ふたりはサイコウ【コメディ】

【登場人物】
西園寺(さいおんじ)/先生1:ヤンキー。クール。常識はある。ツッコミ。
高円寺(こうえんじ)/先生2:ヤンキー。影響されやすい。ノリはいい。ちょっとおバカ。ボケ。

ちょっと昔風のヤンキー高校生。
卒業式前に、良いことをしてヤンキーのイメージを変えようとする。

---------------【本編】---------------

西園寺:オレらも卒業だな。

高円寺:やっとだけどな。去年、卒業できなかった理由がいまだにわかんねぇのよ。

西園寺:まぁ、学校来てなかったからな。
それより、去年のトオルパイセンのクラス担任のよ、最後の挨拶、知ってっか。

高円寺:伝説の、だろ。知ってるよ。

【回想】先生1

先生1:卒業おめでとう。
皆さんと過ごせたこの3年間は私にとって宝物です。

私は皆さんから多くのことを学びました。
我慢すること。だれも授業の内容を聞いていなくても折れない心。
大声での授業。肺活量、腹筋、大変鍛えられました。

部活の顧問、保護者、他校や警察のもとに行き、謝罪する日々。
どうしたら許してもらえるか謝罪内容を推敲する力。
自分が学生だった頃より、ずっと勉強したような気がします。

そして、皆さんからのお決まりの言葉。
「先生、こんなこと勉強して、何の役に立つんですかぁ?」

先生も毎日毎日、こう答えましたね。
「こんなこともできないあなたは、一体何の役に立つの?」って。
心底そう思っています。

そんな君たちのことを、うらやましいと思ったこともあります。
「that's freedom!!」なんて自由なんだ!もう、ホンット羨ましかった。

正直言って、卒業できないほどの低レベルでしたが、職員会議の結果、「とりあえず学校に来ていたので早く卒業させましょう」
5秒で決まりました。こんなに短い会議は初めてです。

あなたたちが社会に出て、将来どうなるか、もうどうでもいいです。
ですが、卒業してくれる事は心から嬉しいことなので、やはり、あなたたちにはこの言葉を送りましょう。

「卒業してくれてありがとう。二度と学校には来んなよ。」

先生からは以上です。解散!!

【回想終わり】

高円寺:最高じゃね?

西園寺:どこがだよ。

高円寺:卒業喜んでくれたんじゃん?

西園寺:違う意味でな。

高円寺:意味わかんねぇ。

西園寺:オレら、ヤンキーだけど、最後くらいでっけぇ花火打ち上げたいじゃん?

高円寺:教室で?

西園寺:学校なくなるわ。学校が卒業するわ。

高円寺:ウケる

西園寺:ちょっといい事して、いい生徒だったなぁって思われてぇじゃん。

高円寺:いまさらじゃね?卒業式、明後日だぜ。明日は日曜だし。

西園寺:ヤンキーのイメージ変えたいと思わねぇか?
見た目や喋り方はこんなんだけどよ、実はいい人?みたいな?

高円寺:うーん、別にどうでもいいな、オレ的には。

西園寺:よく言うだろ?人を見かけで判断しちゃいけねぇって。

高円寺:ああ、言うな。

西園寺:そう思ってもらいてぇんだよ。
なんだ、アイツら、実はいい奴なんじゃん!って。

高円寺:サイコウじゃん?って。ま、どっちでもいいけど。

西園寺:じゃあ、どうすんだよ。

高円寺:知らねーよ!お前が言い出したんだろうが!

西園寺:ああ?やんのか?

高円寺:なんだ?やんのか?

西園寺:やんのか?

高円寺:やんのか?

西園寺:やんねぇよ!

高円寺:やんねぇのかよ。

西園寺:また卒業できなくなるだろうがよ。

高円寺:卒業間際の退学、ウケる

西園寺:まぁ、見てろって。オレがカッケーとこ見せてやんよ。

高円寺:お手紙拝見だな。

西園寺:「お手並み」拝見、じゃね?

高円寺:オレ、どんまい。

西園寺:少しは気にしろよ。
よし、バスが来たぜ。乗るぞ。

高円寺:うぃー。

―バスに乗る

西園寺:おい、見ろよ。優先席に、後輩たちが座ってやがる。

高円寺:座ったもんがちだろ。

西園寺:ちげーよ。あそこは、じいちゃん、ばあちゃん、カラダに障害がある人が優先的に座れる席なんだよ。

高円寺:お前、よく知ってんな。スゲェじゃん。

西園寺:お前が知らなすぎ。
ほら、ばあちゃんが立ってんぞ。アイツらどかせようぜ。
おい、お前ら!立てよ!ここは優先席だろ!ばあちゃんに席譲れよ!

高円寺:なんだぁ、その目つき。生意気だな。やんのか、ああ?

西園寺:ケンカはすんなって。

高円寺:(後輩の襟首掴んで)おらぁ!立てよ!オメェもだよ!!

西園寺:ばあちゃん、ここ空いたから座んなよ。

高円寺:ばあちゃん、顔、真っ青だけど、大丈夫か?心配すんな、アイツら、あとでシメとくから。
二度とバスに乗れねぇようにしてやらぁ!テメェら、次で降りろ!

西園寺:ケンカはやめろって。

高円寺:チッ!オメェら、命拾いしたな。オレらのことよ~く覚えとけよ!
こいつは西園寺。オレは高円寺。二人合わせて「サイコウ」!ひゅ~!

西園寺:おい。

高円寺:あ?

西園寺:他の客、オレらの周りから居なくなってんぞ。

高円寺:みんな、後ろに行ってんな。

西園寺:後部席に、あんなすし詰めになってんのはじめて見たわ。

高円寺:寿司食いてぇな……。「お蔵入り寿司」いかね?

西園寺:「お蔵入り」すんな。「お蔵寿司」な。

高円寺:オレ、どんまい。

西園寺:ったく。んじゃ、次で降りんぞ。

高円寺:おう。

―降車

西園寺:道の向こうだ。信号ー

高円寺:渡っちまおうぜ。

西園寺:赤だろうが。渡んじゃねぇよ。

高円寺:じゃあ、どうすんだよ!

西園寺:青になるまで待つんだよ!

高円寺:待ったことねぇよ!車来ないなら、いいじゃねぇか!

西園寺:見ろ。小学生がいる。

高円寺:それがどうした。

西園寺:オレらが信号無視して渡るとするだろ?そしたら、こいつらも真似するようになるかもしんねぇ。

高円寺:それがどうしたよ。

西園寺:危ねぇだろ?もし車が来てよ、こいつらはねられたら、どうすんだよ。

高円寺:救急車の出番じゃん?あと、お巡り。

西園寺:そうじゃねぇよ。未然に事故を防ぐ。それが大事なんだろうがよ。

高円寺:マジで?

西園寺:マジで。だから、オレらがマナーを守ってー

高円寺:オイッ、チビ共ぉ!車が来ないからって渡ろうとか思ってるやつぁいねぇだろうなぁ!いま、赤なんだよ。青になるまで待ちやがれ!
あと!!青になる直前に歩き始めるのもアウトな!!

西園寺:おい。青になったぞ。

高円寺:あ?うぃっす。
あれ?アイツら渡んねぇな。どした。
ああ、ビビって動けね~のか?ウケる
オレら、サイコウ!ひゅ~!

西園寺:店、入るぞ。

高円寺:うぃー。

西園寺:あそこ空いてんな。
ん?なんだ、あのおっさん。

高円寺:店員に怒鳴ってんの、バカじゃね。何、食おうかなぁ。

西園寺:「謝れ、土下座しろ」とか言ってんじゃん。「モンスタークレーマー」じゃん。

高円寺:モンスター?それは、一狩りしねぇといけねぇな。

西園寺:おい、おっさん。なんで怒ってんのか知らねぇけどよ。土下座強要すんのはダメだろ。

高円寺:おい、ハゲェ!

西園寺:見かけのことは言うな。

高円寺:おい、デブ!

西園寺:同じだ。

高円寺:文句あんならオレに言えや!ああ?

西園寺:「大トロなのに、脂が乗ってない?こんなもん食べれないから、払わない?」

高円寺:テメェの腹の脂でも乗っけとけや!!

西園寺:ずいぶん食ってんじゃねぇか。食い逃げする気かよ。

高円寺:ケチくせぇ。おい、ジャンプしてみろや。

西園寺:小銭の問題じゃねぇし、やり方が古い。

高円寺:お前が注文しといて食わねぇなんてよぉ、マグロがかわいそうだろうがっ!

西園寺:だな。

高円寺:「お命、頂戴いたします!」って言え。そして全国のマグロに謝れ!!

西園寺:それは無理がある。

高円寺:お、なんだ。金持ってんじゃんかよ。いますぐ払え!そして、消えろ!

西園寺:情けねぇな、いい大人がよぉ。

高円寺:行ったか。ケッ。
店員さんよ、あんな客にペコペコする必要……

西園寺:ん?どうした?

高円寺:おねぇさん、連絡先交換しない?

西園寺:ナンパすんな。

【間】

高円寺:いやぁ食った、食った!店長のおごりだって。いいことしたなぁ。

西園寺:な?いいことすると気持ちいいだろ?

高円寺:おう、サイコウの気分だぜ。

西園寺:うっし、電車乗るぞー。

高円寺:うぃー。

西園寺:優先席チェック。

高円寺:おう!

西園寺:とりあえずは大丈夫そうだな。オレらも座るか。

高円寺:おっしゃ!ジャンプ読も。

西園寺:お前のカバン、それしか入ってねぇよな。

高円寺:オレの人生の教科書だかんな。

西園寺:言えてる。
……ん?赤ん坊の泣き声がするな。

高円寺:腹でも空いたんじゃん?寿司食えばいいのにな。

西園寺:寿司は早いだろ。

高円寺:そういうもん?

西園寺:泣きやまねぇな。ママさん、焦ってきてるぜ。

高円寺:泣きやませに行くか?

西園寺:それより、隣のおばちゃんがイライラしてきてるな。

高円寺:あの、ヒョウ柄の服着たおばちゃん?おいおい、全部の指に、指輪してんぞ。
紫と緑のメッシュ入れて、でっけぇイヤリング。つか、もはや耳輪?手過ぎだろ。祭りの神か。

西園寺:「うるさいわね、早く泣きやませなさいよ」だとよ。

高円寺:ますます、ベイビーのボリュームが上がったじゃねぇか。

西園寺:ママさん、スゲェ申し訳なさそうにしてんな。ちょっくら、いってくるか。

高円寺:まかせとけ。
おーい、祭りの神のおばちゃんよぅ。ベイビーより、アンタの指輪に日が当たって、ピカピカ目に刺さるんだよ。ジャンプ読めねぇじゃん。

西園寺:そこ?

高円寺:焦ることはないぜ、かわうぃママさん。ベイビーは泣いて訴えるしかねぇからな。

西園寺:おばちゃんよぅ、イライラするなら違う車両に移れば?

高円寺:ベイビーの機嫌は、かわうぃママさんがとる。

西園寺:自分の機嫌は、自分でとる。

高円寺:髪についたままのカーラーは自分でとる。

西園寺:おおっと、急に立ち上がんなよ。あ?降りんの?

高円寺:祭りの神のおばちゃん、顔真っ赤にして降りてったぜ。

西園寺:やれやれだぜ。

高円寺:そのセリフぅ!サイコウだぜ!

西園寺:見ろよ、赤ん坊の顔。

高円寺:泣きやんだみたいだな。

西園寺:おい、この車両から、誰もいなくなったぜ。両隣の車両がギュウギュウじゃねぇか。

高円寺:牛丼食いてぇ。

西園寺:さっき寿司食ったろ。

高円寺:別腹だっつーの。

西園寺:お前は胃がいくつあんだよ。
あ、着いた。降りるぞ。

高円寺:ママさんとベイビー、バイビー。

【間】

西園寺:これからどうするよ?帰るか?

高円寺:ゲーセンか、カラオケ行こうぜ。

西園寺:だな。

高円寺:あー、待った。オレ、甘いモン食いてぇ。ファミレス行こうぜ。

西園寺:お前、ホント好きなのな。

高円寺:イチゴがいっぱいぶっ刺さってる鬼盛りのパフェ。

西園寺:アレなー。オレはムリ。生クリームで胸焼けする。

高円寺:いちごミルクとかサイコウなのによ。

西園寺:否定はしない。オレ、クリームソーダ。

高円寺:間違いない。

西園寺:じゃあ、鳴らすか?

高円寺:ピンポーン

西園寺:口で言うな。水吹いた

高円寺:じゃ、あらためてー

―ピンポーン

西園寺:来た来た。アレ……、竹原じゃん。お前、ここでバイトしてんの?

高円寺:よくそのツラでファミレスのバイトー、あ、察し。

西園寺:店長が断れなかったんだな。

高円寺:あ?「早く注文しろ?」なんだよ、それ。客に対する態度かよ。

西園寺:だいたい無言で来んなよ。
「お待たせ致しました。ご注文を承ります」って言ってねぇじゃん。

高円寺:はい、やり直しー。戻れー。

西園寺:「ごちゃごちゃうるせぇ」って、お前、それでバイト代もらってんの?ありえねぇんだけど。戻んなくていいから、いま言えよ。

高円寺:は?聞こえねぇ。

西園寺:ここファミリー層が来るんだろ。もっと明るいトーンで、ハキハキ笑顔で言えよ。

高円寺:はい、もっかーい。

―竹原、言う

西園寺:おー。やればできんじゃん。

高円寺:ウケる

西園寺:じゃ、「イチゴどんだけ刺さりまくり鬼盛りパフェ」と「懐かしいだろ?昭和のクリームソーダ」な。

高円寺:よろしくぅ。

西園寺:おい、黙って行こうとすんな。「ご注文確認させていただきます」だろ?

高円寺:繰り返せよなー。間違えて持ってきたら、あとでシめんぞ。

西園寺:文句言うな。そんなツラと態度でバイト雇ってくれた店長に、「ちゃんとできる」ってとこ見せないと、「やっぱヤンキーは」って思われるだろうが!
この店の売り上げ減ってたら、ぜってー、お前のせいだからな。

高円寺:かしこまりー。フゥー!

西園寺:目が笑ってねぇ!ひきつり笑顔じゃなくて、満面の笑みで、爽やかに!

高円寺:お、たーけーはーらちゃーん、笑うとカワイイね!

西園寺:よし、行け。40秒で持ってこい。

高円寺:(持ってこいで被せて)支度しな!

西園寺:かぶせんな。違うもんになるだろうがよ。

高円寺:好きなんだわ、アレ。

【間】

西園寺:おう、美味かったぜ。

高円寺:いちごミルク、サイコウ!ゴチになります!

西園寺:おごんねぇよ?お前のが高いだろうがよ。会計は別な。

高円寺:うぃー。

西園寺:竹原、ちゃんと受けとった金と、釣り銭、声出して確認しろ。

高円寺:その調子ぃ!

西園寺:おい、最後の挨拶。「ありがとうございました。またのお越しをー」?

高円寺:いいね!爽やかだよ、竹原ちゃん。

西園寺:また来るからな。そん時また、ぶーたれてたらぶっとばす。店長に「アイツ、クビにしてくれ」って言ってやっから。

高円寺:おーい。奥に、白岩もいんじゃん。コソコソ隠れやがって。オイッ!オメェもだかんな!

西園寺:よし、オレらも挨拶して帰ろうぜ。竹原、店長呼べ。

―店長、怯えながら来る。

高円寺:店長さんよぅ。コイツなんかやらかしたら、オレらに言ってくれ。

西園寺:ダチなんで、ビシッと言ってやりますよ。

高円寺:シメてやんよ。

西園寺:あと、パフェとクリームソーダ……、マジで…

高円寺:サイコウぅ!フゥ~!

西園寺:ご馳走さんっしたぁ!

【間】

高円寺:あ、母ちゃんから「まこちゃん。今日は牛丼だよ」ってメッセージ来たわ。

西園寺:まこちゃんって呼ばれてんのかよ。 お前、よく食うなぁ。

高円寺:いいことした日は、さらにメシが美味いんだろうなぁ!

西園寺:だな。よーし、帰ろうぜ。

高円寺:卒業式、楽しみだぜ!

―月曜日、学校。卒業式

先生:えー、今日は「先生が」待ちに待った卒業式です。皆さん無事に卒業できることを「心から」嬉しく思います。
ですが、土曜の夕方から月曜の朝にかけて、バス会社、匿名のおばあさん、小学校、その保護者、寿司屋、江田急行電車、匿名のお母さん、ファミレスの店長さん、等々、留守電やファックスが山のように来ていました。
安心していた私がバカでした。やってくれましたね……。はぁ……。
西園寺と高円寺、二人、立て。

西園寺:うっす。

先生2:高円寺も、だ!

西園寺:おい、お前も立てよ。

高円寺:あれ、コレ怒られるパティーン?ちっ。

西園寺:先生が立てって言ったら早く立つんだよ。

先生2:お前ら本当に……

西園寺:……

高円寺:……

先生2:「サイコウだぜ!!」

西園寺:ありがとうございましたぁ!

高円寺:オレらサイコウ!


Fin.