【登場人物】[2:1]約50分
■銀次/興行主:
■ふく/大黒屋の女将/質屋/娘:
■ 亀吉/男/貧乏神(福の神)/疫病神/大家:
※枕は相談で。内容は、自由にアレンジしてください。
※「芝浜」サイドストーリー②
#オンリーONEシナリオ2022 12月
-------【枕】----------------------------------------------------------------------------
「一攫千金」の夢を見たいのは、江戸も現代も同じでございます。
「当たったら何をしよう」などと、夢も膨らむものです。
ま、だいたい当たらないんですけどね。
(福引や宝くじでの経験談を入れてもOK)
江戸時代、宝くじは「富くじ」または「富突き(とみつき)」ともいい、神社仏閣の修復などのために、幕府に富くじ興行が認められていて、天下御免の富くじ「御免富(ごめんとみ)」と呼ばれていました。
とりわけ有名だったのは、「江戸の三富」と称された「湯島天神」「目黒不動」「谷中感応寺(やなかかんおうじ)」で、頻繁に富くじ興行が行われていたようです。
くじの引き方は、富札を売り出し、木札を錐(きり)で突いて当たりを決めて、当選者に褒美金を支給するというもので、富札の売上額から、褒美金と興行費用とを差し引いた残高が興行主の収入となる仕組みでした。
落語にも、「高津の富(こうづのとみ)」や、「富久(とみきゅう)」「水屋の富(みずやのとみ)」「御慶(ぎょけい)」と、富くじに当たった江戸っ子たちの悲喜こもごもの噺がございます。
現代でも、当選者のその後を聞くと、急に、親戚、友人が増えたり、毎日ヒヤヒヤ生活したり、あっという間に使ってしまって前より酷い状態になってしまったり、ということもあるようですね。
一攫千金の夢は、夢のままのがいいのかもしれません。
-------【枕ここまで】-----------------------------------------------------------------
銀次:はぁ~(息をはいて手を温めている)寒い寒い。
このくそ寒いのに棒手振り(ぼてふり)か。いやんなっちまうなぁ。
ああ、布団と仲良くしてぇ。布団がオレを呼んでいる。
ふく:呼んでませんよ。
ほらほら、とってきたシジミ、はやく売ってこないと死んじゃいますよ?
銀次:シジミ売りは儲からねぇし、冬は辛いし……。
ふく:まぁ子どもでも、できる商売だからねぇ。
銀次:大人ができる商いがしてぇよ。オレには夢があるんだ。
それを見るために、オレぁ寝る!
ふく:どさくさに紛れて布団に入らないでくださいよ!
子どもみたいなこと言って……。
夢みて食えりゃ苦労はしないんですっって。
ほら、布団から出て!
銀次:いててて。亭主を転がすなよ……。
ふく:「たな賃」が溜まってるんだよ。もう暮れだよ?
この寒空の下、ほおり出されたくないんだよ。
あたしだって、針子をやってるってのに……。
銀次:明日から頑張ります……。
ふく:ここのとこ、毎朝、同じやり取り。
ぶつくさ言いながら仕事してると、貧乏神が住み着いちまうよ?
銀次:もう時すでに遅し、じゃねぇのか?
ふく:そんなこと言って……。
はい、「温石(おんじゃく)」を懐にいれて。
売り声を腹から出したら、あったまるから。
ほら、もうすぐ、鶏がないちまうよ。
銀次:別にいいじゃねぇか。ケッコー、ケッコー、コケコッコー!
ふく:何言ってるんですか。鶏より先に、朝をつげるのが、あさり売りと納豆売りだよ。
毎日きっちり同じ時間に、同じ場所で、同じ事をする事で、行く先々の方々から「あ、あの人が来たから、もう何時だ」って思ってもらえる大事な存在なんですよ。
銀次:わぁってるよ。
はぁ、もっとでっけぇ商いがしてぇよ。
ふく:そのためにも頑張ってくださいよ。はい、行った行った!
銀次:ちょっ!押すなって。
……あ~あ。じゃ、行ってくらぁ。
―棒手振りを背負う
よっと。
さて、やるか。
(売り声)「あーさりー しーじーみよー あーさりー しーじーみよー」
お味噌汁には、あさり!二日酔いには、シジミ!
香りよし、栄養あり、そして元気がでますよ。
(売り声)「あーさりー しーじーみよー!」
おかみさん、いかがですか?
へい、まいど!
【間】
女将:ちょいと、銀次さーん。
銀次:あ、大黒屋の……。いつもありがとうございます。
女房に、針子もさせていただきまして……
女将:ふくさん、丁寧でいい仕事してくれるからね、助かってるんですよ。
あ、シジミ、頂戴。
二日酔いの亭主にシジミ汁飲ませて、仕事してもらわないと。
毎晩呑みつぶれて、毎朝「どこそこが痛くて仕事ができない」って言うんですよ。まったく……。
銀次:ハハハ……。どこのウチも大変ですねぇ。
女将:ああ、暮れも近いから、芝の雑魚場(ざこば)はさらに活気づいてたでしょう?
銀次:いやぁ、あっし、雑魚場には出入りしてないんす。
なんせ仕入れる元手がねぇもんですから……
女将:そうなのかい?
銀次:へへっ。その日暮らしの身ですから。
いつか女将さんところみたいに、店をかまえてみたいもんです。
女将:銀次さん、踏ん張りどころですよ。
適当なことは言えないけどさ、変な気を起こさないで、真面目に働いていればきっといいことあるよ。
はい、じゃ、これお代金ね。
銀次:へい。ありがとうご……、あれ?これ、ちょっと多いですよ。
女将:いいの、いいの。お茶代と思って取っといて。
銀次:いいんですかい?
……あ、いっちまった。
いつも、ありがとうございます!
【間】
ふく:おかえりなさい。あら全部売れたじゃないかい。よかったねぇ。
銀次:最後は、女将さんが全部買ってくださったんだ。しかも、お駄賃付きだ。
ふく:そうかい、ありがたいねぇ。いつもお世話になって……。
銀次:いつまでこんな暮らしが続くんだか……。
恵んでもらってよぅ。オレぁ、情けねぇよ。
ふく:長屋のみなさんも似たようなもんじゃない。
あとはお互い助け合ったりしてさ、なんとかなってるよ?
銀次:オレ、店を持ちてぇんだ。魚並べてよぉ……。
あとは、鯛やヒラメの舞い踊りも見てぇなぁ……。
龍宮城に行って乙姫様に会いてぇよ。
それか、金が降ってこねぇかなぁ!!
「年末ジャンボ宝くじ」に当たらねぇかなぁ!!
ふく:なんて?
銀次:富くじだよ。富くじ。
ふく:そんなの「泡銭(あぶくぜに)」だよ。
「悪銭(あくせん)身に付かず」って言うだろ?
気が大きくなってさ、すぐに使っちゃって、いまより酷い状態になるよ?
やっぱり、地道にコツコツと働くことが大切ですよ。
銀次:福の神さんよぅ、どこ歩いてるんだい。オレんちは素通りかい?
ふく:神様に文句言っちゃあダメですよ。
さ、おまえさんのとってきたシジミ汁。
これ食べれば元気が出るから。
銀次:……甲斐性なしで、すまねぇ(ぼそり)
ふく:え?
銀次:いや……。シジミ汁……、うめぇよ。(鼻をすする)
ふく:おまえさん……
【間】
亀吉:兄ィ!銀次の兄ィ!
銀次:お、亀吉じゃねぇか。どうした。
亀吉:へへ。ちょいと遊びにいきやせんか?
銀次:遊び?まさか、おめぇ、また賭場に出入りして―
亀吉:しーーーっ!!!してませんよ。
あんときゃぁ、ふらっと入ろうとしたところ、
たまたま兄ィに声をかけられて、外で喋ってるうちに、岡っ引きがきて、
中にいたヤツ、みんなしょっ引かれてってよぉ。
ほんと冷や汗かきましたよ。
もし声かけられてなかったら、今頃はあっしは江戸にいませんぜ?
銀次:一回くらい捕まっとけよ。……あ。
亀吉:はい?
銀次:オレ、亀、助けたな。
亀吉:はい。感謝しておりやす。
銀次:よし、龍宮城に連れていけ。乙姫に会わせろ。
亀吉:はい……?乙姫?あ、ああ~、あそこですか?夜の、へへっ。
銀次:ばぁか、ちげぇよ。そうじゃねぇ。金がねぇんだよ。
亀吉:オレからせびろうってんですかぁ?
銀次:助けてやっただろ。オメェもオレに恩返ししろ。
亀吉:まいっちまうなぁ……。
銀次:で、遊びってなんだよ。
亀吉:あ、「富札」、買いに行きやせんか?
天下御免の富くじ「御免富(ごめんとみ)」
銀次:湯島天神か?
はぁ~、それを買う金もねぇんだよ。
おめぇと違って、おらぁ所帯持ちだ。
入ってくるもんより、出ていくもんのが多いんだよ。
……そういうオメェは持ってんのかよ。
亀吉:え、まぁ、ちょっと。へへ。
銀次:あやしい野郎だなぁ。まさか、盗んだとかじゃねぇだろうな。
亀吉:違いますよ!信用ねぇなぁ。
銀次:ねぇよ。
亀吉:ちょっと、質屋に―
銀次:押し入ったのか?
亀吉:違いますって!どうして、そう悪人にしようとするんですかぁ。
銀次:オメェとは小せぇ頃からの仲だ。
ホントに、どーしようもねぇ悪ガキだったからなぁ。
亀吉:お世話になっております。
銀次:「お世話になっております」じゃねぇよ。
質屋に、なに持ってたんだよ。
亀吉:親父の形見の「金の親子亀」とか。
銀次:親の形見を持ってくんじゃねぇよ!
亀吉:ま、木彫りの亀に、金箔はっつけてるだけなんすけどね。
あってもしょうがねぇんで。
質屋なんか、みんな気軽に利用しているんですから、かまわねぇでしょ。
銀次:オメェんとこはいいよなぁ。家が酒屋で、繁盛してるじゃねぇか。
長男が仕切ってんだろ。
次男のオメェは奉公に出たってのに、奉公先で何やったかしらねぇが追い出されて出戻り。
ぶらぶらしやがって……。
亀吉:オレ、「働いたら負け」と思ってるんで。
銀次:「アッサリ~、死んじめえ~!!」(あさり~ しじみ~の口調で)
亀吉:ひでぇなぁ。でも「人生、楽しんだもん勝ち」ですって。
兄ィも、何か質屋にちょいと入れて、ね?
当たれば、また戻ってきますって。
銀次:質屋に持ってくもんなんかねぇよ。
亀吉:おかみさんのとか。
銀次:ばかやろう。そんなことできるかよ。
亀吉:バレなきゃ大丈夫ですって。くじ当てて、すぐ戻せばいいんすから。
銀次:当たらなかったらどうすんだよ。
亀吉:買わなきゃ当たりませんぜ?
オレ、この前「十両」当たりました。
銀次:じゅう……っ!?
亀吉:たった十両ですぜ。もうねぇっスよ。
あー、三百両、当たんねぇかなぁ。
兄ィ、苦労させてるおかみさんを楽にさせてあげましょうよ、ね。
銀次:うるせぇ!オメェに言われる筋合いはねぇんだよ。
亀吉:しょうがねぇなぁ。オレと「割札(わりふだ)」でもいいっすよ。
銀次:割札?
亀吉:富札一枚を二人で買うんすよ。
銀次:……まぁ、それなら。
亀吉:いま、おかみさんは?
銀次:いまは……大黒屋さんに行ってるはずだ。
亀吉:お!「善は急げ」ですって!
くよくよ悩むなんて、男らしくねぇなぁ。
そんなん、オレの知ってる兄ィじゃねぇよ!
銀次:なんだと?!わぁったよ。行くよ!行きゃあいいんだろ!
亀吉:そう来なくっちゃ!
じゃ、オレ、ここで待ってますんで。
銀次:……ああ。
【間】
銀次:ふぅ~。
―ガラッ
銀次:オ、オ~イ、おっかぁ、いるかぁ……?
どなたかいらっしゃいませんかぁ?
おじゃましますよぅ。
……って、何やってんだ。オレんちじゃねぇかよ。
形見か……。
亀吉:兄ィ!!
銀次:っ!!亀っ?びっくりしたじゃねぇかよ!!!
亀吉:遅っせぇなと思って。
銀次:オメェが早すぎだろ!
亀吉:戻ってこねぇんじゃないかと思って、手伝いに。
へぇ、ここが兄ィんちかあ。
外と変わらないくらい寒いっすね。
銀次:悪かったな!
亀吉:あ、これいいじゃないですか?三味線。
銀次:それは、親父が「太鼓持ち」だった頃のだ。
亀吉:ああ、太鼓持ちね。へへっ
銀次:いまバカにしただろ?
亀吉:いえいえいえ。兄ィ、三味線やってます?
銀次:やってねぇけどよ……
亀吉:じゃこれと~、あとはこれと~
銀次:おい、勝手に家探し(やさがし)すんな!
オメェは、ほんとに手癖が悪ぃな。
亀吉:じゃ、富札買いに行きましょ。
これで十両も当たりゃ、おかみさんも喜ぶってもんですよ。
【間】
―質屋にて
亀吉:ここです、ここ。入りますよ!
ごめんよ!
質屋:いらっしゃい。ああ、亀吉さん。毎度どうも。
亀吉:また頼むわ。今日はこれで。
銀次:オイ、それ「刺子(さしこ)はんてん」じゃねぇか。火消しのもんだろうよ。
亀吉:火消しのダチがいましてね。そいつと賭けをしまして―
銀次:ダチの仕事道具を……?信じらんねぇ。
亀吉:大工が、大工道具を質入れしたって話も聞きますからいいじゃねぇですか。
で、兄ィのはこれとこれ。
銀次:あ、勝手に!
質屋:三味線と、反物ですか。ほうほう。
銀次:え?これ、女房のじゃねぇか!いつの間に!?
亀吉:まぁまぁ返ってきますから。
銀次:これはダメだ!(取り上げる)
質屋:じゃ、三味線だけですね。え~、では、こちらでどうぞ。
―お金を渡す
亀吉:お、ありがとよ。はい、はした金。
銀次:ひとこと多いんだよ。(財布にしまう)
亀吉:うわ、革のボロ財布。
銭に足が生えて走っていく~!!
「おあしがよろしいようで」
銀次:「おあとがよろしいようで」みてぇに言うな。
亀吉:当たったら、まず財布を買いかえた方がいいですって。
銀次:うるせぇなぁ。これが手になじんでいいんだよ。
亀吉:じゃ、富札、買いに行きましょ。
はやく買いに行かねぇと、おかみさん帰ってくるし、暗くなっちまいますよ。
駆け足で行きましょ、駈け足で。
―走り出す
銀次:おい!待て!
亀吉:早く「その日暮らし」とおさらばして、おかみさんを安心させてあげましょうよ~!!
銀次:くっそ!!
―
銀次:(息切れ)はぁはぁ……。すげぇ賑わいだな。
亀吉:何番がいいですかねぇ。あ!「松の千百七番」とか?
「1107(イチイチゼロシチ)」いい女。当たる!
銀次:当たるか!
亀吉:じゃあ、何番がいいっすか?ここは兄ィの顔を立てますぜ。
銀次:もうじゅうぶん、顔に泥を塗られてんだよ!
(ため息)
ん~……あ、「竹の千二百十五番」ある?
ある。じゃ、それで。
亀吉:なんすか?
銀次:親父の……「竹三 12月15日生まれ」
親父の三味線、質屋に出しちまったからな。コレで当たって、取り戻せれば……。
亀吉:大丈夫っスよ!
銀次:その自信は、どっから出てくんだよ……。
亀吉:そんな、しけた顔してってと、ますます金まわりが悪くなりますぜ?
もっと楽しくいきましょうよ~。
銀次:ほっとけ。
亀吉:じゃ、この札、兄ィが持っててください。
あとは、「富突き」の日に。
オレ、この後、ちょいと遊びに行くんで。
そいじゃ!
銀次:え?あ、おい!……行っちまいやがった。
何が「ちょいと遊びに行くんで」だよ。
いつも遊んでんじゃねぇか。
……っと、いけね。おふくが帰ってくる頃だ。
―急いで帰る銀次
ふく:お帰りなさい。どこぶらついてたんだい?
銀次:いや、久しぶりに、亀吉とばったり会ってな。
ふく:亀吉さん。ああ、あの……。
銀次:なんでぇ。
ふく:いや、亀吉さん、なんていうか、あんまり評判よくないからさぁ……。
銀次:まぁな。チャラチャラしやがって。
「店にいるならちゃんと働け。そうでないなら、昼間は店にいるな」と言われてるらしい。
ふく:それじゃ居場所がなくて気の毒だねぇ。
銀次:自業自得だよ。
ふく:……で?
銀次:「で?」
ふく:亀吉さんと、どこに行ってきたんだい?
銀次:ど、どこって、あそこだよ。あの~、あそこ。な?
ふく:おとっつあんの三味線がないようだけど?
銀次:ぐ……
ふく:まさか、質屋に持ってたんじゃないだろうね?
銀次:か、亀吉が、三味線やりてぇって言うから貸したんだよ。
ふく:今日は「富札」の売り出しだったとか。噂で聞きましたよ?
銀次:へ、へぇー。そうかい。そいつぁ知らなかったなー。
ふく:嘘つくのが下手だねぇ。
亀吉さんにうまく乗せられて、三味線を質屋に持っていって、富札を買ったんじゃないのかい?
銀次:……んん、はぁ~。オメェはごまかせねぇな。
ふく:その反物は?
銀次:あっ!!あ~……。
亀の野郎が勝手に持ち出しやがって、質屋に出そうとするもんだからよ、それはダメだ!って……
ふく:やっぱり。
銀次:悪ィ……。
ふく:(ため息)おとっつあん、枕元に立たないでくださるといいですね。
銀次:手を合わせるな、手を。
オ、オレだって本当は嫌だったんだ!!
けどよ、もし、少しでも当たれば、暮らしが少しでも楽になればって……。
ふく:ラクしたいのかい?
銀次:オメェを苦労させちまってるし……。
ふく:そう……。ま、買っちゃったもんは仕方ない。
銀次:……すまねぇ。
ふく:でも、夢はお金で買えませんよ。
銀次:わぁってるよ。
ふく:どうだか……。
さ、夕餉にしましょうか。
銀次:……あ、ああ。
【間】
―富突き当日
銀次:うへぇ、すげぇ人だかりだ。祭りみてぇだな。
亀吉:あーにぃー!!
銀次:おう、亀。
亀吉:札、持ってきてますか?
銀次:ほらよ。
亀吉:よしよし。あ、はじまりますぜ。
こいこい。「竹の千二百十五番」!
札と同じ番号が書かれた木札が箱に入れられてぇ~
箱をクルクルと回してぇ~
手にしたキリを「エイヤっ!」と突き刺す!!
読みあげられますぜ!
興行主:「一の富(いちのとみ)~!竹の~~~!!」
亀吉:竹の!?
興行主:「せんにひゃく~~~~~!!」
亀吉:千二百??
興行主:「じゅう~~~!!」
亀吉:千二百十……!!!
興行主:「……」
亀吉:え?え?終わり?
興行主:「ごば~~~~~~ん!!!」
亀吉:「竹の千二百十五番」?!
「竹の千二百十五番」てぇ言いましたよね?!
「竹の千二百十五番」!!
「竹の千二百十五番」!!
やった!!!すげぇ!!当たった!!!
兄ィ!兄……?
卒倒してやがる。
はい!はい!はい!はい!「竹の千二百十五番」!!
【間】
銀次:……ん(気が付く)
亀吉:あ、気がつきやしたかい?
銀次:……夢?
亀吉:夢じゃねぇっすよ。「三百両」大当たりですよ!
銀次:嘘だろ……?
亀吉:ほんとですって。
三百両ごときで気ィ失うなんて、肝っ玉が小せぇなぁ。
銀次:うるせぇっ!貧乏人に三百両なんざ、夢のまた夢なんだよ。
亀吉:ま、なんだかんだ差し引かれるんで、丸々、三百は入ってこないっスけどね。
あと「割札」なんで、分けて約百両ってとこっすかね。
銀次:信じられねぇ……。
亀吉:百両手に入ったら、何します?
銀次:ええ?
そりゃ、まずは「たな賃」を払って、あちこちの「ツケ」払って―
あ!いけね!まずは、親父の三味線を取り返さねぇと。
亀吉:つまんねえ~!
銀次:余計なお世話だ、ばかやろう。
亀吉:へへっ。札が三百両に化ける日が楽しみっすねぇ。
【間】
銀次:おい、ふく!たな賃にツケ、全部払ってきたぜ。親父の三味線もほら。
ふく:ええ?
銀次:当たったんだよ、富札が!見ろ。
ふく:ちょっ、ちょっと!これいくらあるんだい?
銀次:亀吉と二人で分けて、百両だ。
ふく:ひゃっ?!
銀次:(ひとりで盛り上がる)これ見てくれよ。羽織。欲しかったんだよなぁ。
粋だろう?はぶりがよさそうに見えんだろ?
もちろんオレのだけじゃないぜ。
オメェの着物一式、新しいの頼んできた。
出来上がったら、それを着て、オメェが行きたがっていた歌舞伎を見に行こうじゃねぇか。
團十郎が見たいって、言ってただろう?
芝居の後、鰻を食ってよ。いや、寿司がいいか?天ぷらか?
なんでも好きなもん食っていいぞ。
のんびり旅に出るのもいいなぁ。お伊勢参りとか。夫婦水入らずでよ。
温泉も入って。
あと、箪笥とかも買い替えてぇよなぁ。
あちこちボロボロだもんな。
ふく:ちょっと待ってくださいよ。仕事はどうするんだい?
銀次:仕事ぉ?バカ言うなよ、こんだけありゃ、しばらく休んでも問題ねぇ。
ああ、いっそのこと、家を買うか!魚屋が開けるようによ。
ふく:いきなりそんなの無理だよ?
―神棚から音がする
銀次:ん?
貧乏神:……あ~、すまんがのォ。
銀次:ひっ!誰だ!!いつの間にウチん中に!盗人か!?
貧乏神:わしゃ貧乏神じゃ。
ふく:ええ?
銀次:貧乏神だぁ?やっぱり、住み着いていやがったのか!!
いまごろなんで出てきた。
貧乏神:わしはここに住めなくなってしまった。
もうおまえさんたちは貧乏じゃなくなったようなのでのォ。
銀次:おー!出てけ!出てけ!テメェのせいで、散々苦労したんだ!
とっとと、出てけっ!
ふく:ちょいとおまえさん!
銀次:とめるこたぁねぇ。
あんな痩せこけたみすぼらしい貧乏神!
もう出ていったから安心だ。おい、塩まいとけ。
ふく:あ、待ってください!
―ふく、追いかけて出ていく
銀次:お、そうだ。オレ、湯に行ってくるからよ。
行きがてら、寿司でも頼んどくぜ。
オメェもずっと働きどおしだったからなぁ。
少し休め。
……アレ?ふく、どこ行った?
ふく:(戻ってくる)ふぅ……。あのねぇ、おまえさん、貧乏神と言っても―
銀次:よし、ちょっと行ってくらぁ。
ふく:え、ちょっ!……行っちゃった。
……なんだか胸騒ぎがするよ。
【間】
銀次:寿司なんて久しぶりだなぁ、おい。特上の頼むぜ!
へへ。金の心配のねぇ生活ってのは、こんなに気が楽なのか。
男:よぅ!銀次さんじゃねぇか!
銀次:あ?
男:久しぶりじゃねぇか、ええ?元気にしてたかい?
銀次:えぇと……。すいません。どなたさんで……?
男:ええー、忘れちまったのかよ。ひでぇなぁ。昔よく遊んだ仲じゃねぇか。オレだよオレ。
銀次:……はぁ。
男:聞いたぜ?富札が当たったらしいじゃねぇか。
銀次:え、どこでそれを……
男:それでよぅ、昔のよしみで、頼みごとがあるんだ。
おふくろが、病に臥せってて、医者にかからねぇと治らねぇ。
しかも、そのあたりの町医者じゃ治せねぇんだとよ。
薬がまた高いときた。
オレのこの身なりなら察しがつくだろ?
おふくろを助けてやりてぇんだけど、そんな金がねぇ。
悪ィんだけどよ、金貸してくれねぇか?
このままだと、おふくろ、死んじまうんだよ。
銀次:……いくら、必要なんですか……?
男:四両。薬代も含めて五両。頼む!このとおりだ!(土下座)
銀次:ちょっ!!頭をあげてくださいよ!
男:お前にしか頼めねぇんだよ。このとおりだ!おふくろを助けてやってくれ!!
銀次:わかりました、わかりましたから!!頭をあげてください。
男:ほんとか?貸してくれるのか?ただ、返せるかどうかはわからねぇ……。
銀次:いいですよ。おふくろさんのためだ。これ、使ってください。
―五両渡す
男:ありがてぇ!ありがてぇ!これで診てもらえる!!
銀次:はやく行ってあげてください。
男:銀次さん、恩に着るよ!
―男、去る。
銀次:……誰だったんだ……。
娘:銀さーん!銀次兄ちゃーん!
銀次:え?
娘:久しぶり!十年ぶりかねぇ。アタシ、大きくなったでしょ?
銀次:ちょっ、ちょっとくっつかないでくださいよ。人違いじゃないですか?
娘:人違いなもんかい。アタシは、銀さんの腹違いの妹だよ?
アタシが五歳の頃、銀さんは十五か十六で、時々遊んでくれたじゃない。
銀次:腹違いの妹ォ?初めて聞いたよ!腹違いじゃなくて、人違いだって!!
娘:酷い!忘れちゃったの?!
アタシは片親で貧しくて寂しくて、そしたら、お兄ちゃんがいるって知ってうれしかったんだよ?
銀次:いや、あの娘さんー
娘:ねぇ!お兄ちゃん、助けて!!
銀次:なんだよ、いきなり。
娘:アタシね、騙されて、売り飛ばされそうになってるんだ。
お願いだよぅ。あんなところに行きたくないよ。ううう…… 助けてぇ……
銀次:おいおい、しゃがみ込むなよ。みんなが見てるじゃねぇか。
― 娘、泣き続ける
銀次:まいったなぁ。なんなんだよ、さっきの男といい……。
……で、いくら必要なんだい。
娘:十八両……。
銀次:じゅうはちぃ?!
娘:きれいな着物と、白いおまんまが食べられるなんて言われて……
そんなの嘘に決まってるよ。
アタシは普通に、お兄ちゃんみたいないい人と出会って所帯を持ちたいの!
うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!
銀次:ちょっ!こっち、こっち来て。
娘:うう……
銀次:変な噂が流れたらどうすんだ……。
娘:変な噂ってなにさ!妹を見殺しにする気かい?
銀次:見殺しって……。わかった。わかったから、泣くなよ。
ああ、もう。ほれ、これでいいのか?
娘:ああ~、ありがとう!!やっぱり、アタシのお兄ちゃんだ!!
銀次:違うと思うけどなぁ……。とにかく、それでなんとかなるなら行ってくれ。
娘:わかった。ありがとう!!
銀次:……あっさり行きやがった。
おいおい、歩いてるだけで、二十五両取られちまったよ。
―帰宅
銀次:はぁ~。
ふく:あ、おかえり。どうでした、湯は?
お寿司も届いてるよ。
銀次:湯……?
なんだかみんながオレのことを見ている気がして、のんびりできなかったな……。
変な奴に絡まれるしよ。
ふく:ええ?大丈夫だったのかい?
銀次:ま、まぁな。
―トントン(戸)
ふく:おや、誰か来たのかしらね。
銀次:……待て、オレが出る。
―ガラッ
銀次:誰だ!
疫病神:どうかお恵みを……。
銀次:物乞いか?
疫病神:この子をかわいがってください。
銀次:大道芸人のふりをしてやがるんだろ?オレはもう騙されねぇぞ!
疫病神:そうおっしゃらずに、どうか家にいれてくださいまし。
銀次:ダメだダメだ。あっちに行け!
ふく:おまえさん、そんな邪険にしなくても―
疫病神:お願いですから……(顔をあげる)
銀次:ひっ!!ひ、一つ目!!!
ふく:おまえさん?!
銀次:み、見るな!!
―戸を急いで閉める
はぁ、はぁ、はぁ……。
あ、ありゃあ、箕借り婆(みかりばば)と一つ目小僧だ。
いや、疫病神かもしんねぇ!
ふく:本当かい?
銀次:本当だ!
みんなして、オレを狙ってやがる……。オレが何か悪いことしたかよ!!
この金か!急にたかりにきやがって!
オレは、もう寝る!!
ふく:ええ?お寿司は?
銀次:いらねぇ!!
おい、布団!
なんだ、この薄っぺらい布団は?!
これも新調する!古いもんはみんな捨てる!
ふく:そんな、もったいない。
銀次:まだ四十二両ある、大丈夫だ。
ふく:そういうことじゃ……。
― 夜、うなされる銀次
銀次:うう……うう……、ぐぅ……
ふく:おまえさん?どうしたんだい?苦しいのかい?
銀次:やめろ……、やめてくれ……
ふく:おまえさん!
銀次:うわっ、ああっ!あああああああああっ!!!(ガバッ)
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……
ふく:どうしたんだい、汗がひどいよ?
銀次:こ、殺される……、殺される!!
ふく:夢だよ、夢を見てたんだよ。
銀次:……ゆ……め……?
お、男が押し入ってきて……、金を出せと……包丁で脅された……
ふく:ほら。誰もいやしないよ?夢見が悪かったんだよ。
銀次:おふく……、無事か……?財布は……
ふく:大丈夫。
銀次:夢か……。
ああああ!外に出たくねぇ。怖えぇ。怖えぇよ。
ふく:ひどい汗……。今日は、ゆっくり休んで。
銀次:すまねぇ……。オレ、いったいどうしちまったんだ……。
―銀次、横になる
【間】
大家:おーい、いるかい?
ふく:はい。あ、大家さん。
大家:銀次さん、大丈夫かい?
急に、一年分の「たな賃」持ってきたんで、心配になってねぇ。
ふく:一年分……。そうですか。
今日はちょっと体調がよくないようで横になってまして……。
大家:銀次さんを慕ってた亀吉さんが亡くなったらしいじゃないか。それでかい?
ふく:亀吉さんが?!
大家:知らなかったか。なんでも「ふぐ」を食べて当たったんだとよ。
銀次:か、亀吉が……?
ふく:おまえさん、起きて大丈夫かい?
大家:銀次さん、ひどい顔色だね。まるで死……、あ、いや……。
銀次:亀吉が……、死んだ……。次は……、オレ……か……?
大家:変なこと考えちゃいけないよ。気をしっかり持って。
ふく:大家さん、ありがとうございます。
おまえさん、横になりましょ。
大家:そいじゃあ、なんかあったら遠慮しないで言うんだよ。
ふく:は、はい。
銀次:……ダメだ。次はオレだ。オレ、死ぬんだ……。
う!うう……
―倒れる
ふく:おまえさん!しっかりして!!おまえさん!!
いま、お医者様を呼んでくるよ!
銀次:無駄だ……
蠟燭が……勝手に……ついた。
―死神があらわれるが、ふくには見えない。
ふく:もしかして、し、死神かい……?死神が来たのかい……?
銀次:死神だ……。枕元に死神がいる……。
ふく:そんな……。
死神さま、お願いします、この人を連れて行かないでください。
貧乏神さまや、疫病神さまを追い払ってしまったことをどうかお許しください。
働き者になります。おもてなしもいたします。
どんなことでも、どんなことでもいたしますから、どうかこの人の命だけはっ……!!!
銀次:……ふく……
ふく:おまえさん!死神さまは、何かおっしゃってるかい?
銀次:……いや、ただそこにいるだけだ……。
ふく:ああ、どうしたら……。
どうか、御姿を!
アタシにできることをおっしゃってください!
この通りでございます!
この人の代わりに、アタシの!アタシの命を取ってください!!
この人がいなくなったら、アタシは生きていても仕方ありません。
アタシが!アタシが死んだらいいんです!
―蠟燭が揺れて、死神が姿をあらわし、財布を指さす
ふく:……!死神……さま……。
財布……?
おまえさん!やっぱりお医者様、呼んでくるよ!!
―銀次の財布を持って外に出る
ふく:(小走り)こんなお金があるから、あの人がおかしくなったんだ。
どうしたら……。天神様に奉納……?それとも捨てる……?
でも、お金を捨てるなんて……。
―川が見えてくる
ふく:川……。
貧乏神:これこれ、欄干にしがみついて。そこで何をしおる。まさか身投げじゃなかろう?
ふく:アナタは、先日の……。
貧乏神:おまえさんたちのところから出て行ったところ、追いかけてきてくれて、あたたかいシジミ汁をくれたじゃろぅ。
ふく:アナタこそ、ここで何を?
貧乏神:次の家を探しておるのじゃ。
ふく:貧乏神といっても、神様には違いありません。どうか、これまでのようにアタシ共と一緒にいてください。
それと……、どうかお助けください!
いま、死神さまがあの人の枕元にいて、この財布を指さしたんです。
それでどうしようかと途方に暮れていたところでございます。
貧乏神:おやおや、貧乏神に願い事をするとは……。
相当困っておるようじゃのう。
ふむ……。
それが元凶であれば、思い切って捨てることじゃな。
迷っておると、死神が居ついたままじゃぞ?よいのか?
ふく:いえ!!
(祈るように)どうか、銀次さんを元に戻してくださいまし。
えいっ!!
―ポチャン!
ふく:芝の方に流れていく……
貧乏神:さ、帰りなさい。
ふく:一緒に帰りましょう!走りますよ!
貧乏神:わしもー?
ふく:神様って、触れるんですね!
貧乏神:おなごに手を握られる日が来るとは……、悪くない。
【間】
―朝
銀次:……ん??
ふく:あら、おはよう、おまえさん。よく寝てたねぇ。
起こしてるのに全然起きないんだもの。
銀次:あれ?……オレどうしたんだ……?
ふく:なんだい、覚えてないのかい?
久しぶりに、亀吉さんとお酒呑んできたからかねぇ。
シジミ汁の出番だね。
銀次:亀吉と酒?
ああ、富札買いに行こうって亀が来て、オメェにとめられて……。
だんだん思い出してきたぞ。
アイツが、親父さんの形見の「金の親子亀」を質に入れようとして、オメェが怒ってよぅ。
「亀は、知恵と長寿を象徴するんだ」とか、「親の願いを無下(むげ)にしちゃいけない!」とか。
オメェに懇々と説教されて、あの野郎、本気でそう思ったかしらねぇが、「姉さんの言う通りです!オレ、心を入れ替えて、店で働きます!」って……。
ふく:アタシ、そんなに怖かったのかねぇ?
そのあと、おまえさんが「そいつぁ殊勝なこった!よし、前祝いだ!」とか言って、二人で呑みに行ったんですよ?
銀次:そうだ!そうだった!
だけどよ、あんにゃろ、「ふぐ」頼もうとするからとめたんだよな。
「これから真面目に仕事するって野郎が、その前に、『鉄砲』に当たるつもりか!」って。
ふく:亀吉さんらしいけど、危なっかしいねぇ。
ー二人、笑う
ふく:ところで、おまえさん、気分はどうだい?
銀次:あ……?ああ、そういや、憑き物がとれたようにスッキリしてらぁ。
なんだか悪い夢を見てたような……。
ふく:そう。夢でよかったねぇ。
銀次:ん?ああ、そうだな。夢でよかった。
ふく:ねぇ、銀次さん。
銀次:なんでぇ急に。
ふく:「金は天下の回り物」って言うじゃないか。
「お金、お金」っていう気持ちもわかるけど……、
アタシはね、銀次さんとずっと一緒にいられて、その日食べられるものと着るもの、住むところがあれば十分幸せなんだよ?
銀次:……んん。
ふく:あと、はい、これ。
銀次:財布……?
アレ?オレ、財布どうした?
ふく:川に落としたって言ってたから。
銀次:ええっ!中身ごと?
ふく:いくら入ってたんだい?
銀次:え……?あ、いや……、覚えてねぇ……。
ふく:しょうがないねぇ。
財布、開けてみてくださいよ。
銀次:ん?なんか入ってらぁ。
あ!「一分銀(いちぶぎん)」じゃねぇか。これ、どうした?
ふく:これね、銀次さんと一緒になる時に、おまえさんのお父さんがくれたんだよ。
「どうしようもなくなったらこれを出しな」って。
「三味線を質に入れてもいいから、とにかく、銀次が足を踏みはずさねぇように頼むよ」って。だから、ずっとしまっておいたんだよ。
銀次:親父が……?
オレぁ、みんなに世話になってたんだなぁ……。
バカだなぁ……。
ふく:これで少しは魚が仕入れられるんじゃないかい?
銀次:親父、すまねぇ。無駄にならねぇように使わせてもらうぜ。
ふく:よかった……。
さて、今日も神棚にお供え物を―
銀次:神棚……。
アレ……?
なんか、みすぼらしいじじいが出てきて……、
オレ、なんか追い出したような……?
アレも……、夢、か?
ふく:何言ってるんだい?ちゃんと神様がいらっしゃいますよ。
貧乏神(福の神):わしのことかな?
銀次:うわっ!!出た!!
―神棚から光の中がでて、福々しいお顔のおじいさんが微笑んでいる。
貧乏神(福の神):こら、お化けが出たみたいに言うでない。
わしは福の神じゃよ。
いや、福の神になった貧乏神じゃ。
ふくが、よぅしてくれるから、わしは貧乏神から福の神になったのじゃ。
ここに住まわせてもらうから、よろしゅうにな。
銀次:消えた……。
ふく:あ……、ありがとうございます……
夫婦、力を合わせて、真面目に働きます。
どうかこれからもお守りください。
ほら、おまえさんも。
銀次:あ、ああ……。
ええっと、今後とも、末永くよろしくお願いします。
ふく:ちょっと、アタシを拝んでどうするんだい。
銀次:いや……、オレにとっちゃあ、オメェが「ふくの神」だ。
【終演】
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※この後「芝浜」を上演すると楽しめると思います。
【豆知識】
■温石(おんじゃく)
石を囲炉裏やたき火で温め、布にくるんで懐に入れて身体を温めていたのがカイロのはじめと言われている
■雑魚場(ざこば)
この「芝浜」は”日本橋の河岸”より古く”雑魚場”(ざこば)と呼ばれ、江戸前(東京湾)の魚を主に扱い今獲れたばかりの小魚を扱っていた。
■ 箕借り婆(みかりばば)
旧暦の12月8日または2月8日に人家を訪れ、箕や人間の目を借りて行ってしまうという。一つ目小僧と共に家を訪れるともいう。
疫病神との関連:
もともと病気などが目に見えない存在がもたらすものであると考えられていたことに由来して、疫病神の姿が実際に目に見えるものであると考えられることはほとんど無い。
いっぽう、人間の目に見える姿として疫病神は老人や老婆などをはじめとした人間の姿をとって出没するとも考えられており、単体または複数人でさまよい、人家をおとずれ、疫病をもたらすなどといわれた。関東地方や東海地方を中心に確認されている箕借り婆や一つ目小僧に関する来訪者があるとする伝承などは、その代表的なものである。
■ふぐ(河豚)
当時、「ふぐ」を食べることは禁止されていたが、庶民の間では密かにふぐは食べられていた。しかし、おおっぴらには言えないため、「鉄砲(てっぽう)」という隠語で呼ばれていた。「ふぐの毒に当たると死ぬことがある」=「鉄砲の弾に当たると死ぬ」という二つの意味を掛け「てっぽう」と呼んでいた。
ふぐの刺身は「てっぽう」と「さしみ」が合わさって、それが「てっさ」になり、定着していった。
■善悪は合わせ鏡の様な物で、光があれば闇も有ると考えられている。
・貧乏神は、働き者になると福の神に変わる。
・疫病神は、民話でご馳走してもてなしたら福の神に変わる。
・死神は、豊穣な人生を歩んできた人の、人生を刈り取る農夫。
と考えられていた。