【登場人物】[1:0:1]
・青山 陽介:高校1年生。元サッカー部。事情があり、先生や周りを受けつけない態度をとる。
・結城 麻也:陽介の担任。陽介に拒否されながらも、導いていく。(男女不問)
高校1年生の陽介は、元サッカー部。事情があり、先生や周りを受けつけない態度をとる。陽介の担任の結城は、陽介に拒否されながらも、陽介が再スタートできるように導いていく。
※約20分
※語尾変更可。
※青山陽介は男子生徒ですが、男声でできるなら、女性が演じても可。
※結城役は、男女不問なので語尾等言いやすいように変更可。
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ー昼休み。外で、ひとりで食べている陽介
結城:青山君、教室でみんなと食べないの?
陽介:……
結城:ま、一人で外で食べるご飯も美味しいよね。
結城:先生も職員室で食べてると息が詰まる時があるから―
陽介:(ぶっきらぼうに)なに。
結城:ん?
陽介:用事があるなら早く言えよ。
結城:用事がないと話しかけちゃダメ?
陽介:……
結城:おにぎり、購買部で買ったの?
陽介:見りゃわかんだろ。
結城:一個じゃ足りないでしょ?
陽介:うるせぇな……
結城:先生のおにぎり、一個あげる。
陽介:うるせぇ!!
結城:……
陽介:いらねぇよ!用事がないなら、どっか行けよ!!
結城:そっか……。じゃあ、用事ある。
陽介:は?
結城:青山君はさ、毎日購買部でおにぎり一個だけ買ってるんだね。お母さん、忙しくてお弁当作る時間がない?
陽介:…………離婚(ボソッと)
結城:うん。そうだったね。お母さん、一生懸命働いてるんだもんね。お仕事、早朝から夜遅くまで2つかけもちしてるんだっけ。
結城:でもおにぎり一個じゃ足りないでしょ。お弁当を買うのは―
陽介:ウチは貧乏なんだよ!弁当なんか買えるかよ!!
結城:そっか。青山君、我慢してるんだ。
陽介:してねぇよ。
結城:お母さんから電話があったよ。
陽介:は……?
結城:「弁当を作ると言っても、『いらない』しか言わなくて、せめてお弁当代を、と持たせてるんですけど、ちゃんと食べているでしょうか」って。気にして、節約してるんでしょ?
陽介:ちげーよ!ゲーセンで全部使ってんだよ!
結城:嘘。
陽介:嘘じゃねぇよ。
結城:先生やPTAが見回りに行ってるの知ってるでしょ。
陽介:あんたらが知らねぇとこで遊んでんだよ。
結城:そうなんだ。どこ?
陽介:……教えるわけねぇだろ!
結城:まっすぐウチに帰ってるんでしょ。小学生の妹さんがいるから。いいお兄ちゃんだね。
陽介:あー、くっそ!まっすぐ帰って、妹がいるってだけで、いい兄貴判定するなよ!
結城:部活もやめたんだってね。サッカー部。顧問の先生が言ってたよ。
陽介:あれはっ!先輩たちがめんどくせぇからだよ。あいつらちょっと年上ってだけで、いばり散らしてよ。
自分らよりいいプレイすると、シカトするし、嫌みを言ってくるし。しかも、弱いやつ狙って、部室でシメやがって、ふざけんなよ!
結城:顧問の先生が残念がってたよ。
陽介:はぁ?よく言うぜ。アイツは上手いヤツばかりひいきして、陰でいじめられてるヤツがいるのも知ってるくせに見て見ぬふり。だから、俺が……
結城:俺が?
陽介:……なんでもねぇ。とにかく!あんな胸くそ悪いとこ、やめてやったんだよ!
結城:「俺」が助けてあげて、先輩と喧嘩になって、先輩が顧問に告げ口して、辞めさせられた。
陽介:ち、違う!そんなんじゃねぇ!
結城:青山君は、自分のことより、困ってる人、守らなきゃいけない人を優先にしてるんだ。
陽介:ああっ!もうなんなんだよ!うぜぇんだよ!もうほっといてくれよ!
ー陽介、走っていってしまう
結城:あっ……!
陽介:くそ!なんなんだよ!
ー陽介、教室に戻る。一瞬、クラスが静まり、陽介に視線が集まる
陽介:見てんじゃねーよ!
ー緊張が走るも、いつも通りの雰囲気に戻るクラス。コソコソ噂話をしている生徒もいる。
陽介:どいつもこいつも……
ー自分の席に座る
ー机の中に何か入っているのに気づく
陽介:……ん?袋?おにぎり、お茶、お菓子……?
ーメモを見つける
結城(N):「青山君へ これだけじゃ足りないだろうけど、食べてください。お菓子は妹さんと一緒にね。学校で食べちゃだめだよ。結城」
陽介:余計なことしやがって……
ー放課後、サッカー部の練習を遠くから見つめる陽介
結城:青山くーん!
陽介:ッ!
結城:帰るところ?……あ、部活見てたんだ。
陽介:帰る。
結城:ああ、ちょっと待って。
陽介:なんだよ。
結城:今日、クラスでプリントまわしたでしょ。三者面談の。でも、青山君、ゴミ箱に捨ててたみたいだから。
陽介:……忙しくてそんな暇ねぇよ。
結城:お母さん、気にしてると思うんだよね。学校での様子とか、進路のこととか。家でそういう話す時間もない?
陽介:ねぇよ。
結城:お母さん帰ってきたら、妹さんが先に甘えちゃう。
陽介:……
結城:先生から、お母さんに連絡とってもいいかな?
陽介:は?勝手なことすんなよ!
結城:お母さんを心配させたくない、か。
陽介:そんなんじゃねぇし。なんなんだよ、うぜぇな!
結城:うざい?
陽介:うぜぇ!ほっといてくれよ!
結城:そっかぁ。褒められちゃった。
陽介:はぁ?バカじゃねぇの?
結城:うん、バカなのかも。
陽介:そんなんで、よくセンコーなんかやってんな!
結城:あ!「センコー」って言われた。
陽介:なに喜んでんだよ、ほんとにバカなのかよ!学園ドラマの見過ぎじゃねぇの?
結城:まぁ、それもあるかもね。
陽介:付き合ってらんねぇ。帰る。
結城:あ、ちょっと!
ー走って帰る陽介
結城:ちゃんと、おにぎりは持って帰ってくれたみたいね。よかった。
ー結城、サッカー部の練習を見る
結城:サッカー、やりたいんだろうなぁ。やりたいことができないって、しんどいよね。
ー次の日
結城:おはよう!青山君!
陽介:……
結城:あれ、挨拶は?
陽介、しぶしぶ頭を軽く下げる
結城:ありがと。三者面談のことだけどー
陽介:連絡したのかよ。
結城:先生からはしてないよ。
陽介:しなくていいから。
結城:でも、今朝もお母さんから電話があったから、話しちゃいました。
陽介:はあ?
結城:お母さん、時間とってくれるって。また連絡待ち。
陽介:余計なことすんなよ!勤務時間調整も大変なんだぜ!
結城:やっぱり、青山君はお母さん想いだねぇ。
陽介:そんなんじゃねぇ。勘違いすんな。
結城:お母さんね「陽介とも話したいんですが、時間が取れなくて。親として失格です」って言ってたよ。
陽介:ッ!
結城:もちろん、そんなことない。お母さんは、二人のために一生懸命働いていらっしゃるし、二人のことを心から愛してるのが伝わってくる。だから「陽介君は、お母さんや妹さんのことを思って行動してますよ」ってお伝えしておきました。
陽介:知らないくせに……
結城:……ん?
陽介:何も知らないくせに、知った風な口きくんじゃねぇよ!俺の何がわかるってんだよ!
結城:……そうだね。わからない。話してくれないとわからない。お母さんにも伝わらないよ。
ーチャイムが鳴る
結城:あ、授業はじまる。青山君も早く席について。また後で!
陽介:……
ー放課後
結城:あっおやまくーん!
陽介:……ちっ
結城:コソコソ帰ろうとしたでしょー。ふふ、甘いな。
陽介:まじで、うぜぇな。空気読めねぇの?
結城:空気?
陽介:こんなに嫌われてるんの、わかんねぇのかって言ってんだよ。
結城:ああ、そうなんだ。んー、空気はね、読んだり、読まなかったり、かな。器用でしょ。
陽介:普通だったら、心折れるだろ。
結城:そうかもねー。
陽介:どんだけ能天気なんだよ。
結城:こう見えて、学生の頃は、バッキバキに心折れてたよ。
陽介:自慢することかよ。
結城:学生の時、陸上部入ってたんだ。サッカーとは違って、個人種目ばかりで一人でやっているというイメージの強いかもしれないけど、実はそんなことはないんだよね。
陽介:……知ってるよ。横で陸上部が練習してんの、たまに見てたから。
結城:見ててくれたんだ、うれしいなぁ。
陽介:あんたのことじゃないからな。
結城:わかってる、わかってる。なかなかいいタイム出せなかったり、伸び悩んだりしてさ、強くなることは簡単じゃないよね。練習は辛かったなぁ。先生も先輩も厳しかったし。よく泣いた。リレーでバトンミスするとさ、申し訳なくて、悔しくって。
陽介:……
結城:バトンパスを成功させるには、渡す側も受け取る側も気をつけるポイントがあるんだよね。
陽介:それ、話長くなるやつ?
結城:あ、そうかも。好きなことだと、いっぱい話したくなっちゃうから。
陽介:帰っていい?
結城:あーっと。じゃ、一個だけ話したい!
陽介:なんだよ。
結城:最初からうまくいくわけない。繰り返し繰り返し何度もやっていくうちに、タイミングがあってきて、バトンを渡すときも、「はい!」と声を出したほうが連携がうまくいく。で、それが成功した時の満足感。目標を成し遂げたときの喜び。それは何にも変えられないなって、いまも思うんだ。
陽介:……それで?
結城:それで?……ああ、結論がほしい感じ?
陽介:普通、欲しいだろ。思い出話に付き合ってる暇ねぇんだけど。
結城:だから、声を出して。
陽介:は?出してんだろうが、いまも。
結城:そうじゃなくて、青山君の心の声。素直な気持ち。
陽介:なんだよ、それ……
結城:サッカーやりたい?
陽介:……
結城:お母さんの力になりたい?
陽介:……
ー陽介、手が震えてくる。
結城:できない自分がはがゆい?
陽介:……るせぇよ。うるせぇんだよ!うるせぇ、うぜぇ、ムカつく!
ー※泣きの演技をするかはお任せします
陽介:親父が外で女つくって……、妹が……、妹が、たまたま親父のスマホのやり取り見ちまって、「どうして他の女の人と仲良くするの?」って俺に聞いてきて!そんなん答えられねぇだろ?で、帰ってきたらきたで、毎日、おふくろと親父は大喧嘩。妹が泣きながら止めに入って、妹は、あやうく親父に叩かれるところだったんだよ!そしたら、かばったおふくろが叩かれて……。カッとなって、俺が親父を思いっきり殴りつけてやった!そしたら、そのまま……、そのまま出てったよ、あいつは!あいつは逃げやがったんだ!
それ以来、妹はトラウマを抱えてんだよ。大きい音が怖い、一人の時間が怖いって。離婚が成立した後は、あいつからの養育費の支払いが遅れたりなんだりで……それに、それだけじゃ親子三人やっていけない。だから、俺たちを養うために、おふくろは朝から晩まで働いてんだ!
本当なら、俺はバイトして、せめて自分の分くらい自分でなんとかしたいんだよ!でも、校則でバイトは禁止されてる!自分だけ、好きなサッカーやってる場合じゃねぇんだっ!
【少し長めの間】
結城:ありがとう。
陽介:……はぁ?
結城:君の声が聞こえた。
陽介:うぜぇって言ってんだろ……
結城:うぜぇって言いながら泣いてる人を、見て見ぬふりなんかできない。
陽介:そんな……、そんな言葉、信じられねぇよ。顧問は見て見ぬふりを決め込みやがった。大人なんて信じられねぇよ!
結城:大人の勝手な都合で、傷つけてしまってごめんなさい。こんな大人に囲まれて、辛かったよね。私が謝ったって意味がないのはわかってる。でも、そんな思いをさせてしまった大人たちの代わりにー
ごめん。
ー頭を下げる結城。
陽介:やめろよ。
ー頭を下げたままでいる。
陽介:やめろって言ってんだろ!謝ってほしくなんかねぇよ!
ー頭をあげる
結城:私は、青山君と、もっと会話がしたい。
陽介:……
結城:サッカーのパスみたいに、バトンパスみたいに、気持ちも繋げていこうよ。
陽介:……どうせ面倒くさくなって、逃げるんだろ……
結城:逃げないよ。
陽介:信じられねぇ!
結城:逃げない。
陽介:……
結城:私や周りの人は、青山君をサポートすることはできるよ。ううん、サポートする。約束する。
陽介:逃げてんのは……
結城:ん?
陽介:逃げてんのは……俺……
結城:……
陽介:わかってんだ……。わかってんだ!自分は何もできないって、目を背けて、他人のせいにして、人を受けつけない雰囲気をだして、周りから逃げてんのは俺なんだって……
結城:……青山君は、私が思っていたより大人だね。すごい。
陽介:すごくなんかねぇ……
結城:そこまでわかってるのなら、リスタートする準備はできてる。
陽介:リスタート……?
結城:そう、再スタート。その最初の一歩を踏み出すのは、キミ自身なんだよ。
陽介:……
結城:誰かが動かしてくれるわけじゃない。青山君が、「自分で」動きだしてくれたら、周りも君をサポートしやすくなる。
陽介:……
結城:待ってるから。キミが自ら来てくれるまで、待ってる。今度、三者面談で話そう。お母さんもそれを望んでた。……いいよね?
陽介:……(頷く)
結城:ありがとう。思いっきりぶつけてくれて、気持ちよかった。
陽介:ヘンなヤツ……
結城:どうにでも言ってくれぃ。うざくて結構。変なヤツ上等!
陽介:ふ……(少し笑う)
結城:泣け泣け!そんで、笑え!
陽介:な、泣いてねぇし!
結城:あ、そう?なーんだ、気のせいか。
陽介:学園ドラマじゃねぇっつーの。
結城:それは残念。
陽介:そんなこと思ってねぇくせに。
結城:バレましたか。ハハハ。……そういえば、もうすぐ大会が終わるね。
陽介:え?
結城:サッカーの。
陽介:あ、ああ。
結城:先輩、引退するね。
陽介:……あ
結城:例の先輩たちは引退する?
陽介:引退する先輩もいるし、そうじゃない先輩もいる。
結城:そっか。まだキツいかな。
陽介:……
結城:あと、サッカー部の顧問、交代するんだって。
陽介:え?
結城:青山君が言ってたでしょ?部活の先輩がいじめをしてたって。青山君がかばったその子がね、勇気を出して校長先生に話をしたんだよ。
陽介:それも、先生がたきつけたんじゃねぇのか?
結城:心外!違いますよ?彼自身が、自分で考えて、自分で行動した結果です。で、秋から、新しい人になるらしいよ。しかも、外部コーチ。
陽介:外部コーチ……
結城:いいなぁ、資格をもった専門のコーチに教えてもらえるなんて、うらやましいなぁ。
陽介:言い方が、しらじらしいんだよ。
結城:ま、これは一情報として伝えただけです。どうするかは、青山君が決めてください。
陽介:うっぜぇ。
結城:はい、「うざい」いただきましたぁ。ありがとうございます。
ー二人、軽く笑う
結城:じゃ、三者面談の日にち、決まったらまた連絡する。気を付けて帰って。
ー結城が学校に戻る様子をしばらく見て
陽介:……先生!
結城:ん?
陽介:……俺、もう逃げない……です。
結城:うん。
陽介:もし、理不尽な仕打ちを受けた時は、話し合います。
結城:うん。
陽介:話し合いが無理なら、コーチに相談します。
結城:うん。
陽介:だから……その……。あ、ありがとうございました!
結城:(微笑む)こちらこそ、「先生」って言ってくれてありがとねー!
【間】
ー三者面談が終わり、数日後の昼休み。外で、ひとりで食べている陽介。
陽介:おふくろのヤツ、「おにぎり作ったから」って。なんだよ、この大きさ。いくつ作ったんだよ。
ーガサガサと開ける
陽介:これ……
結城:あ、いたいた!
陽介:せ、先生!いつの間に!(隠そうとする)
結城:隠さなくてもいいじゃない。もう見ちゃったし。おっきな丸いおにぎり。ハンドボールくらい?それよりは小さいか。しかも、海苔でサッカーボールみたいになってる!これなら、お腹いっぱいになるね。
陽介:食べにくいっつーの。……で?なんか用ですか?
結城:ああ。これ、入部届。お母さんから預かりました。
陽介:え、いつ?
結城:三者面談の後。
陽介:いつの間に!
結城:ほら、保護者のサインがないとダメだからさ。お母さん忙しいでしょ。あのタイミングしかなかったんです。仕方ない仕方ない。あとは、キミがサインを書いて提出するだけだね。
陽介:強制かよ……
結城:とんでもない。最後の判断は任せるよ。あ、そうだ。これまで節約してた分、貯金箱に入れてたんだって?お母さんが教えてくれたよ。
陽介:おふくろのやつ、余計なことを……
結城:いい息子さんを持って、お母さんは幸せだね。うれしさが、おにぎりの大きさに出ちゃったのかな?そのサッカーボールおにぎり、よく味わって食べて。じゃ。
ー結城、戻る
陽介:……ったく。
ーおにぎりにかぶりつく。
陽介:……なんだよ、これ。デカすぎだっつーの。……わざわざ四角に海苔を切って、はっつけて……四角じゃねぇ、五角形だし……。しかも、海苔が手について食べにくいっつーの……。具もパンパンに入って……。なんだよ、これ……。
あと……、いつものおにぎりより……なんか……、しょっぺぇ……(鼻をすする)
Fin.