メイド(執事)による入眠儀式【コメディ】

【登場人物】 [0:1:1] 

・お嬢様……眠れない。ツッコミ。

・メイドまたは執事……寝かせる側。婆やでも爺やでもかまいません。ボケ。不問。

珍しく「眠れない」というお嬢様を頑張って寝かせてください。


※約10~15分

※語尾変更・アドリブ可

------------ここから------------

お嬢様:う~ん……。ダメだわ、眠れない……

ーコンコン

お嬢様:あ、ちょうどいいところに……。入って。

メイド(執事):起こしてしまいましたか、申し訳ございません。

お嬢様:いいの。眠れなくて困っていたところだから。

メイド(執事):そうでしたか。いつもでしたら、ノックをしても、よくお眠りになっていらっしゃるのでー

お嬢様:そうなのよね……

メイド(執事):「3秒数えたら眠れる」のが特技なお嬢様が珍しい。

お嬢様:ほ、他にも特技はあるわよっ。

メイド(執事):何かお悩みでもあるのでは?私でよろしければ、お話をお伺いいたします。

お嬢様:う~ん、別に悩みはないのよねぇ。

メイド(執事):そうでございますね。能天気なお嬢様に限って、悩みなど……

お嬢様:たまには悩むわよっ?

メイド(執事):もしや、寝る前に何かつまみ食いでもされましたか?

お嬢様:してないわよ!ちょいちょいバカにしてくるのやめて?

メイド(執事):とんでもございません。食欲が落ちないのは健康な証拠です。夕食も、見ていて気持ちがいいくらいよく召し上がられましたし。

お嬢様:なんか恥ずかしいんだけど……

メイド(執事):褒め言葉でございます。

お嬢様:ホントに?

メイド(執事):はい。……そうですね、あとは、通学以外の運動はしないなど極端に運動不足ですと、疲労感が足りず、スムーズに寝付けなくなっていきますが……

お嬢様:ああ、それはあるかもしれないわね。

メイド(執事):それでは、お嬢様が眠れるようにお手伝いさせていただきます。「入眠儀式」を行いましょう。

お嬢様:「入眠儀式」?

メイド(執事):心とからだを眠りにスムーズにもっていくために行う、就寝前の習慣のことです。毎日繰り返して行っていると、決まった行動をとったことで心とからだが自然に睡眠モードに切り替わり、条件反射のように眠りに誘われるようになります。

お嬢様:ふぅん。

メイド(執事):それでは、準備をさせていただきます。ああ、カーテンが開いていますね。閉めてまいります。(夜空を見て)……おや?

お嬢様:どうしたの?

メイド(執事):今宵は満月ですね。「天体の明るさの強さが増すと、人工照明と同じく睡眠を妨げることになる」という説がございます。

お嬢様:そうなの?

メイド(執事):まだ検証はされていないようですので「過敏症」の方だけが不眠症を強めている可能性があります。とすると……、「鈍感」なお嬢様は、関係ございませんね。

お嬢様:なにその、とげのある言い方。

メイド(執事):褒め言葉でございます。

ーガタゴト

お嬢様:なにしてるの?

メイド(執事):「入眠儀式」の準備をー

お嬢様:なに、祭壇つくってんのよ!なんか怖いから!

メイド(執事):さようでございますか?

お嬢様:そういうんじゃないでしょ?「入眠儀式」って「眠りへのスイッチ」ってことでしょ?

メイド(執事):よくおわかりで。さすがでございます。

お嬢様:やっぱり、バカにしてるわよね?

メイド(執事):いえ、私は毎晩このようにしております。

お嬢様:こわっ!その先は聞きたくない!

メイド(執事):では、祭壇作りはやめて、少しストレッチをいたしましょうか。

お嬢様:ええ~、めんどくさいからいいわよ。

メイド(執事):寝る前のストレッチは、心身の緊張をほぐし、寝つきがよくなります。

お嬢様:む~……

メイド(執事):では、仰向けに寝て、両手・両足を天井の方向へ向けます。なるべく脱力した状態で、両手両足を小刻みにブラブラさせましょう。

お嬢様:こう?

メイド(執事):はい。……ぷっ(吹き出す)

お嬢様:いま笑った?

メイド(執事):いいえ。もう一度、両手両足をブラブラ~

お嬢様:ブラブラ~

メイド(執事):ぷっ(吹き出す)

お嬢様:やっぱり笑った!

メイド(執事):はたから見ると、ひっくり返った虫……

お嬢様:あなたがやらせたんでしょ!

メイド(執事):次に、全身をゆるめる「背伸び」です。そのままの状態で、両手をバンザイをするように上に伸ばします。両手・両足をゆっくり伸ばし、背伸びをします。

お嬢様:ん~~(体を伸ばしている)……うん、気持ちいい。

メイド(執事):あ、「股関節の周りをほぐす」のを忘れていました。

お嬢様:え?

メイド(執事):床にあぐらの状態で座り、左右の足裏を合わせ、両手で足を包み込むように持ちます。

お嬢様:せっかく気持ちよくなってるのに、また起きあがるの?

メイド(執事):順番を間違えました。申し訳ございません。

お嬢様:じゃ、やらないわよ。

メイド(執事):ベッドの上でも構いませんので、少しだけやりましょう。

お嬢様:もぉ……(起き上がる)

メイド(執事):息をゆっくり吐きながら、背筋をできるだけ伸ばして上体を前に倒します。背筋が丸まらないところまで倒し、姿勢をキープしたまま呼吸を続けます。

お嬢様:すぅー はぁー すぅー はぁー

メイド(執事):余裕があれば肘で太ももの内側を押すように行い、さらに股関節の周辺を伸ばしましょう。

お嬢様:うう……、すでに結構痛いから、そんな余裕ない……

メイド(執事):お嬢様ならできるはずです。こうです!(押す)

お嬢様:いたたたたっ!力技じゃないの!やめてっ!

メイド(執事):どうです。リラックスできましたか?

お嬢様:できないわよ!

メイド(執事):そうですか……

お嬢様:いったぁ……

メイド(執事):では、決まった音楽を聴くなど、お嬢様がリラックスするものにしましょう。お嬢様のお好きな音楽は……

お嬢様:適当に、眠れそうなのを流してちょうだい。

メイド(執事):かしこまりました。

ーヘビメタ爆音

お嬢様:ちょっと!

メイド(執事):はい?

お嬢様:とめてーっ!うるさーーーいっ!

ーとめる

メイド(執事):どうされましたか?

お嬢様:何、ヘビメタ流してんのよ!

メイド(執事):「適当に」とおっしゃたので、私の好きな曲を。

お嬢様:え、「ヘビメタ」好きなの?「ヘドバン」すんの?

メイド(執事):普段はイヤホンで聞いております。ただ、首を痛めてしまいまして、ヘドバンは控えております。

お嬢様:何やってんの?いまので、ますます目が覚めちゃったわよ!

メイド(執事):私は、あやうく寝落ちしそうになりました。

お嬢様:噓でしょ……。

メイド(執事):仕方ありませんね、では羊を数えて差し上げます。

お嬢様:羊ぃ?それ効果あるの?

メイド(執事):いいえ。では、ベッドにお入りください。

お嬢様:いま、サラッと「いいえ」って言ったわよね?

メイド(執事):お気になさらず。

お嬢様:気になる~。モヤモヤする~。

メイド(執事):では、灯りを消しますね。

ーパチン

お嬢様:え?私の部屋、こんなに暗かった?闇!何も見えない!

メイド(執事):部屋を真っ暗にする工夫をしておきました。

お嬢様:暗すぎるの怖いから!私、少し灯りがついてる方がいいから!

メイド(執事):(無視して)では、まいります。執事が一人。執事が二人。執事が三人……

お嬢様:そうくると思ったけど、羊よ?メェ~って鳴く方を数えなさいよ!

メイド(執事):メェ~ドが四人。メェ~ドが五人。冥土へ六人。冥土へ七人……

お嬢様:ちょっ、死んでない?ホントやめて?灯りつけてぇぇぇ!

ーボッ

お嬢様:ぎゃぁぁああ!なに顔の下から照らしてんよっ!しかも、ろうそく!

メイド(執事):祭壇で使う予定のろうそくでございます。部屋が暗すぎて、灯りのスイッチの位置がわかりません。

お嬢様:バカなの?

メイド(執事):そんな汚い言葉を使われて……、困ったお嬢様ですね。

お嬢様:困ってんのはこっちよ!

メイド(執事):では、眠気を誘う飲み物でもご用意いたしましょう。ホットミルクかハーブティー、どちらがよろしいですか。

お嬢様:そうねぇ……

メイド(執事):「ビーフ、フィッシュorチキン?」

お嬢様:それ飛行機!

メイド(執事):ちょっと言ってみたくなりまして。

お嬢様:……。ハーブティーにして。

メイド(執事):かしこまりました。摘んでまいります。

お嬢様:摘むところから?

メイド(執事):ジョークでございます。

お嬢様:イライラする……

メイド(執事):では、こちらをどうぞ。

お嬢様:これは、(香りをかいで)カモミールね。

メイド(執事):はい。カモミールは、不安や緊張を解き、体を温めたり、気持ちを落ち着かせたりする作用があります。冷めないうちにどうぞお召し上がりください。

お嬢様:(飲む)あ、おいしい……。

メイド(執事):紅茶とブレンドしてあるカモミールティーにはカフェインが含まれますので、就寝前に飲む場合は100%カモミールのものがお勧めです。

お嬢様:(飲む)ぽかぽかしてきたし、ちょっと落ち着いてきたかも。

メイド(執事):何よりでございます。

お嬢様:あなたは寝る前に何か飲んでるの?

メイド(執事):コーラを一気飲みしています。

お嬢様:カフェイン、ダメじゃん!

メイド(執事):そして、徳川十五代将軍の名前をすべて言います。

お嬢様:それ、誰かのネタよね!

メイド(執事):そうでございますね。

お嬢様:誰だっけ?教えてよ、気になるから!

メイド(執事):どうぞ、お気になさらずに。

お嬢様:気ーにーなーるー!……それで?眠くなるわけ?

メイド(執事):「暴れん坊将軍」あたりから眠くなってきます。

お嬢様:誰?!

メイド(執事):どうぞ、お気になさらずに。

お嬢様:モヤモヤするぅ!あなた、そんなことしてたら、そのうち病気になるわよ?

メイド(執事):お気遣いありがとうございます。

お嬢様:話がかみ合わない!

メイド(執事):どうです?疲れましたでしょう。

お嬢様:え、なに、わざとやってたの?

メイド(執事):いいえ。

お嬢様:くぅぅ……。もう!もー、いいわ!これ以上あなたとやり取りしてると眠れそうにないから、さがって!

メイド(執事):かしこまりました。

お嬢様:すんんんごく疲れたから、逆に眠れるかもしれない。

メイド(執事):それでは、おやすみなさいませ。お嬢様。

ードア、パタン

お嬢様:ふぅ……。やっと静かになったわ……。

【長めの間】

お嬢様:ガバッ!(起きる)ちょっと!ドアの隙間からのぞかないでよ!

メイド(執事):お嬢様が眠りにつくまで、ずっと見守っております。

お嬢様:気が散るから、ホントやめて!

メイド(執事):どうぞお気になさらずに。

お嬢様:眠らせてぇぇぇぇっ!


ーFin.