落語声劇『梅干』

 [1:0:1](一人読み可)※20~30分

【登場人物】

・ご隠居:物知り
・源:大工
・お梅:源の女房
「枕」と源(兼ね役)
ご隠居とお梅(兼ね役)

※「枕」は自由にアレンジしてください。
※語尾変更、アドリブ可
※少しだけ、落語「堪忍袋」が混ざっています。
#オンリーONEシナリオ2002 

【豆知識】

・「マジ」は江戸時代に芸人の楽屋言葉、いわゆる「業界用語」として生まれたもの。今と同じ「真面目に」という意味で、「マジになる」「マジな心」といった用法が確認されている。

・「ヤバい」は江戸時代の滑稽本・十返舎一九の「東海道中膝栗毛」にも「やばなこと」という表現が見られる。

・「田辺印(たなべじるし)」:江戸庶民の梅干を食べる習慣が、全国に広がるにつれ、梅干の需要はますます多くなった。紀州の梅干は「田辺印(たなべじるし)」として、特に評判を呼び、田辺・南部周辺の梅が樽詰めされ、江戸に向け、田辺港から盛んに出荷された。


------【枕ここから】-----

2月といえば、節分、雪まつり、バレンタイン、猫が好きな人は「猫の日」と、まぁいろんな行事や記念日はありますね。

あたしはバレンタインデーはまったく興味ないですけどね。チョコレートなんか別に欲しくもなんとも思わないですよ。でもまぁ、いただけるっていうなら、いただかないこともないですけどね。ええ。

忘れちゃあいけないのは、まだ冷たい空気の中、春を感じさせてくれる花、「梅」ですね。

梅の花が咲く頃の「梅の日」が、二月十一日。

梅の実が収穫される頃の「梅の日」が、六月六日だそうです。

梅の花を見つけると、ああ、春まであともう少しだな、と思いますね。

梅の花は「ほころぶ、こぼれる」、桜は「咲く、散る」と表現されることが多いですが、いかにも日本人らしい感性で、情緒的で細やかな意味の違いを言葉を変えて表現する日本文化を大切にしていきたいものです。

昔は近所でもよく見かけましたけど、少なくなってきました。わざわざ「梅の名所」を探して出かけないと見られなくなってきました。

有名どころでは、「水戸偕楽園(みとかいらくえん)」でしょうか。金沢の「兼六園」、岡山の「後楽園」とならぶ「日本三名園」のひとつで、天保十三年(1842年)に、江戸幕府第15代将軍「徳川慶喜」の実父、水戸藩第九代藩主「徳川斉昭」(とくがわ なりあき)によって造園されました。

「偕楽園」の「偕」は、「ともに。みな。いっしょに。」という意味。領内の民と偕(とも)に楽しむ場にしたいと願った斉昭の想いが込められているそうです。

昭和九年には、特に優れた梅、六品種を選定。「水戸の六名木」と呼ばれています。

「烈公梅(れっこうばい)」、「江南所無(こうなんしょむ)」「白難波(しろなにわ)」「 柳川枝垂(やながわしだれ)」「虎の尾(とらのお)」「月影(つきかげ)」

いやぁかっこいい名前ですねぇ……。

……どんな梅なんでしょう。

あとは「梅干」。こちらの方が身近ですね。好き嫌いがあると思いますが、いまは大粒で柔らかくて、はちみつ漬けなんてのもあり、随分と食べやすくなりました。

昔の梅干は、小ぶりで硬くて真っ赤で酸っぱくて、あたしは(好き/苦手)でしたけどね。(※演者によって変えてください。何かエピソードがあればどうぞ)

「梅の日」に梅干を食べて、昔から育まれてきた日本伝統の味の大切さ・おいしさを味わってみるのもいいもんですね。

------【枕ここまで】-----

【本編】

ご隠居:おや、源さんじゃないかい。仕事の帰りかい?

源:ご隠居!こりゃどうも!そうっす。

ご隠居:そんなところでボーっとして、どうしたんだい?

源:ボーっとなんかしてませんって。

ご隠居:突っ立ってるじゃないか。で、何をしてるんだい?

源:なんかいい匂いがするなぁっと思ってね。

ご隠居:ああ、おかみさんたちが夕餉(ゆうげ)の支度をはじめる頃だからねぇ。

源:そうじゃねぇっすよ。こいつぁたぶん、花ですよ!

ご隠居:はな?そりゃ、お前さんの顔にちゃーんとついてるよ。

源:そこまでぼんくらじゃねぇや。咲く方の花ですよ。

ご隠居:ほぅ。源さんも「花鳥風月(かちょうふうげつ)」がわかるようになってきたんだねぇ。

源:いやぁ、そこまでじゃねぇんですけどね、へへっ(照れる)

ご隠居:源さん、もうすぐ死ぬねぇ。

源:なんでだよ!

ご隠居:自然の美しい景色は、歳を重ねるごとに、だんだんと良さが分かっていくもんだ。「花鳥風月」は「老い」や「歳を重ねる」という意味もあるんだよ。花を見て綺麗と感じ、鳥をみて自由に憧れ、風で風情を感じて、最後は月を見て懐かしいとふける。

源:なるほどね。……って感心してる場合じゃねぇ!オレぁ、ご隠居より先に死ぬつもりはねぇや。

ご隠居:そうかい、そりゃ残念。

源:なんだぁ?いくらご隠居でも許さねぇぞ?

ご隠居:いやいや、ちょっとからかっただけですよ。時間があるなら、一緒に隣の寺に寄ってみようじゃないか。それとも、早く帰らないと、おかみさんの雷が落ちるかい?

源:そんなことねぇ。うちのおっかあなら大丈夫だ。

ご隠居:それは仲のいいことで。じゃあ、いらっしゃい。ほら、これ。見てごらんよ。

源:え……?ああ、梅かぁ!あれ、黄色い梅?こいつぁ、はじめてみましたよ。

ご隠居:「蝋梅(ロウバイ)」だよ。梅の仲間ではないよ。

源:ええっ!!!(大げさに驚くふり)

ご隠居:……それは「狼狽(ろうばい)」。そうじゃない。梅の仲間なら花びらが五枚だ。よく見てごらん。ロウバイの花びらは、十枚前後あるだろう。

源:じゃあ、なんで「梅」ってつけたんですかねぇ。

ご隠居:葉がすっかり落ちてしまうと、裸の小枝に直接花がついた様子が、梅の木によく似ているからだろうねぇ。

源:じゃあ、「ロウバイ」の「ロウ」ってなんすか。

ご隠居:名前の由来は様々だそうだが、ひとつは「蝋細工(ろうざいく)」のようだから。よく見てごらん、きれいなもんだろう?

他には「唐梅(からうめ)」、「南京梅(なんきんうめ)」とも呼ばれるけどね。あたしは「ロウバイ」という言い方が気に入っているねぇ。

寒い冬に甘い香りを放つ「蝋梅(ロウバイ)」。ええ?いいもんだろう。

源:へぇ、こいつぁ、見事なもんだねぇ。職人が見たらうずうずしそうな出来栄えだ。

ご隠居:そりゃ「雪中四友(せちゅうしゆう)」のひとつだからねぇ。

源:せっちゅう…?

ご隠居:「玉梅(たまうめ)」、「蝋梅(ロウバイ)」、「水仙(すいせん)」、「山茶花(さざんか)」の四つの花をさす。寒雪に耐えて早春に咲く、香りのよい花だ。

文人画(ぶんじんが)に好んで描かれたのが「雪中四友(せちゅうしゆう)」だ。

源:さすがご隠居、物知りですねぇ。あれ、他にも香りがしません?

ご隠居:ほぉ、気づいたかい。ほら、こっちだ。

源:……お、これは梅っすよね?(嗅ぐ)梅も香りがするんですねぇ。

ご隠居:この梅は、枝は細く、花や葉も小ぶりだが、とてもよい香りがする。花を観賞する「花梅(はなうめ)」、実を収穫する「実梅(みうめ)」あとは、花を楽しむことができて良い実が収穫できる梅もある。

源:へ?梅って一種類じゃねぇんですか。花の色が白と紅(あか)ってだけでなく?

ご隠居:ふむ……。源さんは、まだまだ死にそうにないねぇ。

源:どういうことっすか!死なねぇけどよ!

ご隠居:花梅には三系九性(さんけい・きゅうしょう)あって、一つめは「野梅系(やばいけい)」の、野梅性(やばいしょう)、難波性(なにわしょう)、紅筆性(べにふでしょう)、青軸性(あおじくしょう)。

二つめは「緋梅系(ひばいけい)」の「紅梅性(こうばいしょう)」、「緋梅性(ひばいしょう)」、「唐梅性(とうばいしょう)」

三つめは、「豊後系(ぶんごけい)」の「豊後性(ぶんごしょう)」、「杏性(あんずしょう)」

で、この梅は、野梅性(やばいしょう)で「八重野梅(やえやばい)」

源:え?ちょっ、え?なんだぁ?「きゅうしょ」?「やばい」に「よばい」?「こんちくしょう」に「ひばん」に「どうでしょう」?「こぶん・おやぶん・おおおやぶん」?

ご隠居:どんな聞き間違いをしているんだよ……

源:この梅は、「マジヤバぁい」

ご隠居:違う違う、「八重野梅(やえやばい)」。ほら、花びらが重なって咲いているでしょう。よく見てごらんなさい。

源:はぁ~、こりゃ気づかなかったねぇ。そんなに種類があるとは……。こいつぁまたひとつ頭がよくなりました。

ご隠居:頭に花が咲いたかい?

源:咲いてねぇよ。

ご隠居:じゃあ、「梅」という字はわかるかい?

源:わかりますって!左に「木」を書いて、え~、右にぃ……、なんだぁあれは、こう「ノ」に横棒くっつけて、その下に「母」って書くんでしょ。

ご隠居:ほう?さすがに知っていたかい。

源:ご隠居ぉ、うちのおっかあが「お梅」って名前(なめぇ)だよ?

ご隠居:そうだったそうだった。まぁ、そうカーッとしなさんな。そうさな、「烏梅(うばい)」でも煎じて飲むといい。「熱冷まし」に効くらしいからねぇ。

源:う、うまい?

ご隠居:「う・ば・い(烏梅)」。「う」は「烏(カラス)」だ。未熟な梅の果実を黒く燻(いぶ)して乾燥させたもので、実がカラスのように真っ黒になることから「烏梅」と呼ばれている。

源:こらぁ面白い。帰ったら(けえったら)おっかあに話してやらぁ。ご隠居、他にありませんか。梅のうんちく……、うんちくしょう!

ご隠居:なんだい、その言い方は……。お前さんに教えても「梅木学問(うめのきがくもん)」のような気がするけどねぇ。

源:そいつぁ、どんな学問なんすか?

ご隠居:「梅の木は、成長は早いが大木にはならないことから、にわか仕込みで不確実な学問」ってことだ。

源:こんちくしょう!

ご隠居:まぁ、お前さんは「梅根性(うめこんじょう)に柿根性(かきこんじょう)」なところもあるからねぇ。

源:な、なんでぇ、そりゃ。

ご隠居:「梅根性」というのは、梅はなかなか酸味を失わないところから、頑固で、なかなか変わらない性質。「柿根性」は渋い柿がすぐ甘くなるような、変わりやすい性質のことだ。

源:ひでぇ言われようだなぁ。

ご隠居:いい意味では「頑張り屋」、「融通のきく性質」だよ。

源:まったく、人をあげたりさげたり、忙しいこったな!

ご隠居:ハハハ。じゃあ、梅の字の話だ。梅という漢字の右側「毎(まい・ごと)」は本来の意味は、氏族社会の中で子供を最も多く育てた母親のことだったそうだ。梅が実をつける時、必ず枝全てにつらなって実をつけることから、「安産」とか「子孫繁栄」の願いが込められている。

源:「安産」「子孫繫栄」っすか。はぁ~……

ご隠居:どうしたい?

源:いや、なんかこう……、急に、おっかあに会いたくなってきたなって思って……

【しばし間】

ご隠居:……お前さんところ、もう三人子どもがいるだろう?

源:へい、梅の実が三つできました。

ご隠居:そうかい……

源:いちばい(梅)、にばい、さんばい、よば…

ご隠居:あ~!源さん、「万葉集」は知ってるかい?

源:知らねえ!

ご隠居:いばって言うことじゃあないよ。……例えば、

「年のはに、春の来らば、かくしこそ、梅をかざして、楽しく飲まめ」(としのはに はるのきたらば かくしこそ うめをかざして たのしくのまめ)

つまり、「毎年、春がやってきたら、こうして梅を髪にさして、楽しく飲みましょう」ということだ。梅の花をカンザシにだよ、ええ?小粋じゃないかい?

源:そりゃ、おっかあも喜ぶかもしんねぇな!一本いただいて帰るとすっか。

ご隠居:ここは境内だよ。勝手に折っちゃダメだ。

源:けちくせぇなあ。……他にありませんか、うんちくしょう。

ご隠居:その「しょう」はいらないんだよ。他に?え~、奈良時代にはー

源:長いな。

ご隠居:なんだって?

源:奈良時代から話すおつもりで?明日の朝になっちまいますよ。

ご隠居:……鎌倉時代ではー

源:長ぇっすね。

ご隠居:お前さんが、もっと「うんちく」聞きたいって言うからー

源:まぁまぁまあ。「うがい」でも煎じて飲んで、頭冷やしてくださいよ。

ご隠居:「烏梅(うばい)」だよ!まったく……、じゃあ、戦国時代は?

源:あ、手短にお願いします。

ご隠居:……、戦に明け暮れる武士は、食料袋に「梅干丸(うめぼしがん)」を常に携帯していたそうだ。 戦場で倒れたときや元気を失ったときなどに唾液を催(もよう)させる「息合の薬(いきあいぐすり)」として使われ、息切れをととのえたり、梅干の酸っぱさを思い、口にたまるツバで喉の渇きを癒したそうだ。

源:梅干!いいっすねぇ。ツバがでてきやしたよ。うちの梅干もうまいっすよ。

ご隠居:ほぉ。紀州のかい?

源:紀州の「田辺印(たなべじるし)」ですね。ウチで漬けたのもありますよ!

ご隠居:源さんが漬けたのかい?

源:おっかあが漬けました。

ご隠居:そうかい。梅干は長く漬けたほうが味がいいというからね。何年くらい漬けてあるんだい。

源:上の子が産まれる前だったから、三年~四年は経ってますね。

ご隠居:そりゃいい頃だねぇ。

源:で?

ご隠居:……で?

ああ、いまじゃ大晦日や節分の夜、梅干に熱いお茶をそそいだ「福茶」を飲んで、正月には黒豆と梅干のおせつ「喰積み(くいつみ)」を祝儀ものとして食べるようになりました、と。

源:めでたし、めでたし!

ご隠居:ちゃんと聞いてたのかねぇ。

源:よっ!梅奉行!

ご隠居:なんだいそりゃ。源さん、酔ってんのかい。

源:いや、吞んでねぇっす。こどもができてからは、まっつぐ帰るようにしてるんでね。

ご隠居:そりゃ殊勝なことで。

源:しかし、あれっすねぇ。梅と酒の話をしてたら、梅酒が吞みたくなってきやしたよ。

ご隠居:いいねぇ、梅酒。古酒(こしゅ)で三年間以上熟成させた酒で作った梅酒は特に美味い。新酒で作るよりも古酒のが味がよくなる。三年酒ともなると、色は美しく、味・香りとも、一段とおいしいね。

日も落ちて来て、風も冷たくなってきた。あたしも帰って、一杯やりたくなってきましたよ。

源:ご隠居の長話に付き合ってたら、体が冷えてきやがった。

ご隠居:長話で悪かったね!

源:冗談でさぁ。そんなおっかない顔して近づいて来ないでくださいよ。おっとと、足元が!転んじまう……っと!

ご隠居:あっ!梅の枝を!

源:あちゃ~、折れちまった。これは、ご隠居のせいですぜ?

ご隠居:いまのはワザとでしょう!

源:持って帰ればバレませんって。じゃ、こっちも、お梅が待ってるんで!

ご隠居:源さんとこは仲がいいねぇ。「梅に鶯(うぐいす)」だ。

源:「ホーホケキョ!」とくりゃあ。へへ。ありがとうございやす!失礼しやす!

ご隠居:まったく。さて、あたしも帰ることにしようか……、おっとと!こんなところに石ころが。ああ、梅の枝が折れてしまった。仕方がない、持って帰ることにしますか。

【間】

源:お梅~!お梅~!お梅!帰ったぞ(けえったぞ)!

お梅:なんなんだい。表から声が聞こえてきたよ?長屋なんだから、ご近所に聞こえてしまうじゃないか。

源:いいじゃねぇか。隣なんか毎日大喧嘩してやがる。

お梅:最近は、静かだよ。

源:お、どっちか死んだか!

お梅:めったなこというもんじゃないよ。ご隠居さんに「堪忍袋」を作って、そこに言いたいこというように、と教えてもらったらしくてね。そしたら、お互いスッキリして、うまくいってるみたいだよ。

源:へぇ、さすがご隠居だな。

お梅:今日はちょいと遅かったね。忙しかったのかい?

源:そのご隠居と立ち話よ。え~と、「きゅうしょ」「うばい」「やばい」「よばい」、「こんちくしょう」に「ひばん」に「どうでしょう」、「こぶん・おやぶん・おおおやぶん」!

お梅:なんだって?

源:いやいや、ご隠居から梅の話を懇々(こんこん)と聞かされたのよ。年寄りの話は長くていけねぇ。

お梅:梅の話かい?

源:もう梅が咲き始めててよ。寺に寄ったら何本もあったんだよ。梅も香りがするんだぜ?知ってたか?

お梅:そりゃ知ってるよ。そうかい。咲き始めたのかい。春近しだねぇ。

源:それと……、ほら。

お梅:あら、梅の枝。取ってきちゃったのかい?

源:まぁいいじゃねぇか。ほら、髪にさしてやらぁ。

お梅:ええ?

源:そら。(髪にさしてあげる)

お梅:……珍しいこともあるもんだねぇ。

源:へへ。

お梅:似合うかい?

源:いいねぇ。お梅に梅の花!

お梅:お前さんったら……(照れ)。ああ、子どもたちも一緒に、お寺に連れていってみようか。

源:おお、いいね。(こどもたちに)おい、おい!何寝てんだ、起きろ!

お梅:ちょ、ちょいと!いまさっき、寝たところなんだからさぁ、寝た子を起こさないでくださいよ。

源:いまから行くのかと思ったからよ。

お梅:もう外も暗くなってるし、寒いんだから。

源:そうだな。どれ、寝顔を見てくるか。え~、いちばい、にばい、さんばい……

お梅:なんだい、いちばいって。一人、二人、三人でしょ。

源:(お梅をみて)よばい……

お梅:へっ?!

源:お梅……

お梅:ま、まさか……、変な気、起こしてないだろうねぇ?

源:変な気ってなんでぇ。オレたちゃ夫婦だろ?子孫繫栄……

お梅:いやいや、あのね、三人、年子(としご)だよ。一番下の子がようやく寝返りをうてるようになったんだから。この子たちに、一気に泣かれてごらんよ?もう、ほんっとに大変なんだよ?

これでまた一人できたら、お前さん、いまより、も~っと稼いでくれないと、子どもたちに、おまんま食べさせられなくなっちまうんだよ?

源:わぁってるよ。

お梅:ほんとにわかってるのかい?

源:わぁってるって。

お梅:こっちは、毎回死ぬ思いで産んでるんだからね!

源:ありがてぇ。チーン。

お梅:死んでないよ!

ああ、そうだ、夕餉(ゆうげ)!夕餉の用意できてるから、ね。食べたら、いろいろ落ち着くから。

源:お、そうだった。あ~、腹減ったなぁ。梅酒も呑みてぇな。

お梅:ふぅ……、じゃ、いま出しますからね。ご飯に味噌汁に―

源:おぅ、アレだしとくれよ、アレ。

お梅:はいはい。梅干でしょ。

源:今日はアレも食いてぇなぁ。

お梅:はい、煮物。

源:さすがだねぇ。それとアレも!

お梅:はい、イワシ。

源:すげぇな。アレしか言ってねえのに。今日は豪勢だ!

お梅:何年の仲だと思ってるんだい。

源:同じ寺子屋に通ってた頃からだから、十…二、三年か?

お梅:真面目に働いてくれて、大きな揉め事もなく、子宝にも恵まれて、本当にあたしは幸せもんですよ。

源:そ、そうかい?じゃ、やっぱり―

お梅:ああ~っと、その梅干、どうだい?今日のは、あたしが漬けた梅干だよ。

源:どれ。う~っ!すっぺぇ!

お梅:あら、酸っぱすぎたかい?

源:いや、いい塩梅(あんばい)だ。飯がすすむぜ。

お梅:そりゃよかった。

源:あ~、うめぇ。「女房と畳は新しい方が良い」なんて言うけどよ、オレぁ、そうは思わねぇな。

お梅:あら、畳は新しい方がいいでしょう?

源:そうじゃなくてよ。「梅干とダチー」、いや、「梅干と女房は古いほどいい」

【終演】

※「女房と畳は新しい方が良い」:若い妻と新しい畳は、いつもすがすがしくて気分がよいものだということから転じて、新しいものはすべてすがすがしくて美しいということ。 

※「梅干と友達は古いほどよい」:古い友だちほどたよりになる。