2023年12月 朗読劇(ステージ用)に書き下ろした作品です。
2023/12/25@ Jackpot 第68回放送 クリスマスライブ2023
■登場人物
・綾子:コンビニでバイトをしている大学生。イライラしている。
・店長:コンビニ店長 30代半ば。
・副店長:店長の妻 30代半ば。
・男(タカシ):綾子の彼氏 大学生。空気が読めない。
※約20~30分
【本編】
―12月25日 夜8時 コンビニ店内
綾子:いらっしゃいませ!
はい、村上様ですね。少々お待ちください。
こちら、ご予約のクリスマスケーキです。
ありがとうございました!メリークリスマス!
―綾子、笑顔が消える
綾子 :(ため息)はぁ~~~~~~あ!
店長:綾ちゃん、おつかれさま。
綾子:あ、店長。
店長:いまので予約のお客様、最後だね。もうあがってもいいよ。
綾子:いえ、まだ8時(20時)ですし、今日は10時(22時)までのシフトなので大丈夫です。
店長:今日は朝から頑張ってくれて、疲れたんじゃない?
さっきすんごいため息ついていたし……。
昨日も明日もシフト入ってくれているけど大丈夫?
綾子:いえ、何も予定はないので大丈夫です!
店長:そう?何か約束があるんじゃないかい?彼氏くんとか。
綾子:ほんっとうに!なああんにも!予定がない!ので!今年は稼ぎます!
店長:でも~、 彼氏くんをほっといて大丈夫―
副店長:(被せて)ちょっと、あなた!じゃなくて、店長!
店長:あ、何か余計なことを言ってしまったか?
副店長:ごめんね、綾ちゃん、デリカシーのない店長で……
綾子:いえ、ホントに大丈夫なんです。気にしないでください。
お客さんひいたので、商品、前陳してきます。
店長:あ、うん、頼むよ。
-綾子、退場
副店長:ちょっとあなた!こっちこっち!
店長:なんだよ。
―店長をバックヤードへ連れていく
副店長:綾ちゃんね、先月、彼氏さんと別れたみたいよ。
店長:そうなのか?!
副店長:いや、たぶんだけど。
店長 :たぶん?直接聞いてないのか?
副店長:聞いてないわよ。
店長:じゃあ、なんでわかるんだよ。
副店長:そこは、女の勘よ。
店長:出たよ、女の勘。
副店長:あ、バカにしたでしょ。
店長 :いや、してないけどさぁ。
副店長:あなた、この前、半休とったでしょ?
店長:あ、ああ。それは床屋に行きたくて……
副店長:床屋の後、映画、見てきたでしょ。「劇場版シティーパンサー」
店長:ええっ?!
副店長:その後、主人公に触発されて、美人三姉妹で経営している喫茶店に寄ったわね。
「喫茶キャッ―」
店長:ああああああ! いや、そそそそ、そぉんなことは!!
副店長:コソコソと。
店長:な、なんでわかったんだよ。
副店長:帰ってきたら、全然目をあわさないし。
店長:うっ!
副店長:あなたが大好きな主人公の久々の映画でしょ。絶対行くと思っていたのよね。
帰宅したら、顔がキリッとしたり、鼻の下伸ばしたり……
挙動不審すぎるのよ。
店長:ずる休みしたわけじゃないんだからいいだろう?
副店長:素直に言えば怒らないのに……
店長:お、俺の話はあとでいいじゃないか!
いまは、綾ちゃんのことの話だろう?
副店長:女はね、男に比べて観察力がすぐれているのよ。
女の勘、バカにしたら痛い目みるんだからね。
店長:わかった、わかったから。
で、綾ちゃんが彼氏くんと別れたって、なんでそう思ったんだよ。
副店長:まず、スマホのチェックが少なくなった。
店長:ほぅ?
副店長:ため息が増えた。
店長:さっきすごかったな。ため息というより、ちょっとしたハリケーン?
副店長:イライラしている。
店長:たまに「は?」って言われる……
副店長:笑顔が、営業スマイルのみになった。
店長:確かに。
副店長:イチャイチャカップルが入ってくると、目からビームが出てる。
店長:それは怖いし、ダメだぁ。
副店長:何より!恋する乙女に特有の、華やかなオーラがなくなった。
店長: そうか~?
副店長:ったく、鈍いわねぇ。
―入店の音
―顔を隠すように入ってくる若い男
綾子:店長!
店長 :(声ひっくりかえる)はい!すいません!
綾子:レジ対応、お願いします。
副店長:ほら、行ってきて!私はここで観察しているから。
店長 :なんか怖いよ……
副店長:いいから!
店長:い、いらっしゃいませ。
男:(小声で)あの……、ケーキ、ありませんか。クリスマスの。
店長:クリスマスケーキですか?ご予約は―
男:予約はしてないんです。もし、残っていたらと思って。
店長:申し訳ございません。今年は予約だけで、あとは、スイーツコーナーにあるものだけでして。
男:毎年、店の前でコスプレして、そこでケーキを売っていたから、今年もあるかと思ったんですけど。
店長:すみません。今年は見送りまして……
男:そうですか……
店長:はい……
男 :はぁ……
店長:はい……
綾子:ちょっと。
店長:はい!すいまっせん!!!
綾子:店長じゃないですよ。何さっきからビクビクしているんですか。
副店長:(小声)「さっき」から、「殺気」がすごいから……
綾子:はい?
店長 :なんでもないです! (副店長に)いま、くだらないこと言うな!
―男にむかって
綾子:あなた。タカシでしょ。
フードかぶって、マスクして、声色変えて、余計あやしいのよ。
タカシ:綾子……
―タカシ、顔を出す
店長:それで、蚊みたいな声だったのか……。あ、綾ちゃんの知り合いかな。
副店長:きっと元カレよ!
店長 :ちょーーーっ!!
綾子:何しにきたの?
タカシ:そりゃ、綾子に会いたくて……。電話にも出てくれないし、メッセージも既読にならないし……。
副店長:ああ!来る!来るわよ、修羅場が!
店長:修羅場は家の中だけで十分なんだよ……
綾子:私たち、少し距離をおこうって話したでしょ?
タカシ:俺は納得してない。綾子、今日はバイト何時まで?「残り物のコンビニスイーツしか」ないらしいけど、なんか買って、ウチで話そうぜ。
店長:言い方……。コンビニスイーツだってうまいんだぞ。
綾子:今日は10時(22時)まで。終わったら、帰ってすぐ寝るから。
正月は実家に帰省する予定だし、バイト頑張ってるの。だから時間ない。
副店長:バッサリ!いったい、綾子とタカシに何があったのか!
タカシ:なんでだよ、バイトなんかいいじゃん。今日は、クリスマスだぜ。
綾子:それが何よ。
タカシ:恋人が甘い時間を過ごす日だろ。
綾子:違うわよ。
副店長:確かに、本来は違う!日本は、クリスマスイベントを楽しむ日、または、いつもよりちょっとお洒落をして恋人たちが愛を語る日として、商業的なイベントになっている!コンビニ的にも稼ぎ時!
店長:なんつー、夢のないことを……
タカシ:なんだっていいだろ。俺の何が悪かったんだ。
綾子:だから、言ったでしょ?記念日、サプライズが好き過ぎ、やり過ぎてウザいの。
副店長:ストレートに来たー!
タカシ:なんでだよ!女子は好きだろ、そういうの!
綾子 :そういうとこよ。私のことわかってない!
副店長:はい、残念。サプライズが嫌いな女子もいる!
店長:そうなの?
副店長:あなたは、やらなさすぎね。
店長:すいません。
タカシ:俺はぁ!綾子と出会えてから、毎日がスペシャルなんだよ!
副店長:うわ、ふっる!(古っ)
タカシ:だから、毎日記念日にしたくて―
綾子:だからって、LINEを交換した記念。告白した記念。付き合い始めた記念。一緒にお月見バーガーを食べた記念。一緒に写真を撮った記念。名前で呼び合うようになった記念。映画に行った記念。水族館に行った記念。初めて手をつないだ記念。海に行った記念。
ああ、もう、あげればキリがない!毎日、何かしら記念日にするのは勝手だけど、365日サプライズされるこっちの身にもなってみてよ?!
タカシ:まだ、365回もやってないぞ!目標にしてるけど!
店長:目標にしてるんだ……
副店長:それはドン引き。
綾子:私、目立つの、嫌なの。
タカシ:俺は、綾子のために、綾子が喜ぶと思って……
綾子:そういうとこよ!結局、自己満足じゃない!ジコチュー!私は周りから注目されるのが嫌いなの!恥ずかしいの!何回、フラッシュモブしたと思う?
副店長:ああ、フラッシュモブ、しんどいよね。
店長:あれって、何回もするものなの?
タカシ:そんなん覚えてねぇよ。
副店長:覚えてないくらいやったんだ……
店長:メンタル、「鬼」だな。
綾子:そのたびに、周り巻き込んで、他人から注目されてさ。
タカシ:綾子だって、喜んでいたじゃないか!
綾子:喜ぶフリしないと、協力してくれた人たちが気まずくなるでしょ!
副店長:あ~、なるなる。
綾子:ハロウィンの時なんか、カボチャの馬車を作って、私を渋谷まで乗せていこうとしたでしょ。動かなったからよかったわ。
シンデレラなのか、ハロウィンなのか、もうわけわかんない!
副店長:ああ、何年か前にテレビで見たわ。でっかいカボチャの神輿。
店長:なんでも、日本流にアレンジしてオリジナル感出すよな。
さすが、祭り大好き日本人。
綾子: 私「パリピ」じゃないのよ。ホント勘弁してほしい。
タカシ:そんな……、一生懸命DIY(ディー・アイ・ワイ)をしたのに……。
俺に、魔法は使えなかった。くそっ!
綾子:もうちょっと、ゆっくりとお互いのことを知ってからでいいじゃない。
大学のサークルで出会って、夏休みから付き合いはじめて3か月だよ。
怒涛の記念日攻撃に、私、もう疲れたのよ!
副店長:倦怠期!
店長:タカシくんにとっては、はじめてできた彼女だったのかな……
タカシ:綾子、今日のクリスマスコスプレ、かわいいよ。
綾子:ねぇ、話、聞いてる?!
タカシ:そのまま、街に出かけようぜ。俺、トナカイの着ぐるみ買ってきてあるんだ。
それにイルミネーション、ぐるぐる巻きにしてさ。目立つぜぇ。
綾子:だから、目立つの、嫌いなんだってば!
それにこれは、店長に言われて仕方なく着てるの!
店長:大変申し訳ございませんでしたぁぁ!
綾子:もう帰って。帰らないと、通報するわよ。
タカシ:俺が何をしたっていうんだよ!
綾子:「ストーカーです!」って通報する!
副店長:警察沙汰はまずいわよ。あなた、行ってきて!
店長:ええ~!!
―副店長、「行け!」というジェスチャーをする
店長:(咳払い)あー、あの、お取込み中のところなんなんですが、お客様、店員が困っているようですので、お引き取り願えますか?
タカシ:なんでだよ!
綾子:防犯カメラにバッチリ映ってるんだからね。
これで店長に手でも出したら、言い訳できなくなるわよ。
タカシ:っ!……わかったよ。でも、俺はあきらめねぇから。
―タカシ、帰る。
店長:ふぅ~、よかった……。
綾子:お騒がせしてすみません。
副店長:綾ちゃん、大丈夫?なかなかのパリピボーイだったわね。
綾子: ……悪い人ではないんです。
副店長:あ、察し。
店長:なになになに?
綾子:店長と奥さんは……、副店長とは、こんなことはなかったですか?
副店長:ウチはびっくりするくらい記念日やらないわねぇ。
忙しいからか、忘れちゃっているのか、ワザとなのか。
綾子:それもどうかと思いますよね。
店長:今日の綾ちゃんの言葉は刺さるなぁ……
綾子: 「毎日記念日」という気持ちも悪いことではないと思うんですけど、相手の気持ちを汲み取らないと、ただの「今日は、何の日でしょう?!」「はい、クリスマス、スケートの日、未来を担う水素電池の日」みたいで、特別感が薄れる気がするんです。
ハッピーじゃない。
店長:よく知っているね……。
副店長:そうねぇ。タカシ君は「やってあげた」というのか、ちょっと、押しつけがましいところがあったかなぁ。
綾子:このままじゃ彼のためにならないと思って、いったん距離をおこうって話したんですけど……
店長:なかなか手強そうだったな。
副店長:あなた、そんなこと言っているけど、人のこと言える?
あ~あ、毎年黙っていたけど、今年は聞いてみようかなぁ。
店長:な、なんだ急に?
副店長:ねぇ。今日は何の日か覚えてる?
店長:え?クリスマス、だ、よ、ね?(自信なさげに)
副店長:(ため息)本当に忘れちゃってるんだ。
今日は、私たちの「結婚記念日」
綾子:え、12月25日が「結婚記念日」なんですか?
店長:ハッ!!
綾子:それを忘れる?ない!ないわ~。
店長:いや!なんていうか、結婚式あげなかったし、すぐコンビニ経営はじめて、忙しくて、その……
綾子:言い訳しちゃってるわ。ないわ~。
副店長:こういう人なのよ……
綾子:お気の毒です。
副店長:でも、悪い人じゃないのよ。
綾子:お察しします。
店長、もうすぐ日付変わっちゃいますよ?どうするんですか。
店長:い、いまからやろう!
副店長:何を?
店長:「結婚記念日」のお祝いを!
副店長:どこで?
店長:バックヤードで?
綾子:うわ……
副店長:無理しなくていいわよ、ずっとやってこなかったんだから、期待もしてないし、いまさらー
店長:いや、やろう!俺たち夫婦の大事な日だ!もう客も来ないようだし。
綾子:そうなると、私、邪魔ですね。
店長:いや、綾ちゃんにもぜひ同席してほしい!
綾子:なんでですか。
店長:なんというか、その~……
副店長:二人きりだと怖いから。
店長:そう!いや、ちがーう!!
副店長:でも、何も用意してないじゃない。
店長:もう店閉めちゃおっか!ウチの商品、買っちゃおっか!
綾子:ええ~。
店長:よし!今日は「Happy Anniversary(ハッピー アニバーサリー)」だ!
―入店のベル
店長:え。
タカシ:綾子!向こうのコンビニで余ってたクリスマスケーキ、ホールでゲットしたぞ!
俺、いまからトナカイの恰好するから、パーティーしようぜ!
店長さんたちもイエーイ!
メリークリスマーーーース! イエーイ!
店長:ナイス!タカシ君!ワインはウチので!
あ、二人はソフトドリンクかな!イエーイ!
メリークリスマス&ハッピー アニバーサリー!
【一瞬の間】
綾子:だぁかぁら!
副店長:そういうところよ!
【終演】