いたします。ですが、今日出会ったばかりですし、プロポーズは受けられません。
プリス:そ、そんな……
白雪姫:私、カンベさんたちと暮らして、シンデレラさんとも出会って、知らないことがたくさんあることがわかりましたの。こんな未熟なままで結婚することなど考えられませんわ。
勘兵衛:姫……、立派に成長されて……
白雪姫:ですから、王子様。どうぞお引き取りください。
プリス:……くっ!……いや、あなたは素晴らしい女性だ。私はあきらめません。
白雪姫:(被せて)あら!カンベさん、見て。あそこ!狩人がいますわ!
勘兵衛:なんと!まさか、姫を狙って……
白雪姫:馬から降りて、弓矢を下に置きましたわ。何か伝えに来たのかも。
勘兵衛:姫はここで待っていてくだされ。それがしが聞いてまいります。
ー勘兵衛、狩人のもとへ
白雪姫:あら、まだいらしたんですの?王子様。
プリス:彼ら七人はジャパンへ帰るのですよ。姫は一人になってしまいます。ですからー
勘兵衛:(被せて)姫ぇぇー!吉報にございまする!
白雪姫:なんですの?
勘兵衛:姫の母君が、今度は「鏡の国」に行かれたそうで、城に戻るなら「いま」だそうですぞ!
白雪姫:まぁ!
勘兵衛:あの狩人は、姫を迎えに来たそうです。
白雪姫:それは急いで帰って、あの喋る鏡を割らないと!
勘兵衛:え?
白雪姫:い、いえ。なんでも。コホン。
ということですので、王子様。私は城に戻ります。王子様も日が落ちる前に、国に帰られた方がよろしいですわよ。
プリス:……わかりました。今日のところは帰ると致しましょう。ですが、私はあきらめませんのでー
白雪姫:(被せて)ごきげんよう、さようなら♪
(N):こうして七人の侍たちはジャパンへ帰り、プリス王子はますますヤンデレに。白雪姫はひと回り成長して、城に戻ることができました。めでたしめでたし。
ーおしまい
※続編「シンデレラと二人のプリンセス」