絡み酒【コメディ・落語風味】

 【登場人物】[1:1:1]

・昭二(しょうじ)♂アラフォー・・・酒が入ると泣き上戸。学生時代、落研(落語研究会)に入っていた。

・和子(かずこ)♀アラフォー・・・酒が入ると絡み酒。学生時代、ライブ活動をしていた。声優を目指していたこともある。

・翔太(しょうた)/翔子(しょうこ)♂20歳・・・声優を目指している。

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昭二と和子は幼馴染。それぞれ家庭は持っているが、長年の飲み友達。
居酒屋で愚痴っているところ、たまたま居合わせた翔太は、二人に絡まれる。そして―?
※「外郎売」や落語「まんじゅうこわい」が出てきます。
※語尾変更OK。アドリブOK。
※約30分
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SE 最後まで居酒屋風の音】

―居酒屋カウンター席にて

和子 :よーし、昭ちゃん行くよ~!せーの!

和子 :カンパーイ

昭二 :カンパーイ

 

―飲む

 

昭二:カーッ!うまい!いやぁ、久しぶりにかずちゃんと飲むねぇ。何か月ぶりだよ

 

和子:んー…?3か月ぶり?

 

昭二:そっか…。で、かずちゃん、最近どうよ

 

和子:なにがよ

 

昭二:いや、お前んとこの息子だよ。高校に入って、ちゃんと勉強するようになったか?

 

和子:どーだかねぇ。中学ん時はぜんっぜん勉強しなかったもんね。いくらいっても『うるせぇ、ばばぁ』しか返ってこないから、はらわたが煮えくり返るわ。高校入ったら、あとはバイトしてスマホ代は自分で払え!自分のものは自分で洗濯しろ!って、絶対手を出さないことにした。…ったく、バカ息子が

 

昭二:まぁ、俺たちもさんざん親に反抗したからな。仕方ねぇっちゃあ、仕方ねぇ。うちの娘もよぉ、小さい時は俺が帰ってきたら、すっ飛んできて足にしがみついて離れなかったんだぜ?『将来は、お父さんのお嫁さんになる!』とか言ってたのに…。それがいまはどうよ。『お父さんのと一緒に洗濯しないで!』だってよ。ふざけんなよ。俺はバイ菌かっての

 

和子:(笑う)そんで、娘ちゃんは自分で洗ってる?

 

昭二:洗ってる…(ちょっとずつ泣きがはいりはじめる)

 

和子:まぁねぇ、年頃の女の子はそうなるよねぇ。『お父さん、臭い!』とか言われてるんじゃない?

 

昭二:言われる…

 

和子:うちは娘いないからさ、そういうのないけど、私が言っちゃてるわ。旦那の枕とかさ、匂うんだよね。消臭剤かかせないわ

 

昭二:ひでぇよ…

 

和子:スメハラオヤジって言うらしいよ

 

昭二:スルメハラ?

 

和子:ス・メ・ハ・ラ!―説明しよう!スメハラとは、スメルハラスメントの略で、においにより周囲を不快にさせる嫌がらせのことであ~る

 

昭二:嫌がらせしてるつもりはねぇよ!

 

和子:わかってるって。まぁ、女も年とってくると、女性ホルモンの減少で匂いやすいみたいだからさ

 

昭二:そうなのか?…くんくん(和子の匂いをかぐ)

 

和子:やめろっ、このセクハラ親父

 

昭二:かずちゃん…

 

和子:な、なによ

 

昭二:いい匂いだな

 

和子:ばーか!私はまだ女捨ててないからね。いろいろ気を付けてんだよ。アンタも『スメハラオヤジ』って言われたくなけりゃ、対策することだね

 

昭二:どーすりゃいいんだよ…

 

和子:はい、じゃメモって。汗をこまめにふく。湯舟につかる。丁寧に体を洗う。薬用せっけんを使う…

 

昭二:俺、烏の行水(カラスのぎょうずい)

 

和子:自慢げに言うなっての。あー、あとは、タバコは吸わない。お肉が大好きなら要注意。脂肪の取りすぎをやめて、和食中心にする。ストレスをためない…

 

昭二:タバコは、かみさんと、娘に散々言われて、泣く泣くやめた…。そのかわり肉に走った。見ろ、この腹を

 

和子:うっわ。なにそのお腹…

 

昭二:毎朝、腹の肉、つままれて起こされてる…ストレス…(泣き)

 

和子:(吹きだす)まぁまぁ、飲みなよ。ほら

 

昭二:ううう…(泣き)

 

和子:しっかし、あれだよねー。うちのバカ息子もそうだけど、最近の若い子は知らないことが多い!本は読まないし、新聞は読まないし、日本の文化知らないしさぁ。日本好きの外国人の方がよっぽど知ってるよ。情けないったらありゃしない

 

昭二:うちの娘は、アイドルの追っかけに夢中だぜ。『推し』とか『リアコ』とか意味わかんねぇよ。みんな同じ顔にしか見えねぇよ

 

和子:うちの息子は、アニメヲタク。『日本のアニメ、漫画はすげぇ勉強になるんだぜ!』って言ってるよ。いや、別にいいんだよ、アイドル好きでもアニメ好きでも。ヲタクも否定しない。わたしも漫画やアニメには世話になったしね。確かに、日本のアニメーションはすごい。それは認める

 

昭二:それは同意見だ。日本のアニメは世界に誇れる文化といってもいいよな

 

和子:だね

 

昭二:で、オタクんとこのヲタク息子は、好きなアニメのポスターとか部屋中に貼ってる?

 

和子:でた、親父ギャグ!貼ってる貼ってる!もうベッタベタよ。フィギュアとかグッズとかすごいよ?別にいいんだけどさぁ…。なんていったらいいのかなぁ…

 

昭二:いや、かずちゃんの言わんとしていることはわかる

 

和子:あ~、なんかめっちゃ語りたくなってきた

 

昭二:おぅおぅ、語れ語れ。飲め飲め

 

【間】

SE 店の引き戸が開く音】

―翔太が店に入ってくる

 

翔太:あー、疲れた…。結構混んでるな。んーと(店内を見まわして)…。あ、あそこ空いてんな。よいしょっと

 

和子:…(目がきらり・絡み酒スタート)

 

翔太:すいませーん。とりあえず、生ひとつお願いします。いやぁ、マジ疲れた…

 

和子:ちょっとアンタ

 

翔太:え?

 

和子:アンタのカバン、私の足にのっかってんだけど

 

翔太:わっ!すいません

 

和子:アンタ…若く見えるけど、まさか未成年じゃないだろうね?

 

翔太:違います…

 

和子:ふぅん。…いくつ?

 

翔太:ハ、ハタチですけど…

 

和子:学生?名前は?

 

翔太:えっと、翔太です。…専門学校に通ってます

 

昭二:お、俺は昭二だぜ。こいつは幼馴染の和子。お前も、もしかして”しょうちゃん”って呼ばれて―

 

和子:(被せて)翔太ぁ、なんの専門学校いってんのよ

 

翔太:せ、声優養成所…です

 

和子:声優…?

 

昭二:おい、かずちゃん(ちょっと止めにかかる)

 

和子:じゃあ、『外郎売り』やってみな

 

昭二:やめとけって。ほら、ビール来たぞ。翔太くん、飲みな―

 

和子:(被せて)るっさい!しょうちゃんは黙っとけ!おら、外郎売り~~

 

翔太:ええ~、ここで、ですか…

 

和子:はやく!

 

翔太:は、はい!(タジタジ、ぼそぼそ。うまく言えない)

せ、拙者 親方と申すは お立合のうちに 御存じのお方も ござりましょうが お江戸を発って 二十里上方 相州小田原 一色町を お過ぎなされて 青物町を 登りへおいでなさるれば 欄干橋 虎屋藤右衛門 只今は 剃髪致して 円斎 と 名乗りまする

 

和子:…あ?

 

翔太:…え?

 

和子:なんのために、それやってんの?

 

翔太:えっと、早口言葉とか、発声、滑舌などの練習で…

 

和子:(机をドン!)いいか!早く言えればいいとか滑舌とか、それだけじゃないんだよ。それで、外郎が売れると思ってんの?売れるように言わなきゃダメなの!歩いている人の足をとめないとダ・メ・な・の!!

 

昭二:(小声で)悪ぃな。こいつ、昔、声優目指してたことがあってさ…

 

翔太:はぁ…。あの、ビール飲んでもいいですか…。(小声)ってか、いつの間にか二人に挟まれてるし…

 

和子:おう、飲め。はい、じゃあ、質問でーす。外郎売りは、なんの台本を基にしたでしょーか!

 

翔太:え…?し、知りません

 

和子:享保(きょうほう)3年・1718年に、二代目市川團十郎が演じた『若緑勢曾我(わかみどりいきおいそが)』という歌舞伎の演目の初演とされる台本を基にしました!

 

翔太:へぇ

 

和子:へぇ。じゃねぇだろぅがっ!知らないでやってんの?

 

翔太:すいません!

 

和子:じゃあ、次の問題でーす。ジャジャン!歌舞伎の語源はなんでしょーか!

 

翔太:歌舞伎の語源…?いや…

 

和子:傾(かぶ)く!流行の最先端をいく奇抜なファッション、世間の常識お構いなしのかぶき者をまねた扮装で見せたのが、歌舞伎のルーツといわれる『かぶき踊り』。

歌舞伎はね、芝居、踊り、音楽で人々を楽しませる流行を取り入れたエンターテインメントなんだよ!アンタ観に行ったことないの?

 

翔太:ないです…

 

和子:ったく…。ジャジャン!次の問題です!

 

昭二:クイズ番組かよ

 

和子:地味な色の着物をきた男性の中で、色鮮やかな女性用の着物を、マントのように羽織ったりするなど、常識外れな派手な服装を好んだ者のことを―

 

翔太:か、傾奇者(かぶき者)!!

 

和子:―と言いますが、戦国時代の武将で”傾奇者”と言われたのはだ~れだ?

 

翔太:えっ?えっ?

 

昭二:一人くらい出るだろう?超絶有名武将

 

翔太:えーと…

 

和子:ヒント!”鳴かぬなら殺してしまえホトトギス”

 

翔太:あー!あ、織田!織田信長!

 

和子:ピンポン!やっとわかったか。…言っとくけど、これ本人が詠んだわけじゃないからね?

 

翔太:えっ、そうなんですか?!

 

和子:…あとは、伊達政宗、前田慶次、前田利家、徳川吉宗も傾奇者と言われたねぇ

 

翔太:伊達政宗、前田慶次好きです!戦国BASARA

 

和子:あぁ?

 

翔太:いや!なんでもないです!すいません!

 

和子:…私も、伊達政宗は好きだよ…

 

翔太:ですよね!ですよね!

 

和子:伊達政宗はいい男だねぇ

 

昭二:会ったことあんのかよ…

 

和子:では、その『バサラ』とは、どういう意味でしょーか!

 

翔太:ええっ?考えたことなかった…

 

和子:鎌倉末期から南北朝の動乱期に派手で奇抜な衣装を身に纏い、傍若無人な振舞いをする者が登場。人は彼らを『ばさら者』と呼んだ―

 

翔太:ほぇ~

 

和子:間の抜けた声出すんじゃないよ。そして、そのころ京に現われた出雲の阿国(おくに)は、男装してこの傾(かぶ)く文化を取り入れた踊りを披露し、一世を風靡!その流れから、男性だけで演じる現在の歌舞伎が生まれていまーす!

 

翔太:ほぇ~

 

和子:ほぇ~じゃないよ。歴史で習ったでしょ!

 

昭二:かずちゃん、もうやめとけって

 

和子:なんでよ。伊達政宗がいい男って言ったから、ヤキモチかぁ?ジェラシーかぁ?ジェラってんのかぁ?

 

昭二:そこじゃねぇぇぇ。いい男って言ったら、ちゃんと写真が残ってる新撰組・副長のー

 

翔太:新選組!!鬼の副長!

 

和子:お、食いついてきたねぇ

 

翔太:新選組は好きなんです!

 

和子:新選組、鬼の副長の名前は?

 

翔太:土方十四郎 (ひじかたとうしろう)

 

昭二:あ、そっち言っちゃった…

 

和子:土方歳三だろーがぁぁぁ!マヨラーか?お前はマヨラーなのか?

 

翔太:マヨラーです!

 

昭二:ま、お前は声優目指してるからな。俺も娘が見てたから知ってるけど、まぁそういうところから、歴史に興味持ってくれればいいが…。ちゃんと調べような?

 

翔太:あのアニメ、声優さんたちも大好きなんでつい…

 

和子:あー、なんか疲れた。今度、しょうちゃんの番ね

 

昭二:お、俺?

 

和子:しょうちゃんは、翔太に聞いてみたいことはないんですかっ!アンタの好きなの、ほら、ちょっと言ってみ?

 

昭二:あー…、じゃあ…『まんじゅうこわい』とか

 

翔太:え?まんじゅう?

 

昭二:知らねぇの…?

 

和子:しょうちゃんはね、大学の時、落研(おちけん)に入ってたんだよ

 

翔太:オチケン…?

 

昭二:落語研究会だよ!”まんじゅうこわい”は古典落語の演目の一つだぜ?八五郎、三吉、半介、正一が出てくるんだ。いいか?(咳払い)

 

―昭二、落語風に話し出す(うまく話せなくてもいいです)

 

三吉:「人間誰でも怖いものってぇものがあるんだ。それは何故かってえと、生まれたときに胞衣<えな>を埋めるだろう。その埋めた場所の上を最初に横切ったものがあると、それがそいつの怖いものになるんだよ」

 

八五郎:「何だいそのエナってのは?」

 

三吉:「お前が生まれてきたときにくっつけてきたへその緒よ。それで、八ちゃんは何が怖えぇ?」

 

八五郎:「俺は毛虫が怖えぇ」

 

昭二:…って感じで何が怖いかって話が進むんだよ。そんでよ、『ところで、正ちゃん、お前さっきから黙っているけど、お前ぇの怖いものはなんだい?』って正一に聞くと、『怖いもの? そんなものはこの俺様には無ぇ!!』って言いやがる。じゃあってんで、『嫌いものはないかい?』って聞くと、『そうかい、それまで聞いてくれるかい?それなら言うよ。俺はねぇ、饅頭が怖いんだ!!

 

翔太:饅頭が怖いんですか?

 

昭二:あー!なんでそこまで説明しなきゃいけねぇんだよ…(泣き)翔太よぉ…同じ”しょうちゃん”仲間だから今回は許してやるが、本来ならデコピンに、こめかみグ〜リグリの刑だぜ?落語は、歌舞伎とかの芸能とは違って、衣装や道具、音曲に頼ることは少ねぇ。ひとりで何役も演じて、身振り・手振り、扇子や手拭を使ってあらゆるものを表現する独特で高度な伝統芸能なんだぜ?声優になろうってんなら、落語も勉強しろよ

 

翔太:わ、わかりました。ググります!…って、いつの間に、しょうちゃん仲間に…

 

和子:あ~あ、正ちゃんがでてきた落語で、しょうちゃんを泣かせたなぁ、翔太ぁ?

 

翔太:いや、そんなつもりは!

 

昭二:お前よぉ、寄席とか、舞台とか観に行かねぇの?

 

和子:展覧会とか美術館とかさぁ

 

昭二:学生割引があるんだから、利用しろよぉ…。貪欲に知識取り入れていけよぉ。大人になってから必ず思うから。『あー、学生の頃にもっと勉強しとけばよかったなぁ』って。大人になると勉強したくても忙しくてなかなかできないんだよぉぉぉ

 

和子:そうだよぉ?子供たちが自立して、家のローンの支払いが終わったら、ちょっと余裕ができて、ああ、何か学び直そうかなぁと思ったら、今度は介護がはじまるのよ

 

昭二:俺は汗水流して鼻水垂れ流して、いろいろ垂れ流して働いてんだよ

 

和子:汚なっ!!…で、落ち着いたら学び直しをすることはできるけど、そんときゃ私らの頭はカチコチよ。忘れるほうが得意になんのよ?

 

翔太:そう…ですよね…

 

昭二:つれぇ…(泣き)

 

翔太:…

 

和子:じゃあ、次の問題です!

 

翔太:またですか…

 

和子:(財布からお札を出す)ジャン!千円札。この人物は-

 

翔太:の、野口英世!

 

和子:で・す・がー

 

昭二:ひっかけ問題好きだねぇ

 

和子:っるさいなぁ。その前の千円札の肖像画は誰だったでしょーか!

 

翔太:えーーー!!見たことないですよ…

 

昭二:翔太はハタチか…。夏目漱石の千円札はたしか2004年までだったか?

 

和子:しょうちゃん!答えを言うなぁぁぁ(耳をひっぱる)

 

昭二:いててっ!いってえ…(泣き)

 

和子:男が簡単に泣くな!

 

翔太:あ!あ!おふくろが『記念に』って持ってます!

 

昭二:…耳ちぎれるかと思った…。まぁお札は時代とともに変わるからな。次は、2024年に新札がでるんだったか。次の千円札は、渋沢栄一(しぶさわ えいいち)とー

 

和子:(聞いてない)翔太ぁ、夏目漱石で読んだ本は?

 

翔太:えっと…、タイトルだけでもよければ…

 

和子:言ってみな

 

翔太:吾輩は猫である

 

和子:他には?

 

翔太:えっと、『蜘蛛の糸』『人間失格』


-和子のパンチが来そうになる


和子:おらぁぁぁぁぁっ!!

 

昭二:かずちゃんんんんん!(とめる)

翔太、『蜘蛛の糸』は芥川龍之介な?『人間失格』は太宰治。

有名だから、ちょーっと勘違いしたんだよな?ちょーっと!

 

翔太:はっ、はい!あの、ええっとぉ『人間失格』は映画館で見て-

 

昭二:え?アレ見ちゃったの?どうだったぁ?

 

翔太:えと、女優さんたちが、すんげぇキレイでした!

 

昭二:だよなぁぁぁ!

 

和子:どこ見てんだよ!こんの、エロ親父とエロガキがぁぁぁ!!

 

-再び、和子のパンチが来そうになる

-昭二と翔太、同時に


昭二:かずちゃんんんんん!落ち着いてぇぇぇぇ!

翔太:ぬぉぉぉぉぉ!!

 

和子:翔太ぁ!

 

翔太:ひゃいいい!!

 

和子:お前に宿題を出す。夏目漱石『こころ』を読め。そして、感想文を書いて提出しろ

 

翔太:え、感想文?

 

昭二:かずちゃん。読むのはいいけど、感想文提出はやりすぎ―

 

和子:(被せて)もし!!単にあらすじと、とってもよかったです!とかいう小学生みたいな感想文を書いてきたら(ドスを利かせて)お前の命はないと思え

 

昭二と翔太:そんなぁぁぁぁぁ!

 

【間】

 

翔太:…でも、俺、読んでみます…

 

和子:よーし!よく言った!逃げずに取り組む姿勢!これが大事なんだ!

 

昭二:はぁ…今日のかずちゃんのテンション、すげぇ疲れんな…

 

和子:あんだぁ?文句あんのかぁ?しょうちゃんよぉ

 

昭二:ないデス!

 

翔太:即答!

 

和子:…翔太。趣味は?

 

翔太:あ、ライブはいきますけど…

 

和子:ライブ行くの?

 

翔太:はい。好きなバンドがいまして…

 

和子:あ~、そう。へぇ~!私もさぁ、若い時は、バンドでボーカルしてたんだよねぇ

 

翔太:マジっすか?カッコいいっすね!

 

和子:だろぉ?ファンも結構多かったんだよ?”クイーンKAZU”って言われてたんだから

 

翔太:キングカズみたいっスね!


昭二:カズのことは知ってるんだな。


翔太 :サッカーも好きなんス!


昭二:俺も聞きに行ってたぜ。かずちゃん、サイコーにかっこよかったゼーット!思い出すと目頭が熱くなるゼーット!

 

和子:うざい

 

翔太:スゲー!聞きたかったなぁ!

 

和子:いつでも聞かせてやるよ。なんならこれからカラオケでも行くか?翔太はどんなの歌うのよ

 

翔太:あ…、いや、俺、音痴なんですよね…

 

和子:音痴だぁ?お前、声優目指してんだろ?レッスンしてるんだろ?

 

翔太:そうなんですけど、なんかリズムに乗れないというか、音程がとれないというか…


昭二 :俺も、いつもかずちゃんにボロクソに言われるんだぜ?


和子 :昭ちゃんの場合は、よくそこまでメロディー無視できるなって、逆に感心しちゃう。大爆笑。


昭二 :あれ、笑いすぎな。

和子:いいか、翔太。音痴は直せる。音痴にも種類がある。耳が悪い、音域が狭い、コントロールができない。翔太はどの音痴だ?

 

翔太:いや、わかんないス。カラオケで歌うとみんなに言われるんス

 

和子:じゃあ、耳が悪いんだな。そしたら、まずは録音して客観的に自分の声を聞くこと。で、ボイトレに誘導してもらいながらしっかり合わせて、正しい音程で歌う経験値を増やすこと。一番合わせやすいのは人の声だからな。養成所でもあるだろ?ボイトレ。ちゃんとレッスン受けてんの?

 

翔太:なんか恥ずかしくて…

 

和子:んなこと言ってる場合かぁ?音痴な声優なんていらないんだよ!

 

翔太:ですよね…

 

和子:それで、自分の声がどのくらい外れているのか自覚する。次に、聞いた音と歌う音を一致させる。そこまでいければ、『コントロールができない音痴』に昇格!おめでとうございます!

 

翔太:あ、まだ音痴なんですね…

 

和子:歌も深いんだよ。『歌は心』なんて言うけどさ、まずは技術なんだよ!

 

翔太:そうなんですね…。でも、なんか俺、やる気でてきました!

 

和子:よーし、その調子だ。翔太、お前はできる子だ。頑張れ(肩叩く)

 

翔太:はい!

 

昭二:翔太、今度、寄席に連れてってやる。ライブもそうだが、なんでも生が一番だからな

 

翔太:行きたいっス!

 

和子:じゃあ、連絡先交換だ!

 

翔太:LINEで!

 

昭二:LINE…。娘にいれてもらったけど、友だち追加の仕方がわかんねぇんだよ。俺、友だちいねぇんだよ。機械オンチなんだよぉぉぉぉ(泣)

 

翔太:任せてください!俺、得意なんです!俺でよければ友だちにしてください!

 

昭二:翔太ぁ…泣かせてくれるねぇ。お前はいい奴だ…

 

和子:頼もしいねぇ。私は旦那や息子には絶っっっ対聞かない!バカにされるから。自分で調べる!

 

翔太:その方が身につくんですよね!

 

和子:言うじゃないの…。その言葉、そっくりそのまま返してやんよ!

 

翔太:ハハ、そうでした。―でも、俺マジで頑張ります

 

昭二:よし、その調子だ。じゃあ今日は友だちになった祝いだ。ここは俺が奢ってやる!翔太、なんでも好きなモン頼め!

 

翔太:いいんスか?

 

昭二:おぅよ。男に二言はねぇ

 

和子:武士に二言はない!

 

翔太:武士だったんですか(笑)じゃあ、お言葉に甘えて。ん~・・・好きなもの・・・何にしようか・・・

 

昭二:じゃあ、嫌いなもんはあるか?


翔太 :そうっスね。(しばらく考えて)・・・あ!まんじゅうっス!!


昭二 :お、言うじゃねぇか


和子 :翔太、お前かわいいなぁ。よし、お持ち帰り決定!

 

翔太 :へへへ・・・(照れ笑い)


ーみなで笑う


Fin.