カウントダウン【コメディ】[1:3]

2023年12月 朗読劇(ステージ用)に書き下ろした作品です。
2023/12/25@ Jackpot 第68回放送 クリスマスライブ2023

■登場人物

・清美(きよみ):29歳。舞台俳優

・楓(かえで):29歳。看護師

・圭子(けいこ):29歳。美容師

・久美(くみ):29歳。ウェブデザイナー

・坂東(ばんどう):31歳。男性。バーテンダー

※名前は出てくるが、登場しない人物

・小雪(こゆき):29歳。キャビンアテンダント

※約20分

【本編】 

―29歳崖っぷち女子たちが新年を迎えようとしている

―メッセージでの真剣なやり取り

清美:清美、目的地に到着。そちらの様子は?

楓:こちら楓。これから急行します。

清美:了解。気をつけて。

圭子:こちら圭子。閉店作業中。

清美:了解。間に合いそう?

圭子:いける。

久美:こちら久美。緊急事態発生。対応中。

清美:状況は?

久美:いつものこと。問題なし。

清美:健闘を祈る。

久美:ありがとう。先に入ってて。

清美:了解。

―清美、BARへ 入店。

―ここから普通に

清美:こんばんは。

坂東:いらっしゃいませ。

清美:4名で予約した者です。まだ面子がそろわないのですが、いいですか?

坂東:どうぞ中でお待ちください。ご予約のお名前、よろしいですか?

清美:「ゴレンジャー」です。

坂東:ゴ……

清美:「ゴレンジャー」です。え?予約してません?

―坂東、予約表を確認して

坂東:あ、はい、ございます。どうぞ。

清美:どうも。

―席に案内される

―楓、入店

楓:こんばんは。

坂東:いらっしゃいませ。お客様は―

楓:「ゴレンジャー」です。

坂東:あ。

楓:あ?

坂東:いえ、先にお一人いらしています。どうぞ。

清美:楓!こっち。

楓:あ、清美。おつかれ~!

清美:抜けられた?

楓:なんとか。

坂東:失礼いたします。何かお飲み物でも?

清美:あ~、集まってからで。

坂東:承知いたしました。では、お水を。

楓:どうも。

―坂東、去る。

楓:小さいけど、お洒落なお店。いいね、ここ。

清美:でしょ。いつものとこ貸し切りでダメだったから、新規開拓。

楓:なかなかのイケメンバーテンダーだし。

清美:ん~、8、いや、7……、78点?

楓:いい線ね。

清美:左薬指チェック!

楓:指輪なーし!

―坂東近づいてくる

―楓、清美「来たよ」「おっと!」というようなジェスチャー

坂東:失礼いたします。お連れ様、いらっしゃいました。

―圭子と久美、到着

―坂東とともに来る

圭子:おつかれ~。

久美:ごめん、遅くなった。

清美:おつかれ、問題なしだよ。

坂東:こちらメニューでございます。決まりましたらお呼びください。

全員:『ラジャー!』

坂東:ラ……、はい。

―坂東去る

清美:1年ぶりだね。

楓:どーお?みんな相変わらず?

久美:くっそいっそがしい!もうハゲるわ!

楓:なになに?なんかあった?

久美:デザインにレイアウト。自分で「こうして」って言ったくせに「やっぱり、ちょっと違うなぁ」のひとことで一からやり直しとか。

とかとかとか!

清美:あ~、そういうのよく聞くけど、ホントにあるんだね。

久美:あるあるだよ。もうね、ホント殴りたくなる……

楓:でも、久美の作ったウェブサイト、好きだよ。見やすいし、それでいて、センスが抜群にいい。

久美:そりゃ、どーも。で…、楓の方は?

楓:なんせ「流行り病」の勢いがとまらないからね。現場がずっとピリピリしてるし、疲れてるし、ダウンする人もいる。

久美:だろうねぇ。だけど、看護師さんの働き、優しさはありがたい。

楓:そこは気をつけてる。あとは、患者さんからのセクハラがねぇ。

圭子:どんな感じ?

楓:血圧測る時に、腕を触ってくるじいちゃんとか。

圭子:隙あらば、だね。どうすんの?

楓:にこやかに「触んな」って言う。

清美:さすがっす。で、圭子は?

圭子:ご飯食べる時間ないし、閉店後ミーティングあったりするし、腰痛いし、七五三やら成人式の準備やらバタバタです。

楓:だよねぇ。あたしらにとって美容院は、癒しの場所ではあるけど。

圭子:こっちも、お客様が満足して帰ってくれるのはうれしいよ。
でも、この前、男性のお客様が、「美容師と付き合ってみたい」って言うから理由聞いてみたらさぁ……

清美:なんだって?

楓:「美容室代が浮くから」だって。ふざけんなって感じ。

久美:なんだと思ってんのよねぇ。

楓:そういや、今日、小雪は?あ、空、飛んでんだっけ。

清美:そうそう。だから欠席。

久美:男性の乗客から、名刺とか連絡先をたくさんもらってるんだろうね。CA(キャビンアテンダント)はモテるから。

清美:いや、激減したらしいよ。

久美:そうなの?

清美:男は若い子が好きで、そっちにシフトチェンジ。

久美:ああ、そういう…… 。腹立つわぁ。

清美:いよいよ、あたしらもカウントダウンか……

全員:(ため息)

楓:滅入る。

清美:飲むか!よし、注文しよう。

―「そうだね」「うんうん」など返事

清美:(坂東に)すいませーん。

坂東:はい。お決まりでしょうか。

清美:シャンパンお願いします。4本。

坂東:4つで?

清美:4本で。

坂東:かしこまりました。……あの、一つお聞きしてもよろしいですか。

清美:はい。

坂東:何かのオフ会ですか?「戦隊ヒーロー」のファン……とか。

楓:いえ?……ああ、名前が「ゴレンジャー」だからね。

坂東:はい。大変懐かしい戦隊ヒーローの名前でしたので。私も大好きで。

楓:あ~、男の人はそうかもしれないですね。

久美:「ゴレンジャー」は、「五」人の「恋」の「者」たちと書きます!

坂東:「五恋者」……。

圭子:この人(清美)が決めたんです。ね、清美。あんた、舞台俳優やってるのよね。

久美:昔、野外ショーでやったことあるらしくて。ピンク?なんとかレンジャー。

清美:いや、イエローだった。21歳の時かな。

久美:え、イエロー?女子なのに?

清美:イエローの中の人が体調崩して急遽呼び出し。捕まったのが私だけだったらしい。
でも、スーツのサイズが合わなくてさ、タオルとかいろいろ巻いてでたら、太ってみえたらしく、こどもたちから笑われた。
黒歴史よ。真っ黒よ。

圭子:その黒歴史を名前にするか?

清美:これはぁ、「5人が、いい人といい恋ができますように!」ってことよ。

楓:「ダッサい名前」と思ったんだけど、若い時のノリで決めちゃったのよね。
いまは、なんかもう慣れちゃってそのまま。

坂東:そうしますと、同窓会?

楓:高校の演劇部の仲間です。

坂東:ああ、なるほど。

清美:でも、お兄さん。この年末に女が4人集まるって、どういうことかわかります?

坂東:いえ……。

清美:29歳独身。崖っぷち、出会いのない女の集まり。

坂東:そんな、まだこれからですよ。人生、何があるかわかりません。

清美:下手な慰めは不要。私たちの道は険しいのです。……やっぱり職種も関係してるのかなぁ。

楓:否めない。私は看護師だし。

圭子:はいはい、美容師でーす。

久美:徹夜上等、ウェブデザイナーです。今日は来られなかったけど、もう一人はCA。

清美:で、私は、舞台俳優。最近、ちょっと映像系に呼ばれるようになったけど。

楓:え、ドラマ?すごいじゃん。セリフあり?

清美:二言三言あった。

久美:ドラマ?どんな役?教えてくれたら録画しといたのに!

清美:深夜枠のキャバ嬢役。若いキャバ嬢に「おばさんのくせに、いつまでしがみついてんのよ!」って言われる役……。

圭子:おう、痛い……

坂東:みなさま、立派なお仕事されてー

楓:でも、世間では、付き合うのが大変な職業の女「3K」って呼ばれているんですよ。「看護師、CA、キャバ嬢」

久美:ここにキャバ嬢はいないけどね。

清美:私が、やってしまった……。おばさんって言われたし、もうダメだ……

久美:落ち込むな!それは役でしょ、役!

圭子:男性でも、付き合うと大変そうな職業で、「4B」ってあるでしょう?「バーテンダー、美容師、バンドマン、舞台役者」

久美:「3C」もあるんだって。「カメラマン、クリエイター、カレーをスパイスから作る男」

楓:は?「カレーをスパイスから作る男」ってなに?(笑う)

久美:「俺が作ったスパイスでできたカレーが一番!」なんでしょ。
こだわりが強いってことじゃない?
そのこだわりが、付き合っている相手にも求める可能性が高くて面倒くさい。

坂東:ハハハ……

清美:あれ?お兄さん、引きつり笑い。もしや、心当たりが?

坂東:(咳払い)シャンパン、お持ちしますね。

清美:あ、行っちゃった。

久美:すでに「4B」に入ってるからじゃない?

清美:そっか。しまった。

圭子:まぁ、私たちも、もれなくその部類だから。

楓:来年になったら、とうとう三十路か……。

久美:あ~あ、20代のうちに結婚して、子供は2人。
家は……、とかいろいろ考えてたのに。

圭子:どうなるんだろう、私。このまま独りなのかなぁ。

清美:みんなは正社員だからいいよ。私なんか、バイトしながら役者だよ。泣ける。

久美:よしよし。清美は、あきらめずによく頑張ってるよ。

清美:「あきらめたらそこで試合終了です」……安西先生!

圭子:大丈夫?まだお酒飲んでないでしょ。

清美:ねぇ、このまま独り、おばあちゃんになったらさ、みんなで一緒に住もうよ。

楓:あ、それいいね。シェアハウス。

清美:「テラスハウス」みたいなドラマは一切起きません。

楓:歳とってからの男女トラブルは勘弁してくれ。

久美:その前に介護になっちゃうかもよ。

圭子:うわ、きついなぁ……。

―坂東、登場

坂東:お待たせいたしました。

圭子:来た来た!

清美:ねぇ、お兄さんはさぁ。ここのオーナー?ずっとやってるの?

坂東:いえ、オーナーは別にいまして、雇われです。3年ほどになります。

清美:そうなんだ。ちなみに、その前は何してたんですか?

坂東:「バンド」しながら、「役者」を目指していました。

久美:おっとぉ?

坂東:本当は、「カリスマ美容師」になりたかったんですけど。

久美:「カリスマ」って……。なめてたわね。

圭子:理由は?「モテたい」から?

坂東:おっしゃる通りでして、お恥ずかしい……。

楓:若い男は「どうやったらモテるか」を研究してるって聞くからね。
ちなみに、カレーはつくります?

坂東:はい。

圭子:あなたのカレーはどこから?

坂東:……スパイスから作ります。

清美:コンプリートじゃん!彼女は、いる?いない?

坂東:い……

清美:い……?

坂東:いまは、いません。バツイチです。

久美:下の名前は?

楓:こらこら、みんな、おばちゃんになってるぞ。

坂東:「坂東 光一(ばんどう こういち)」です。

清美:ばんどう!「B」だ!おめでとうございます!
あなたは、鉛筆で最も濃い「6B」です!

―坂東、たまりかねて、ため口になる

坂東:名前は関係ないだろう!

久美:もっと、濃い鉛筆あるけどね。

坂東:突っ込むとこ、そこじゃねぇだろ?

清美:じゃ、バツイチの「B」

坂東:お前なぁ……

圭子:え?ちょっと待って。「坂東 光一」?

楓:どこかで聞いたことあるような……。

坂東:あー、もう!わかんねぇのかよ。久しぶりだな、お前ら!

全員:「演劇部の部長!!」

久美:私らが1年で、坂東先輩が3年で!

坂東:そうだよ。なんでわかんねぇんだよ。この「5K」がっ!

圭子:だって、先輩、すぐ引退しちゃったし。あの頃の先輩、見た目「陰キャ」だったし。いまと全然違う。
……って、「5K」ってなんですか。

坂東:清美(きよみ)、楓(かえで)、圭子(けいこ)、久美(くみ)、小雪(こゆき)のイニシャル。
お前ら、いつもつるんでうるさいから、まとめて「5K、空気読め」って言ってたんだよ。
何が「ゴレンジャー」だよ。
相変わらず、清美はバカだな。

清美:バカとはなんですか!バカとはー!

楓:清美、落ち着いて!暴力はダメ!

坂東:お前は、「馬鹿、貧乏、暴力」の「3B」か?

清美:酷いっ!泣いてやる!訴えてやる!

坂東:「ゴレンジャー」って予約来た時、「まさかな」と思ったんだなぁ。

清美:なによ!私は、先輩みたいに職を転々としてないし、バツもついてないし、きれいだもん!

坂東:俺は「付き合うのが大変な職業」なだけで、モテてるし。

久美:うわ、マウントとってきた。

圭子:あれぇ?先輩の名前も、イニシャル「K」ですよね。

坂東:一緒にすんな!
……ほら、シャンパン。
新年のカウントダウンするつもりで来たんだろ?

楓:そうだ。恒例行事!清美、時間!

清美:ハッ!いま、何分前?

久美:1分前!

坂東:30代は、大人の女の魅力が出てくる時期だし、泣くことねぇよ。
男は付き合う女によって人生が大きく変わるんだ。
「付き合うと大変な職業の女」との交際は、
付き合う前に人間性をしっかり見定めることが大切。
逆もまた然り。

楓:さすが、モテる男は言うことが違いますねぇ。「バツイチ」だけど。

清美:「バツイチ」の人に言われたくない。

坂東:うるせぇな。

楓:「バツイチ」だからこその含蓄あるお言葉かもしれないよ。ありがたや、ありがたや。

坂東:「バツイチ」連呼すんな!

清美:本当は小雪もいて「ゴレンジャー」なんだけど、仕方ない。
今日だけは、「バツイチ先輩」も仲間にいれてやる。

坂東:「バツイチ先輩」じゃねぇ、坂東だ!なんだよ、その言い方は。

久美:そうだね。先輩も一緒にどうですか?「1杯だけ」なら奢ってやってもいいぞ。

坂東:偉そうだな!

圭子:じゃ、「シャンプーだけ」しましょうか?

坂東:乾かしてくれよ!

楓:何かの点滴、打ちましょうか?

坂東:こわいわ!……ま、せっかくの再会だし、お言葉に甘えましょうかね。
どうせ、お前らしか客いないし。

清美:やった、貸し切りだ!

坂東:(ため息)20代から30代にステージがあがるんだろ。
「カウントダウン」じゃなくて、「レベルアップ」すると思えよ。

清美:ぱ、パイセ~ン…… (うるうる)

久美:先輩。清美、惚れやすいんですから、下手に優しくしないでください。

圭子:ほらほら、10秒前きったよ。

坂東:よーし、バイブスあげていこうぜぇ!

楓:うっわ、チャラ!

清美:はいはい、グラス持って。みんなで行くよ!せーの!

全員:5!4!3!2!1!

全員:新年、あけましておめでとうございまーす!!

―「イエーイ!」と賑やかな声や、クラッカーなど賑やかに音をだす。

清美:私たちに、幸あれ!


【終演】