熊五郎:ツッコミ
与太郎:ボケ
お 竹:ボケ
【枕】--------
以前、友人に「月と聞いて思い浮かぶ人は誰?」と聞かれたことがありましてー、
ええ、心理テストですね。
昔から、月は人々から親しみやあこがれを持たれていました。
空にある月は、手の届かない憧れの対象です。
みなさんは「月と聞いて思い浮かぶ人やモノ」はありますか?
四択でもいいですよ。
かぐや姫、月見団子、うさぎ、人工衛星
四択でもいいですよ。
かぐや姫、月見団子、うさぎ、人工衛星
選んだ答えから、「あんな人になりたいな」と憧れていることがわかるそうです。
熊五郎:おい、与太! なんだ?またボーっとしてんのか
与太郎:兄ィ、どうしたんだい、そんな血の気の引いた死相をして
熊五郎:ばかやろう、縁起の悪ィ言い方すんじゃねぇ
与太郎:じゃどうしたィ?慌てててて、あ、いてててて
熊五郎:なにを痛がってんだよ!
与太郎:こんなところに竹串が落ちてたぁ
熊五郎:どこだよ。袂じゃねぇかよ
与太郎:ああ、串団子くいてぇなぁ
熊五郎:いまも食ってたんだろ?
与太郎:なんだ、団子、持ってきてくれたのかぁ?
熊五郎:持ってこねぇよ!
与太郎:じゃ、なにしに来た?
熊五郎:なにっておめぇ……。水くせぇじゃねぇかよ。
与太郎:水、臭せぇか?腐ってるか?
熊五郎:ちげぇよ。仕事仲間によ、与太が嫁ぇもらったって聞いてよ。
与太郎:「嫁」ってなんだぁ?
熊五郎:……だよな。やっぱり嘘だ。
「嫁」の意味すらわからねぇのに、嫁をもらうわけがねぇ
与太郎:「嫁」は親が使う呼び方だぁ
熊五郎:細けぇな!じゃ、「かみさん」
与太郎:「神様」はもらってねぇ
熊五郎:ちげぇよ!話が進まねぇな! じゃあ「妻」
与太郎:「つまみ」か~、なんか食いてぇなぁ
熊五郎:はったおすぞ!一緒に住んでるんだろ?毎日家にいるんだろ?
与太郎:もらいはしねぇ。犬猫じゃあるまいし
熊五郎:わかってんだか、わかってねぇんだか、わかんねぇな!
与太郎:女の人はひろったよぉ
熊五郎:おいおいおいおい……。そいつぁやべぇんじゃねぇか。
与太郎:それは、あるまぶしい月明りの夜だったぁ
熊五郎:いきなり回想にはいりやがった……
与太郎:お月さんがまんまると大きく、きれいだったんだぁ
熊五郎:おう、それで?
与太郎:あたい、団子食いてぇなぁって思って、
「月のうさぎさん、団子をあたいに落としてください」って石を投げて祈ったんだ。
熊五郎:石を投げるな!誰かに当たったらどうすんだよ。どんだけ団子好きなんだ。
だいたい何を祈ってんだてめぇは。
与太郎:こんな月の夜は、女の子でも降ってきそうだなぁって
熊五郎:ジ〇リか!
与太郎:は?
熊五郎:てめぇに「は?」って言われると死にたくなるな!
与太郎:そしたら、ふってきたんだ
熊五郎:なにが
お 竹:あ~~~~~れ~~~~!!!
与太郎:というわけで、これが落ちてきたんだな
お 竹:いつも主人がお世話になっております。
熊五郎:っ!う、嘘だろーーー!!嘘だと言ってぇ!!
こんなべっぴんさん、見たことねぇよ!
「月とすっぽん」だろうが!
お 竹:わたくし、月のように丸くはありません!
与太郎:兄ィ、「すっぽんぽん」はやめてくれ。
与太郎:「おかま」はあるぞ
熊五郎:てめぇは黙ってろ! ……ん?
……おかみさん、なにをされているんで?
お 竹:お茶をたてております。
熊五郎:本格的だな!
お 竹:この茶筅や茶さじ はわたくしの手作りでございます
熊五郎:え、ほんとっすか。いやいや、へぇそりゃ手先が器用でいらっしゃる
お 竹:さ、どうぞ。「竹茶」でございます。
熊五郎:「竹茶」?
お 竹:竹茶には、疲労回復やデトックス、血圧や血糖値の調整、抗酸化作用など、様々な効能が期待でき、竹の葉は血を清め、熱を下げる効果があるとも言われています。
熊五郎:え、ああ、よくわかんねぇけど、ありがとうございやす。
といいましても、あっし、茶の作法なんかしらねぇんで……
お 竹:作法など気になさらず、このように気軽に……
与太郎:ずずず…… はぁ……
熊五郎:おまえが飲むな!
お 竹:いかがですか?
与太郎:う~ま~
お 竹:それはよぅございました。
熊五郎:あれ?意外とお似合い夫婦か??
与太郎:兄ィにも出してやっておくれよ
お 竹:もちろんでございます。
熊五郎:あ、なんかもう結構です、仕事に戻らなにゃいけねぇんで……
お 竹:しばし待たれよ
熊五郎:は?
与太郎:ちょっと座れよ
熊五郎:は?(怒)
与太郎:そこの椅子にお座りよ
熊五郎:はったおすぞ!
与太郎:売り物じゃねぇぞ
お 竹:それは、私が作りました
熊五郎:……まさかの?竹細工がお好きなのかな。ご趣味でいらっしゃる?
お 竹:う……(わぁっと泣き出す)実は、よく……わからないんです
与太郎:兄ィ!なんで泣かせるんだよぉ!!
熊五郎:ええええええ!!泣くきっかけがまったくわからねぇんだが!
お 竹:(おいおいと泣く)
熊五郎:な、なんかすまねぇ!おかみさん、なんかオレやっちまいましたか!
与太郎:お竹、泣いたら腹が減るだけだぞぉ
熊五郎:ばかやろう、そんな慰め方あるかぁ!
お 竹:(ちら)(泣く)
熊五郎:なんでだよ!名乗って泣かれたのははじめてだよ!
与太郎:お竹、眠いのかぁ?
熊五郎:赤ん坊じゃねぇんだよ!
お 竹:記憶がないんです……
熊五郎:……あ、気まずい展開。
ええと、記憶がないと申しますと?
お 竹:わたし、「お竹」ではないんです。これは旦那様がつけてくださいました。
すごダサ……
熊五郎:全国の「お竹」さん、申し訳ねぇ。
お 竹:ですので、わたし、「お竹かっこ仮」なんでございます。
与太郎:名前なんて、好きにすればいいんだよぉ。
熊五郎:そういうわけにいかねぇだろうが!親につけてもらった大事な名前がー
お 竹:(泣く)
熊五郎:あ、いけね。
与太郎:なにをぐずってんだぁ。
熊五郎:だから、赤ん坊じゃねぇってんだよ!
おかみさん、泣くのはおよしなさい。話を整理しようじゃありませんか
まず、月夜の晩に?
お 竹:はい。ぼんやりでございますが、家に帰ろうとしておりました。
熊五郎:ほうほう、おひとりで?
お 竹:いえ、何人か迎えのものと、牛車があったように思います……
熊五郎:おいおいおい、どっかの姫さんじゃねぇか!
お 竹:月にむかって飛んだ気がいたしますがー
熊五郎:飛んだ?!
お 竹:そうしましたら、石が飛んできて、牛の足にぶつかり、転がり落ちてしまいました。
熊五郎:与太!てめぇのせいじゃねぇか!
与太郎:どこがぁ?
熊五郎:おめぇが投げた石が、この御方にぶつかったんだよ!
与太郎:つれていったぞ
熊五郎:どこに
与太郎:薮井竹庵
熊五郎:あいつだけはやめとけって何度も言ってるだろうが!
与太郎:名前をいったら、そこがいいっていうもんだから
お 竹:竹の先生ですね
熊五郎:……いや
お 竹:「タケノコ先生」もいるとお聞きしました。
熊五郎:まだ藪にもならない
与太郎:兄ぃ、なかなかおもしれぇこと言うな
お 竹:とにかく、竹と聞くと大変心が落ち着くのでございます。
熊五郎:それで竹細工がお好きでいらっしゃる?
与太郎:気づいたら、いろんなものが増えてるんだぁ。びっくりするよぉ。
熊五郎:しょうもねぇもんしかおいてなかったガラクタ道具屋が、いまじゃどうだい。
竹のカゴ、ザル、箸、提灯、物干し竿、ほうき、梯子、椅子、物干し竿、和傘…
あ、これは尺八に、笙(しょう)ですかぃ?
お 竹:はい、嗜まれますか?
熊五郎:まさか!見たのもはじめてですよ。
与太郎:しょうなんだよ
熊五郎:お前……、場の空気を凍らすことを言うんじゃねぇよ
お 竹:まぁ旦那様ったら
与太郎:へへへ
熊五郎:あれ、やっぱりお似合い夫婦かな?
しかし、屛風に茶道具……、やっぱりどこかの姫さんじゃねぇか?
おうちの方、探していらっしゃると思いますよ。
与太郎:いやだぁ、おいら、お竹と一緒にいたい
お 竹:私も旦那様と一緒にいとうございます
熊五郎:まさかのフォーリンラブ?
お 竹:こんなに何をしても文句を言わない方は初めてでございます
熊五郎:理由よ! あー、もうツッコミ過ぎて頭痛くなってきた
与太郎:なんだ?兄ィも、頭に石が飛んできたのかぁ?
お 竹:まぁ大丈夫でございますか?
熊五郎:違う意味でガーンとやられたよ。
お 竹:では竹の香りをかがれるとよいですよ。
熊五郎:ほんっとに、竹推しなんすね。
お 竹:竹はサステナブルな社会の構築にも貢献しております
与太郎:さ、さ、さしすせそなブル
熊五郎:突っ込みが迷子になるよ!
……ん?ちょいと待てよ
「迎えのもの、牛車、姫さん、竹……」昔話で聞いたことがあるぞ。
まさかとは思うが……
お竹さん、あなたもしや……
お 竹:いえ、「お竹かっこ仮」でございます
熊五郎:「お竹かっこ仮」さん、あなたもしや、何人もの男に求婚されて、難題をだされませんでしたか?
お 竹:……そういわれれば、ああ、そうです、そうです!
熊五郎:たとえば?
お 竹:【仏の御石の鉢(ほとけのみいしのはち)】
熊五郎:ほかには?
お 竹:【蓬莱の玉の枝(ほうらいのたまのえだ)】
熊五郎:あとは!
お 竹:【火鼠の皮衣(ひねずみのかわごろも)】
思い出してきました。
それから、
【龍の頸の玉(りゅうのあごのたま)】
【燕の子安貝(つばめのこやすがい)】
一番の難題は、やはりあれでしょう。
「きのこの山か、たけのこの里」か
熊五郎:そいつぁ、大戦(おおいくさ)のはじまりだよ!
与太郎:あたい「まんじゅうこわい」
熊五郎:きのこ・たけのこ、関係ねぇ!
お 竹:まぁ「まんじゅう」がこわいんですか?
熊五郎:いやいや、違う噺になっちまいますから!
そうじゃなくて、あなた、あの伝説の「かぐや姫」じゃありませんか?
熊五郎:そっちじゃなくて!
お 竹:では、どのかぐや姫ですか?
熊五郎:そら、あれですよ。
働きもせず無理難題を言いまくり、爺さんに愛想をつかされ月に追い返され、
お 竹:ええ?!ひどい言われよう!
与太郎:「大塚」って、長屋のか?しょっちゅう家賃をほしがるあのじじい―
熊五郎:それは「大家」な! 字は似てるけどな!
お 竹:でも、そうかもしれません。
わたしは「お竹かっこ仮」ではなく、「かぐや」……
熊五郎:やっぱり!思い出したんすね、よかったなぁ与太!
お 竹:でも、私は月には帰りません。竹細工が楽しいのです
熊五郎:月でもやりゃぁいいじゃないすか!
お 竹:それに、旦那様の夢のお手伝いもしとうございますし。
熊五郎:なんだ、与太。生意気に夢なんか持ってやがるのか。
お 竹:ところで「大塚」って、誰なんですか?
熊五郎:……ズレ具合が与太とどっこいどっこいだな
お 竹:ちなみに、熊五郎さんは、きのこの山派ですか?たけのこの里派ですか?
熊五郎:いまその質問する?!ややこしくなるんで、ちょっと黙っててくださいよ。
お 竹:ひどい(泣)
熊五郎:ああ、もうめんどくせぇ
お 竹:かぐやだけに……
熊五郎:あ、あれ?当てちゃった?!
お 竹:そ、そんな小さい夢なわけないじゃありませんか
ねぇ、旦那様
与太郎:いつかお竹とお月さんに行って、お月さんのようなでっかい団子を食ってみてぇ。
落語にでてくるあの人は月を見てどう思うのかなぁと想像いたしまして、
あの人とは「与太郎」のことですが、間の抜けた言動で失敗を繰り返し、数々の噺で聴く者の笑いを誘うキャラクターです。
アタシは、おそらく、こう思うんじゃないかと考えました。
あの人とは「与太郎」のことですが、間の抜けた言動で失敗を繰り返し、数々の噺で聴く者の笑いを誘うキャラクターです。
アタシは、おそらく、こう思うんじゃないかと考えました。
-----【本編】-----
与太郎:お月さんって、でっかい団子みたいでうまそうだなぁ
熊五郎:おい、与太! なんだ?またボーっとしてんのか
与太郎:兄ィ、どうしたんだい、そんな血の気の引いた死相をして
熊五郎:ばかやろう、縁起の悪ィ言い方すんじゃねぇ
与太郎:じゃどうしたィ?慌てててて、あ、いてててて
熊五郎:なにを痛がってんだよ!
与太郎:こんなところに竹串が落ちてたぁ
熊五郎:どこだよ。袂じゃねぇかよ
与太郎:ああ、串団子くいてぇなぁ
熊五郎:いまも食ってたんだろ?
与太郎:なんだ、団子、持ってきてくれたのかぁ?
熊五郎:持ってこねぇよ!
与太郎:じゃ、なにしに来た?
熊五郎:なにっておめぇ……。水くせぇじゃねぇかよ。
与太郎:水、臭せぇか?腐ってるか?
熊五郎:ちげぇよ。仕事仲間によ、与太が嫁ぇもらったって聞いてよ。
「天地がひっくり返ってもそれはあるめぇよ!」って話してたら、
親方に「クマ、仕事も終わりだ。ちょっと行って確かめてこい」と言われて来てみたわけよ。
で、どうなんだ、え?嫁をもらったのか?
親方に「クマ、仕事も終わりだ。ちょっと行って確かめてこい」と言われて来てみたわけよ。
で、どうなんだ、え?嫁をもらったのか?
与太郎:「嫁」ってなんだぁ?
熊五郎:……だよな。やっぱり嘘だ。
「嫁」の意味すらわからねぇのに、嫁をもらうわけがねぇ
与太郎:「嫁」は親が使う呼び方だぁ
熊五郎:細けぇな!じゃ、「かみさん」
与太郎:「神様」はもらってねぇ
熊五郎:ちげぇよ!話が進まねぇな! じゃあ「妻」
与太郎:「つまみ」か~、なんか食いてぇなぁ
熊五郎:はったおすぞ!一緒に住んでるんだろ?毎日家にいるんだろ?
世話してくれる特別な存在が。
与太郎:もらいはしねぇ。犬猫じゃあるまいし
熊五郎:わかってんだか、わかってねぇんだか、わかんねぇな!
与太郎:女の人はひろったよぉ
熊五郎:おいおいおいおい……。そいつぁやべぇんじゃねぇか。
与太郎:それは、あるまぶしい月明りの夜だったぁ
熊五郎:いきなり回想にはいりやがった……
与太郎:お月さんがまんまると大きく、きれいだったんだぁ
熊五郎:おう、それで?
与太郎:あたい、団子食いてぇなぁって思って、
「月のうさぎさん、団子をあたいに落としてください」って石を投げて祈ったんだ。
熊五郎:石を投げるな!誰かに当たったらどうすんだよ。どんだけ団子好きなんだ。
だいたい何を祈ってんだてめぇは。
で?
与太郎:こんな月の夜は、女の子でも降ってきそうだなぁって
熊五郎:ジ〇リか!
与太郎:は?
熊五郎:てめぇに「は?」って言われると死にたくなるな!
与太郎:そしたら、ふってきたんだ
熊五郎:なにが
お 竹:あ~~~~~れ~~~~!!!
与太郎:というわけで、これが落ちてきたんだな
お 竹:いつも主人がお世話になっております。
与太郎の妻……、かもしれません。
熊五郎:っ!う、嘘だろーーー!!嘘だと言ってぇ!!
こんなべっぴんさん、見たことねぇよ!
「月とすっぽん」だろうが!
お 竹:わたくし、月のように丸くはありません!
与太郎:兄ィ、「すっぽんぽん」はやめてくれ。
お 竹:まぁはしたない
熊五郎:ちげぇよ!いや、どうしてこうなった?!
与太郎:落ちてきたから連れ帰っただけだ。
熊五郎:まずいだろ!!!
え、待て、「妻かもしれない」って言ったか……?
え、待て、「妻かもしれない」って言ったか……?
お 竹:失礼いたしました。ただいまお茶をお持ちします。
熊五郎:あ、いや、おかまいなく……
与太郎:「おかま」はあるぞ
熊五郎:てめぇは黙ってろ! ……ん?
……おかみさん、なにをされているんで?
お 竹:お茶をたてております。
熊五郎:本格的だな!
お 竹:この茶筅や茶さじ はわたくしの手作りでございます
熊五郎:え、ほんとっすか。いやいや、へぇそりゃ手先が器用でいらっしゃる
お 竹:さ、どうぞ。「竹茶」でございます。
熊五郎:「竹茶」?
お 竹:竹茶には、疲労回復やデトックス、血圧や血糖値の調整、抗酸化作用など、様々な効能が期待でき、竹の葉は血を清め、熱を下げる効果があるとも言われています。
熊五郎:え、ああ、よくわかんねぇけど、ありがとうございやす。
といいましても、あっし、茶の作法なんかしらねぇんで……
お 竹:作法など気になさらず、このように気軽に……
与太郎:ずずず…… はぁ……
熊五郎:おまえが飲むな!
お 竹:いかがですか?
与太郎:う~ま~
お 竹:それはよぅございました。
熊五郎:あれ?意外とお似合い夫婦か??
与太郎:兄ィにも出してやっておくれよ
お 竹:もちろんでございます。
熊五郎:あ、なんかもう結構です、仕事に戻らなにゃいけねぇんで……
お 竹:しばし待たれよ
熊五郎:は?
与太郎:ちょっと座れよ
熊五郎:は?(怒)
与太郎:そこの椅子にお座りよ
熊五郎:はったおすぞ!
え、椅子?
これ、竹細工じゃねぇか。
おめぇの道具屋にこんなんおいてあったか?
お、うん。なかなか、いい座り心地だ。
へぇ。いいねぇ、これいくらだ。
おめぇの道具屋にこんなんおいてあったか?
お、うん。なかなか、いい座り心地だ。
へぇ。いいねぇ、これいくらだ。
与太郎:売り物じゃねぇぞ
お 竹:それは、私が作りました
熊五郎:……まさかの?竹細工がお好きなのかな。ご趣味でいらっしゃる?
お 竹:う……(わぁっと泣き出す)実は、よく……わからないんです
与太郎:兄ィ!なんで泣かせるんだよぉ!!
熊五郎:ええええええ!!泣くきっかけがまったくわからねぇんだが!
お 竹:(おいおいと泣く)
熊五郎:な、なんかすまねぇ!おかみさん、なんかオレやっちまいましたか!
泣かれるのはまいっちまうなぁ。おかみさん、しっかりしておくんな
おい、与太、てめぇもなんとかしろ!
おい、与太、てめぇもなんとかしろ!
与太郎:お竹、泣いたら腹が減るだけだぞぉ
熊五郎:ばかやろう、そんな慰め方あるかぁ!
「お竹さん」っていうんですか。
ご挨拶がおくれやして、あっし、大工の「熊五郎」といいやす。
ご挨拶がおくれやして、あっし、大工の「熊五郎」といいやす。
お 竹:(ちら)(泣く)
熊五郎:なんでだよ!名乗って泣かれたのははじめてだよ!
与太郎:お竹、眠いのかぁ?
熊五郎:赤ん坊じゃねぇんだよ!
お 竹:記憶がないんです……
熊五郎:……あ、気まずい展開。
ええと、記憶がないと申しますと?
お 竹:わたし、「お竹」ではないんです。これは旦那様がつけてくださいました。
すごダサ……
熊五郎:全国の「お竹」さん、申し訳ねぇ。
いや、いい名前ですよ。
まるで竹を割ったようにさっぱりして、なんかこう「お竹!」って感じで、ねぇ?
お 竹:ですので、わたし、「お竹かっこ仮」なんでございます。
与太郎:名前なんて、好きにすればいいんだよぉ。
熊五郎:そういうわけにいかねぇだろうが!親につけてもらった大事な名前がー
お 竹:(泣く)
熊五郎:あ、いけね。
与太郎:なにをぐずってんだぁ。
お竹ぇ、よしよし。子守歌うたってやるから、昼寝しなぁ
熊五郎:だから、赤ん坊じゃねぇってんだよ!
おかみさん、泣くのはおよしなさい。話を整理しようじゃありませんか
まず、月夜の晩に?
お 竹:はい。ぼんやりでございますが、家に帰ろうとしておりました。
熊五郎:ほうほう、おひとりで?
お 竹:いえ、何人か迎えのものと、牛車があったように思います……
熊五郎:おいおいおい、どっかの姫さんじゃねぇか!
こんなところにいたらまずいでしょう!
お 竹:月にむかって飛んだ気がいたしますがー
熊五郎:飛んだ?!
お 竹:そうしましたら、石が飛んできて、牛の足にぶつかり、転がり落ちてしまいました。
迎えの者は何食わぬ顔をして、そのままいってしまいました。
うちどころが悪かったらしく、そこから記憶がございません。
うちどころが悪かったらしく、そこから記憶がございません。
熊五郎:与太!てめぇのせいじゃねぇか!
与太郎:どこがぁ?
熊五郎:おめぇが投げた石が、この御方にぶつかったんだよ!
頭までおかしくなって、月にむかって飛んだとか言い出して、どうすんだ。
医者にはつれてったのか!
医者にはつれてったのか!
与太郎:つれていったぞ
熊五郎:どこに
与太郎:薮井竹庵
熊五郎:あいつだけはやめとけって何度も言ってるだろうが!
与太郎:名前をいったら、そこがいいっていうもんだから
お 竹:竹の先生ですね
熊五郎:……いや
お 竹:「タケノコ先生」もいるとお聞きしました。
熊五郎:まだ藪にもならない
与太郎:兄ぃ、なかなかおもしれぇこと言うな
お 竹:とにかく、竹と聞くと大変心が落ち着くのでございます。
まるで母の胎内にいるような……
熊五郎:それで竹細工がお好きでいらっしゃる?
与太郎:気づいたら、いろんなものが増えてるんだぁ。びっくりするよぉ。
熊五郎:しょうもねぇもんしかおいてなかったガラクタ道具屋が、いまじゃどうだい。
竹のカゴ、ザル、箸、提灯、物干し竿、ほうき、梯子、椅子、物干し竿、和傘…
あ、これは尺八に、笙(しょう)ですかぃ?
お 竹:はい、嗜まれますか?
熊五郎:まさか!見たのもはじめてですよ。
へぇ、これが笙(しょう)かぁ。見事なもんですねぇ
与太郎:しょうなんだよ
熊五郎:お前……、場の空気を凍らすことを言うんじゃねぇよ
お 竹:まぁ旦那様ったら
与太郎:へへへ
熊五郎:あれ、やっぱりお似合い夫婦かな?
しかし、屛風に茶道具……、やっぱりどこかの姫さんじゃねぇか?
おうちの方、探していらっしゃると思いますよ。
与太、奉行所につれて行った方がいいぞ
与太郎:いやだぁ、おいら、お竹と一緒にいたい
お 竹:私も旦那様と一緒にいとうございます
熊五郎:まさかのフォーリンラブ?
お 竹:こんなに何をしても文句を言わない方は初めてでございます
熊五郎:理由よ! あー、もうツッコミ過ぎて頭痛くなってきた
与太郎:なんだ?兄ィも、頭に石が飛んできたのかぁ?
お 竹:まぁ大丈夫でございますか?
熊五郎:違う意味でガーンとやられたよ。
お 竹:では竹の香りをかがれるとよいですよ。
安らぎや気持ちを落ち着かせる効果が期待できます。
熊五郎:ほんっとに、竹推しなんすね。
お 竹:竹はサステナブルな社会の構築にも貢献しております
与太郎:さ、さ、さしすせそなブル
熊五郎:突っ込みが迷子になるよ!
……ん?ちょいと待てよ
「迎えのもの、牛車、姫さん、竹……」昔話で聞いたことがあるぞ。
まさかとは思うが……
お竹さん、あなたもしや……
お 竹:いえ、「お竹かっこ仮」でございます
熊五郎:「お竹かっこ仮」さん、あなたもしや、何人もの男に求婚されて、難題をだされませんでしたか?
お 竹:……そういわれれば、ああ、そうです、そうです!
熊五郎:たとえば?
お 竹:【仏の御石の鉢(ほとけのみいしのはち)】
熊五郎:ほかには?
お 竹:【蓬莱の玉の枝(ほうらいのたまのえだ)】
熊五郎:あとは!
お 竹:【火鼠の皮衣(ひねずみのかわごろも)】
思い出してきました。
それから、
【龍の頸の玉(りゅうのあごのたま)】
【燕の子安貝(つばめのこやすがい)】
一番の難題は、やはりあれでしょう。
「きのこの山か、たけのこの里」か
熊五郎:そいつぁ、大戦(おおいくさ)のはじまりだよ!
与太郎:あたい「まんじゅうこわい」
熊五郎:きのこ・たけのこ、関係ねぇ!
お 竹:まぁ「まんじゅう」がこわいんですか?
熊五郎:いやいや、違う噺になっちまいますから!
そうじゃなくて、あなた、あの伝説の「かぐや姫」じゃありませんか?
お 竹:「貴女はもう忘れたかしら~♪」
熊五郎:そっちじゃなくて!
お 竹:では、どのかぐや姫ですか?
熊五郎:そら、あれですよ。
働きもせず無理難題を言いまくり、爺さんに愛想をつかされ月に追い返され、
月では裁判にかけられ地球に流刑となり、転生した先が大塚家具の娘として生まれ……
お 竹:ええ?!ひどい言われよう!
与太郎:「大塚」って、長屋のか?しょっちゅう家賃をほしがるあのじじい―
熊五郎:それは「大家」な! 字は似てるけどな!
お 竹:でも、そうかもしれません。
わたしは「お竹かっこ仮」ではなく、「かぐや」……
熊五郎:やっぱり!思い出したんすね、よかったなぁ与太!
お 竹:でも、私は月には帰りません。竹細工が楽しいのです
熊五郎:月でもやりゃぁいいじゃないすか!
お 竹:それに、旦那様の夢のお手伝いもしとうございますし。
熊五郎:なんだ、与太。生意気に夢なんか持ってやがるのか。
お 竹:ところで「大塚」って、誰なんですか?
熊五郎:……ズレ具合が与太とどっこいどっこいだな
お 竹:ちなみに、熊五郎さんは、きのこの山派ですか?たけのこの里派ですか?
熊五郎:いまその質問する?!ややこしくなるんで、ちょっと黙っててくださいよ。
お 竹:ひどい(泣)
熊五郎:ああ、もうめんどくせぇ
おう、与太!言ってみな。おめぇの夢を。
まさか、「道具屋」やめて「家具屋」になりてぇなんて言わねぇよな!
まさか、「道具屋」やめて「家具屋」になりてぇなんて言わねぇよな!
お 竹:かぐやだけに……
熊五郎:あ、あれ?当てちゃった?!
お 竹:そ、そんな小さい夢なわけないじゃありませんか
ねぇ、旦那様
与太郎:いつかお竹とお月さんに行って、お月さんのようなでっかい団子を食ってみてぇ。